海が攻めてくる〜神隠しにあった俺は、異世界日本の戦国時代で、海から這い出る『物の怪』達から異世界日本を護ります〜

高田良真

文字の大きさ
3 / 5

物の怪

しおりを挟む
巨大なワニ型の化物が、赤黒い目をギョロギョロと動かしながら、周囲を見渡している。

それでも弓取り達は咆哮に怯む事なく中格と評されたその物の怪に矢を放っているのだ。しかし真面な傷をつけることはできていない。

表面を覆う鱗は厚く、矢は刺さる事なく弾き返されるのだ。腕の良い弓取りであれば、矢を突き刺す事もできるだろうが、致命的な損傷を与えられている気はしてこない。

その間にも奴は丸太のように太い手足を動かしながら、地を響かせて前へ進んでいく。

歩みは遅いが、確実に最前線の陣地へ近づいてきているのだ。

矢や礫など意にも返さず、前を進む小さな物の怪など踏み潰すが如く、着実に前進している。

「あ、あんなのにどうやって勝つんですか?」

俺は咆哮を聞いてから、嫌に鼓動を強くした心臓に急かされるように、吉兵衛に現状を尋ねた。

「あの物の怪は中格です。そこらの弓取りでは傷すら与えられません。足軽だけなら嬲り殺されるだけでしょう。ですが私達にはお侍様が付いております。あのような物の怪風情、必ずや討ち取ってくれるでしょう。」

今も矢や礫を弾き返しながら前進を続けるそんな物の怪を見ているのに、吉兵衛は自信満々に言いのけた。

こちらの世界が特異的なのだろうか。俺のいた世界で、あんな巨大な化物を1人で倒せるような人間は存在するはずがない。

いくら侍とはいえ人間なのだ。吉兵衛が足軽であるから持ち上げているだけなのではないかと、半信半疑にならざるを得ない。

だがそんな不安を払い除けるように、ある1人の人物が正面からワニ型の物の怪へと歩み出したのだ。

柵や盾で守りが固められている最前の陣地から堂々とした足取りで歩み出るその人物は、人の背丈を裕に超えた、6メートル近くある骨太の槍を持っている。槍の刃の長さだけでも1メートル近くはある。

そんな威容な槍を手にした人物は、紫に近い濃い青色の甲冑を見にまとっている。兜には大きな金の輪の、前立てと呼ばれる装飾がついている。

矢が降りしきる中、悠然と陣から歩み出て巨大な物の怪に近づく様は、勇猛という言葉でしか表現できないだろう。しかし俺にとっては、単に自殺しに行くようにしか見えなかった。

「おぉ、あのお方は高田様です。下総きっての槍使いと評判で、その猛々しい戦いぶりから鬼の太郎座と呼ばれておるのです。」

恐れる素振りすら見せず悠々とワニ型の物の怪の前へと近づいた高田様と呼ばれる侍は、刃先を物の怪に向け、槍を両手で構えた。

「グゥゥゥギュワワワワワァァァァァ!!!」

目の前の侍を威嚇するように殊更大きな声で泣き叫んだその物の怪は、手足を大きく地面に叩きつけ、口を大きく開け放ちながら顔をブンブンと振り回している。

そんな地響きに動じる事もなく、高田という侍は槍を横向きに大きく振りかぶった。

物の怪の方はというと、人間など丸ごと飲み込んでしまえそうな程に大きな口を、これでもかと開け放ち、そのまま手足を大きく動かしながら勢いよくその侍に迫っていったのだ。

このままでは絶対に殺されてしまう。

「食われるっ」、そんな小さな悲鳴にも似た呟きを発したその瞬間、槍の刃先から赤く煌く炎が力強く噴き出した。

辺りを照らす松明など豆電球にしか思えなくなるくらいに強く輝くその炎に、思わず目を見張る。

火が吹き出る仕掛けになっている槍という訳ではないだろう。魔法や魔術、妖術の類としか思えない光景なのだ。

そしてワニのように先に飛び出た口が、その侍を噛み砕かんと残り5メートルという所まで接近した時だった。

その侍は火炎を孕んだ槍を横薙ぎに力強く振り払ったのだ。

刹那、目を塞ぎたくなるほどに輝く火炎が、ワニの物の怪を包み込み、爆発音をあげながら奴を吹き飛ばしていったのだ。

「中上家家臣、高田太郎座衛門実光さねみつ一番槍ぃぃぃ!!!」

力強く響き渡ったその口上に、一斉に歓声の声が広がる。

「うおおぉぉぉぉぉ!!」

目の前の吉兵衛も柵を拳でダンダンと叩きながら興奮しているようだ。

「あの、今の炎は何ですか!?」

周りのどよめきや歓声で、俺も多少気持ちが昂ってしまい、興奮気味で吉兵衛に炎の理由を尋ねた。

「高田様はほのおかたを修めているのです。私も今の槍捌き以上の技の冴を見た事ありません!!」

「ほ、炎ノ型とは何ですか?」

俺の質問に少し煩わしそうに眉を寄せた吉兵衛であったが、興奮したように身振り手振りで説明してくれた。

「日ノ本六陣ろくじん剣道形はご存知ですか?」

俺は彼の問いに申し訳なさそうな表情を浮かべ、知らないと否定する。

「炎ノ型は日ノ本六陣剣道形の中の一つの型です。他にはかぜノ型、はやしノ型、やまノ型、かげノ型、いかづちノ型がございます。この剣道形を使えるのはお侍様だけなのです。そして中格より上の物の怪であれば、この剣道形の型を習得していなければ太刀打ちすらできないのですよ。」

日ノ本六陣剣道形など聞いた事がない。

それに、その炎ノ型とやらを習得していると、槍から炎を出せるようになるなんて、全く理解できない。

「おぉ、ご覧ください。あのお方は和田様です。武蔵の大熊と呼ばれる、山ノ型を使いこなすお侍様でございます。」

そう言って次に指さした方向にいる人物は、赤い甲冑を身につけ、角のような飾りがついた兜を被った大男だった。

気づけばその男が向かおうとする先にも、巨大な物の怪が現れていた。姿とすれば猪に近いだろう。巨大で捻れた牙を前面に突き出し、前足をバンバンと地面に叩きつけている。

そんな猪の物の怪に怯む事なく、その和田という侍は一歩ずつ近づいているのだ。

両手には2メートル以上ある長巻と呼ばれる柄の長い日本刀を携えている。

「ブルゥゥゥオオオォォォォォォ!!!」

耳が張り裂けてしまうかと思うような雄叫を響かせながら、一気に加速し、猛スピードでその侍に突っ込んでいく。

その姿は正に猪突猛進。

そんな猪の物の怪を正面から見据え、ゆっくりと落ち着いた様子で、長巻を防御するために前へと突き出す。

次の瞬間には、けたたましい破裂音を響かせ、侍と物の怪が衝突した。

物の怪の体長は5メートル近い。

そんな馬鹿でかい化物が突っ込んできたのだ。

それなのに、それなのに侍は微動だにしない。逆にジリジリと押し返しているようにすら見える。

そして、何という事だろう。自分より何倍も大きな物の怪をなんと弾き飛ばしてしまったのだ。

俺は口をあんぐりと開けながらその光景を眺めている。

だが驚愕のシーンはこれでも終わらない。

弾き返され勢いよく後ずさったその物の怪を、下から上へと長巻で一息に切り去ったのだ。その斬撃は地を裂きながら斬撃波のように猪を両断し、さらに奥へと突き進む。

そして、そんな斬撃に呼応するように尖った岩が地面から迫り出し他の物の怪達を突き刺していく。

猪の物の怪は灰となって消え去っていく。その姿を見届けた和田という侍は長巻を天へ掲げながら声を張り上げた。

「春日家家臣、和田又左衛門真行さねいき一番首也ぃぃぃ!!!」

そんな侍達に触発されたであろう他の兵士達は、雄叫びをあげながら陣から海にいる物の怪どもに向かって、突撃を開始したのだった。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...