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5.異変
しおりを挟む5.異変
「ロット‼」
「ちっ、防御力だ!もう一回頼む!」
「ロット‼」
「くっ、よしっ!」
ザシュ。
彼らの戦闘スタイルは、かなり特殊である。ズイは、ステータスが理想値をたたき出すまで、ひたすら攻撃をかわし、ここぞというタイミングで一閃。あまりにも運頼りだが、豪快でもある。しかし――
「なあリエン。最近ロットの精度、悪くないか」
「いや私のせいじゃないでしょ。でも、確かにそうかも」
「だよなあ。しかも最近、結晶の量が多くないか?」
「うん・・・。なんか、得体が知れない分、少し不気味だよね」
「大切な思い出じゃなかったのかよ」
「最初はそうだったけど、こうも出血大サービスされると、さすがに少し怖いよ」
二人の言うように、結晶の量が日に日に増している。これがなんなのか分からないことには、不安は拭えない。「ロット」に関しても、未知の魔術であり、使い続けるのも気が引けてくる。しかし、彼らはこれ以外の方法を知らない。
「おまけに、なんだか最近身体が、というか頭が重いんだ。だるいというか。リエン、もしかしてこっそり『サンデーアフタヌーン』でもかけてる?」
「そんな奇怪なデバフ知らないよ。正直、分からないことが多いよね、大丈夫なのかな」
「不安はあるけど、でも間違いなくこれが最適解だろ。こんな凹凸ばっちりハマったコンビもそうそういないぜ」
このズイとリエンのコンビは徐々に知名度が上がってきており、「セリフォン」でもちょっとした有名人である。
「『リエン』と『ズイ』で『延髄』か。悪くない響きだぜ」
「誰がつけたんだろう。全然可愛くないよ」
この日も、頭の上に残った疑問符を、有象無象のモンスターとともに切り捨てた。
セリフォンに戻ると、街がいつもより騒がしかった。
「なんだ、この騒ぎ」
「おい!聞いてくれよ延髄!魔王軍が『リンバイ』に侵攻を始めてるって!」
「はあ⁉だって、前に来たのが・・・」
約100日前。
「魔王軍の襲来周期が極端に早まってる・・・」
魔王軍は普段、ズイたちがいる世界、「リンバイ」ではない異空間、「ギール」に拠点を置いている。しかし、ある周期ごとに、「人類の脅威」として「リンバイ」に襲来する。「リンバイ」の征服ではなく、あくまでも「人類の脅威」としてやってくるのであり、地球で考えれば周期的にくる自然災害の類である。この魔王軍襲来に備え、乗り越えることで「リンバイ」は進化してきたという過程がある。だから、魔王軍がやってくること自体はさほど取り立てて騒ぐようなことではない。だが――
「今までは300日ごとだったろ・・・。」
多少のブレはあれど、大体は300日の周期で脅威は「秩序を保って」訪れていた。しかし、ついにその「秩序」が失われたというのか。
「とりあえず、俺は辺境の職人に迅速な防壁の建設を依頼してくる!延髄も今回から前線かもしれないから、準備しておけよ!」
これまでは名もない勇者と魔法使いだった二人。そんな二人が、よりにもよってこの未曽有の状況下で、前線に駆り出されるかもしれない。
「どうしよう、なんだか嫌な予感しかしないよ、ズイ、私逃げたい」
「リエン、そうしたらみんなはどうなる?世話になってるダダ、良くしてくれる勇者の仲間を見捨てて逃げるのか?」
「でも、なんかおかしいよ!私たちの戦闘ですら不安でいっぱいなのに・・・。突然の魔王軍の襲来に、前線で戦闘、もう抱えきれないよ」
「一緒に約束しただろ、二人で逆転するって。俺たち二人ならできないことはない!」
「もう無理だよ‼」
「なっ・・・」
「もう、無理だよ。怖いよ・・・。私はただ、ズイと一緒に・・・」
リエンの言葉を遮って、セリフォン中に声が轟いた。
「魔王軍が来たぞ‼方角は・・・まっすぐ、このセリフォンに向かってる‼」
・・・
「ん、あれ?」
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。でも、どうして?確か、魔王軍がイレギュラーに侵攻してきて、なぜかセリフォンにまっすぐ向かって来てて・・・。それで・・・。
「やっと会えましたね、ズイ」
「⁉、お前は!」
「いい加減『お前』呼びも直っているかと思いましたが、相変わらずですね」
「今までどこ行ってやがった!お前に連れてこられたんだぞ!世界を救うため・・・そうか、つまり今回の魔王軍襲来を劇的に止めるために‼」
「黙れ」
「なっ・・・!お、おい、お前、本当にスルズか・・・?」
あの時感じた親近感、魅力的な要素が全くない。むしろ今は、鬼気迫った威圧感すら覚える。
「なあ、ズイ。お前だったらどうする・・・?自分が良かれと思って必死になってもがいた結果が、直視できないような『地獄の沙汰』だったら・・・?」
「お、お前、何が言いたい?」
「フン、もうとっくに気付いているのではないか?気づいていないフリ・・・。貴様の方が『逃げている』のではないか?」
「逃げてなんか・・・って、おい‼リエンは‼リエンは無事なんだろうな‼」
「リエン・・・?ああ、あいつか。あいつもぐっすり寝ているよ・・・」
あいつも?ってことはやはりこれは夢なのか?
「淡い期待は抱かない方がいい。ただむやみに傷つくだけだ。貴様も――リエンも変わらんな」
「い、いい加減にしろよ、ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと結論突きつけてみろよ‼」
「はっ!面白い。では、貴様を呼んだ本当の理由を教えてやろう」
視界が歪んで、額を伝う鈍色の汗が闇に飲まれる。朦朧とする意識の中、頭を金属バットで殴られ続けているような強烈な頭痛にまで、気を回す余裕はなかった。
5.異変 終
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