メンタルブレイク

エンリケ

文字の大きさ
5 / 8

5.異変

しおりを挟む

5.異変

「ロット‼」
「ちっ、防御力だ!もう一回頼む!」
「ロット‼」
「くっ、よしっ!」
ザシュ。
彼らの戦闘スタイルは、かなり特殊である。ズイは、ステータスが理想値をたたき出すまで、ひたすら攻撃をかわし、ここぞというタイミングで一閃。あまりにも運頼りだが、豪快でもある。しかし――
「なあリエン。最近ロットの精度、悪くないか」
「いや私のせいじゃないでしょ。でも、確かにそうかも」
「だよなあ。しかも最近、結晶の量が多くないか?」
「うん・・・。なんか、得体が知れない分、少し不気味だよね」
「大切な思い出じゃなかったのかよ」
「最初はそうだったけど、こうも出血大サービスされると、さすがに少し怖いよ」
二人の言うように、結晶の量が日に日に増している。これがなんなのか分からないことには、不安は拭えない。「ロット」に関しても、未知の魔術であり、使い続けるのも気が引けてくる。しかし、彼らはこれ以外の方法を知らない。
「おまけに、なんだか最近身体が、というか頭が重いんだ。だるいというか。リエン、もしかしてこっそり『サンデーアフタヌーン』でもかけてる?」
「そんな奇怪なデバフ知らないよ。正直、分からないことが多いよね、大丈夫なのかな」
「不安はあるけど、でも間違いなくこれが最適解だろ。こんな凹凸ばっちりハマったコンビもそうそういないぜ」
このズイとリエンのコンビは徐々に知名度が上がってきており、「セリフォン」でもちょっとした有名人である。
「『リエン』と『ズイ』で『延髄』か。悪くない響きだぜ」
「誰がつけたんだろう。全然可愛くないよ」
この日も、頭の上に残った疑問符を、有象無象のモンスターとともに切り捨てた。
 セリフォンに戻ると、街がいつもより騒がしかった。
「なんだ、この騒ぎ」
「おい!聞いてくれよ延髄!魔王軍が『リンバイ』に侵攻を始めてるって!」
「はあ⁉だって、前に来たのが・・・」
約100日前。
「魔王軍の襲来周期が極端に早まってる・・・」
魔王軍は普段、ズイたちがいる世界、「リンバイ」ではない異空間、「ギール」に拠点を置いている。しかし、ある周期ごとに、「人類の脅威」として「リンバイ」に襲来する。「リンバイ」の征服ではなく、あくまでも「人類の脅威」としてやってくるのであり、地球で考えれば周期的にくる自然災害の類である。この魔王軍襲来に備え、乗り越えることで「リンバイ」は進化してきたという過程がある。だから、魔王軍がやってくること自体はさほど取り立てて騒ぐようなことではない。だが――
「今までは300日ごとだったろ・・・。」
多少のブレはあれど、大体は300日の周期で脅威は「秩序を保って」訪れていた。しかし、ついにその「秩序」が失われたというのか。
「とりあえず、俺は辺境の職人に迅速な防壁の建設を依頼してくる!延髄も今回から前線かもしれないから、準備しておけよ!」
これまでは名もない勇者と魔法使いだった二人。そんな二人が、よりにもよってこの未曽有の状況下で、前線に駆り出されるかもしれない。
「どうしよう、なんだか嫌な予感しかしないよ、ズイ、私逃げたい」
「リエン、そうしたらみんなはどうなる?世話になってるダダ、良くしてくれる勇者の仲間を見捨てて逃げるのか?」
「でも、なんかおかしいよ!私たちの戦闘ですら不安でいっぱいなのに・・・。突然の魔王軍の襲来に、前線で戦闘、もう抱えきれないよ」
「一緒に約束しただろ、二人で逆転するって。俺たち二人ならできないことはない!」
「もう無理だよ‼」
「なっ・・・」
「もう、無理だよ。怖いよ・・・。私はただ、ズイと一緒に・・・」
リエンの言葉を遮って、セリフォン中に声が轟いた。
「魔王軍が来たぞ‼方角は・・・まっすぐ、このセリフォンに向かってる‼」

・・・

「ん、あれ?」
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。でも、どうして?確か、魔王軍がイレギュラーに侵攻してきて、なぜかセリフォンにまっすぐ向かって来てて・・・。それで・・・。
「やっと会えましたね、ズイ」
「⁉、お前は!」
「いい加減『お前』呼びも直っているかと思いましたが、相変わらずですね」
「今までどこ行ってやがった!お前に連れてこられたんだぞ!世界を救うため・・・そうか、つまり今回の魔王軍襲来を劇的に止めるために‼」
「黙れ」
「なっ・・・!お、おい、お前、本当にスルズか・・・?」
あの時感じた親近感、魅力的な要素が全くない。むしろ今は、鬼気迫った威圧感すら覚える。
「なあ、ズイ。お前だったらどうする・・・?自分が良かれと思って必死になってもがいた結果が、直視できないような『地獄の沙汰』だったら・・・?」
「お、お前、何が言いたい?」
「フン、もうとっくに気付いているのではないか?気づいていないフリ・・・。貴様の方が『逃げている』のではないか?」
「逃げてなんか・・・って、おい‼リエンは‼リエンは無事なんだろうな‼」
「リエン・・・?ああ、あいつか。あいつもぐっすり寝ているよ・・・」
あいつも?ってことはやはりこれは夢なのか?
「淡い期待は抱かない方がいい。ただむやみに傷つくだけだ。貴様も――リエンも変わらんな」
「い、いい加減にしろよ、ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさと結論突きつけてみろよ‼」
「はっ!面白い。では、貴様を呼んだ本当の理由を教えてやろう」
視界が歪んで、額を伝う鈍色の汗が闇に飲まれる。朦朧とする意識の中、頭を金属バットで殴られ続けているような強烈な頭痛にまで、気を回す余裕はなかった。

5.異変 終
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...