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神隠し
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開戦を告げる矢の嵐が、一斉に海へと放たれた。
最前にいた物の怪どもに大量の矢が突き刺さる。
こちら側に向かって進み出ようとする物の怪どもは次々に矢の的にされ、灰となり消えていく。不思議な事に生き絶えたであろう物の怪どもは死体を残さず灰となって消え去っていくのである。だが灰となり消えた後には、複数の物体が地面に転がるように物の怪の体から落ちていく。
「物の怪が消えた時に体から落ちていく物体は何なんですか?」
物の怪が灰となると複数の小さな物体が転がり落ちる。
そんな複数の物体の一つは月明かりで赤黒く光るゴツゴツとした丸い物体で、まるで大きな宝石のように見える。この赤黒い球は物の怪がやられる度に絶対に一個は落ちてくる。だが他の物体に関しては物の怪毎に見た目はまちまちで、赤い毛皮のような物体であったり、白や黒に輝く鉱石だったりと多種多様だ。
「合戦をご覧になるのは初めてなのですね。あの赤黒い球は魔玉と申します。魔玉は物の怪の心臓になります。そして、それと一緒に落ちてくる皮や鉱石は妖材と呼ばれております。その妖材は物の怪の種類毎に異なります。妖材であるあの赤い毛皮は、火鼠の衣と呼ばれておりまして、めっぽう火に強い摩訶不思議な毛皮です。それとあの白く輝く鉱石は白吉鋼と言いまして、あの鋼で作った刃は石をも切り裂くと有名なのです。」
隣で一緒に合戦を眺めている吉兵衛は、興奮気味にそう語った。
ちなみに火鼠の衣は大型犬程の大きさの鼠型の物の怪がやられた時に出現し、白吉鋼はゴツゴツとした人型の物の怪が倒された時に出現した物である。それ故に妖材とは物の怪に縁がある物体になるのだろう。
その間にも降り注ぐ矢の嵐は凄まじく、物の怪が海から這い出ようとする隙すら与えない程に苛烈さを極めていた。
また櫓の上から俯瞰して見ることで、合戦の陣形、戦線というのがはっきりと見てとれる。
最前線にあたる戦線は防塁のさらに前に築かれた陣地である。竹束や板の盾、柵を敷く事で物の怪の侵入を防ぎつつ和弓で次々と敵を射殺している。
そして次に控えている戦線は防塁だ。防塁は2メートルは届かなくても人の背丈程はある高さで、海岸に沿うようにずらりと並んでいる。その防塁の上でも勇ましく弓兵達が矢を射かけているのだ。
そして最後の戦線が城壁にあたる。城壁の上や、狭間と呼ばれる城壁に空いた小さな穴から弓兵が矢を放っているのは勿論、城壁の内にも大量の兵士達が詰めており、投石を行う部隊もいる。投石部隊は腕をぐるぐると回しながら礫を空高く海へと投げ飛ばしていた。
「これはかなり優勢ではないですか?」
戦線をパッと見てみても、物の怪どもがやられる姿は見えるが、こちら側の兵士達がやられている姿は見かけない。それと言うのも、俺の視界の内では、未だに最前線である陣地にすら物の怪が辿り着けていないのだ。
「まだ、始まったばかりなので何とも言えませぬ。まだ奴らも射掛けてきませんから。ですが、そろそろ奴らも動き始めるでしょう。」
吉兵衛の言葉に、物の怪どもも矢を放ってくるのだろうかと不思議に思っていると、彼は急に俺の前へと歩み出た。
「物の怪どもの攻撃が始まります故、流れ弾にお気をつけ下さい。」
そう言って遮るように俺の前へ立った吉兵衛は、下がるように俺へ促した。
「あの物の怪どものほとんどが下格です。流石にここまで流れ弾が飛んでくる事は少ないでしょうが、念のためお気をつけ下さいませ。それに中格、上格が出始めれば、今の優勢を保つのも難しいでしょう。いざとなれば私がお守りいたします。」
「げかく?ですか?」
「物の怪の強さで呼び方を変えているのです。一番弱き物の怪を下格と呼び、中格、上格となる程に強くなります。下格であれば足軽である我々でも殺せますが、中格、上格ともなればお侍様でなければ太刀打ちできません。」
そう吉兵衛が説明してくれた時、今まで降り注いでいた矢の向きとは反対方向、もとい海の方向から矢や石が放たれ始めた。
「こりゃぁ、ひどい。いつもより数が多いですな。楠木様、お気をつけ下さいませ。」
物の怪どもの中には明らかに人型で、人間のように弓を持ち矢を放っている物の怪も混ざっている。
他にも石を力に任せて投げ込んでくる奴や、フィクションに出てくる魔法のように空中に尖った矢や槍状の物体を出現させ、こちら側に放ってくる奴もいる。
しまいには体の一部に筒のようなものが付いており、銃のように撃ち込んでくる奴さえ混じっている。
その頃にはこちらの兵士達にも死傷者が出始めたようで、先程よりも物の怪達が最前線に近づいてきていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「安心して下さいませ。こちらには関東の強者と名高いお侍様が備えております。それに十二神将様も控えていると噂されております。そうそう負けはいたしません。」
目の前で起きている理解し難い戦場の様子に、恐怖や疑念を抱いたからだろうか、俺の足がわずかに震えている。
目の前の吉兵衛という細身の男は俺より少しだけ背が低い。どこか頼りなさそうに見える幸の薄そうな見た目をしているが、今だけは彼の背中が大きく感じてならない。
だが、彼の弓を持つ右手が力一杯に、赤くなるほどに握りしめられ、小刻みに震えている様子から、先程まで感じていた安心感や安堵感は消えていく。
「あの、吉兵衛さんもやはり怖いのですか?」
「ん?怖いですか?何がでしょう?」
彼は俺の問いを聞き振り返ると、本当に理解できていないようで、眉を上げながら俺の問いの意味について聞き返してきた。
「物の怪というか、目の前の戦場がです。」
俺の問いに対して軽く笑った吉兵衛は、どこかギラギラと輝く視線で戦場を振り返りつつ、胸を張った。
「怖い訳がありましょうか。目の前の名だたる猛将達の戦い様に胸が熱くなって仕方ないのです。それに物の怪を殺し魔玉を手に入れれば恩賞が貰えます。今すぐにでも物の怪の一つや二つ射抜き殺してやりたいものです。あぁ、武者震いが止まりません。」
そう言って右手の和弓で軽く床を叩いてみせた吉兵衛は、戦場を見やり不敵な笑顔を浮かべていた。
そんな頼しげな彼の姿に安心する気持ちが半分、怖い気持ちが半分、複雑な感情が浮かびあがる。
平和な現代日本に生きていた自分からすれば、殺し合いなど経験した事がない。住む世界が全く違う、だがそんな世界に不思議な事に迷い込んでしまったのだ。
俺があんな化物どもを目の前にしていたら腰を抜かし逃げ出していただろう。しかし目の前の戦場で戦う人間達は、そして目の前の吉兵衛はどこまでも勇ましい。
「あぁ、、、早く帰りたい。」
怒号や爆発音に俺の小さな呟きは力なく宙でかき消される。
そして俺の複雑な心境も、そんな小さな独り言も、何もかも消し去るような大きな叫び声が海から木霊した。
「グゥギャャャャャアアアァァァァァアアァァ!!!」
その咆哮だけで心臓が縮み上がり、胸が締め付けられる。
「中格、それもかなり強い物の怪が現れました!!」
吉兵衛は櫓の柵から乗り出すように、興奮気味に海を指さした。俺は恐る恐るその指の先を辿っていくと、波際に巨大な影が浮かび上がっていた。
まるでワニのような見た目で、手足や胴体がかなり太い。大型のトラックに負けず劣らずの巨躯を持ち、剥き出しの牙は子供くらいの大きさはある。。そんな不気味な化物が、赤黒い目をギョロギョロと動かしながら、周囲を見渡していたのだ。
最前にいた物の怪どもに大量の矢が突き刺さる。
こちら側に向かって進み出ようとする物の怪どもは次々に矢の的にされ、灰となり消えていく。不思議な事に生き絶えたであろう物の怪どもは死体を残さず灰となって消え去っていくのである。だが灰となり消えた後には、複数の物体が地面に転がるように物の怪の体から落ちていく。
「物の怪が消えた時に体から落ちていく物体は何なんですか?」
物の怪が灰となると複数の小さな物体が転がり落ちる。
そんな複数の物体の一つは月明かりで赤黒く光るゴツゴツとした丸い物体で、まるで大きな宝石のように見える。この赤黒い球は物の怪がやられる度に絶対に一個は落ちてくる。だが他の物体に関しては物の怪毎に見た目はまちまちで、赤い毛皮のような物体であったり、白や黒に輝く鉱石だったりと多種多様だ。
「合戦をご覧になるのは初めてなのですね。あの赤黒い球は魔玉と申します。魔玉は物の怪の心臓になります。そして、それと一緒に落ちてくる皮や鉱石は妖材と呼ばれております。その妖材は物の怪の種類毎に異なります。妖材であるあの赤い毛皮は、火鼠の衣と呼ばれておりまして、めっぽう火に強い摩訶不思議な毛皮です。それとあの白く輝く鉱石は白吉鋼と言いまして、あの鋼で作った刃は石をも切り裂くと有名なのです。」
隣で一緒に合戦を眺めている吉兵衛は、興奮気味にそう語った。
ちなみに火鼠の衣は大型犬程の大きさの鼠型の物の怪がやられた時に出現し、白吉鋼はゴツゴツとした人型の物の怪が倒された時に出現した物である。それ故に妖材とは物の怪に縁がある物体になるのだろう。
その間にも降り注ぐ矢の嵐は凄まじく、物の怪が海から這い出ようとする隙すら与えない程に苛烈さを極めていた。
また櫓の上から俯瞰して見ることで、合戦の陣形、戦線というのがはっきりと見てとれる。
最前線にあたる戦線は防塁のさらに前に築かれた陣地である。竹束や板の盾、柵を敷く事で物の怪の侵入を防ぎつつ和弓で次々と敵を射殺している。
そして次に控えている戦線は防塁だ。防塁は2メートルは届かなくても人の背丈程はある高さで、海岸に沿うようにずらりと並んでいる。その防塁の上でも勇ましく弓兵達が矢を射かけているのだ。
そして最後の戦線が城壁にあたる。城壁の上や、狭間と呼ばれる城壁に空いた小さな穴から弓兵が矢を放っているのは勿論、城壁の内にも大量の兵士達が詰めており、投石を行う部隊もいる。投石部隊は腕をぐるぐると回しながら礫を空高く海へと投げ飛ばしていた。
「これはかなり優勢ではないですか?」
戦線をパッと見てみても、物の怪どもがやられる姿は見えるが、こちら側の兵士達がやられている姿は見かけない。それと言うのも、俺の視界の内では、未だに最前線である陣地にすら物の怪が辿り着けていないのだ。
「まだ、始まったばかりなので何とも言えませぬ。まだ奴らも射掛けてきませんから。ですが、そろそろ奴らも動き始めるでしょう。」
吉兵衛の言葉に、物の怪どもも矢を放ってくるのだろうかと不思議に思っていると、彼は急に俺の前へと歩み出た。
「物の怪どもの攻撃が始まります故、流れ弾にお気をつけ下さい。」
そう言って遮るように俺の前へ立った吉兵衛は、下がるように俺へ促した。
「あの物の怪どものほとんどが下格です。流石にここまで流れ弾が飛んでくる事は少ないでしょうが、念のためお気をつけ下さいませ。それに中格、上格が出始めれば、今の優勢を保つのも難しいでしょう。いざとなれば私がお守りいたします。」
「げかく?ですか?」
「物の怪の強さで呼び方を変えているのです。一番弱き物の怪を下格と呼び、中格、上格となる程に強くなります。下格であれば足軽である我々でも殺せますが、中格、上格ともなればお侍様でなければ太刀打ちできません。」
そう吉兵衛が説明してくれた時、今まで降り注いでいた矢の向きとは反対方向、もとい海の方向から矢や石が放たれ始めた。
「こりゃぁ、ひどい。いつもより数が多いですな。楠木様、お気をつけ下さいませ。」
物の怪どもの中には明らかに人型で、人間のように弓を持ち矢を放っている物の怪も混ざっている。
他にも石を力に任せて投げ込んでくる奴や、フィクションに出てくる魔法のように空中に尖った矢や槍状の物体を出現させ、こちら側に放ってくる奴もいる。
しまいには体の一部に筒のようなものが付いており、銃のように撃ち込んでくる奴さえ混じっている。
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目の前で起きている理解し難い戦場の様子に、恐怖や疑念を抱いたからだろうか、俺の足がわずかに震えている。
目の前の吉兵衛という細身の男は俺より少しだけ背が低い。どこか頼りなさそうに見える幸の薄そうな見た目をしているが、今だけは彼の背中が大きく感じてならない。
だが、彼の弓を持つ右手が力一杯に、赤くなるほどに握りしめられ、小刻みに震えている様子から、先程まで感じていた安心感や安堵感は消えていく。
「あの、吉兵衛さんもやはり怖いのですか?」
「ん?怖いですか?何がでしょう?」
彼は俺の問いを聞き振り返ると、本当に理解できていないようで、眉を上げながら俺の問いの意味について聞き返してきた。
「物の怪というか、目の前の戦場がです。」
俺の問いに対して軽く笑った吉兵衛は、どこかギラギラと輝く視線で戦場を振り返りつつ、胸を張った。
「怖い訳がありましょうか。目の前の名だたる猛将達の戦い様に胸が熱くなって仕方ないのです。それに物の怪を殺し魔玉を手に入れれば恩賞が貰えます。今すぐにでも物の怪の一つや二つ射抜き殺してやりたいものです。あぁ、武者震いが止まりません。」
そう言って右手の和弓で軽く床を叩いてみせた吉兵衛は、戦場を見やり不敵な笑顔を浮かべていた。
そんな頼しげな彼の姿に安心する気持ちが半分、怖い気持ちが半分、複雑な感情が浮かびあがる。
平和な現代日本に生きていた自分からすれば、殺し合いなど経験した事がない。住む世界が全く違う、だがそんな世界に不思議な事に迷い込んでしまったのだ。
俺があんな化物どもを目の前にしていたら腰を抜かし逃げ出していただろう。しかし目の前の戦場で戦う人間達は、そして目の前の吉兵衛はどこまでも勇ましい。
「あぁ、、、早く帰りたい。」
怒号や爆発音に俺の小さな呟きは力なく宙でかき消される。
そして俺の複雑な心境も、そんな小さな独り言も、何もかも消し去るような大きな叫び声が海から木霊した。
「グゥギャャャャャアアアァァァァァアアァァ!!!」
その咆哮だけで心臓が縮み上がり、胸が締め付けられる。
「中格、それもかなり強い物の怪が現れました!!」
吉兵衛は櫓の柵から乗り出すように、興奮気味に海を指さした。俺は恐る恐るその指の先を辿っていくと、波際に巨大な影が浮かび上がっていた。
まるでワニのような見た目で、手足や胴体がかなり太い。大型のトラックに負けず劣らずの巨躯を持ち、剥き出しの牙は子供くらいの大きさはある。。そんな不気味な化物が、赤黒い目をギョロギョロと動かしながら、周囲を見渡していたのだ。
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