海が攻めてくる〜神隠しにあった俺は、異世界日本の戦国時代で、海から這い出る『物の怪』達から異世界日本を護ります〜

高田良真

文字の大きさ
5 / 5

十二神将

しおりを挟む
突如現れた巨大な鬼の物の怪は、退却を始める兵士達を嘲るように見下ろしている。

そんな奴が握る金棒は10メートル近くはある化物だ。そんな物をあの巨体が振り回す姿は地獄絵図としか喩えようがない。

だが奴は右手に握っていたそんな金棒をゆっくりとした手つきで両手で握りしめたのだ。

ダメだ、やめろ。

心の中で何度もそう繰り返しても、勿論のこと奴が止まる事はない。

あらかたの兵は陣や防塁へ退避しているものの、前に出過ぎていた兵は海岸に取り残されている。

ブオォンッ

金棒を勢いよく振り上げるだけで、死を告げる不気味な風の音が辺りに響き渡る。

「ドルゥゥアアアァァァァァァァッッ!!!」

そんな悪魔のような叫び声と同時に、大地を揺るがす程に大きい爆発音が轟いた。その音の正体は金棒が地面に叩きつけられる音。

振り下ろされた金棒は、その周囲にいた兵士を物の怪ごと消し飛ばした。だが、それだけではその暴威は治らない。地を砕きながら突き進む衝撃波は陣地や防塁へと突き進んでいくのだ。陣地まであと一歩の所まで逃げ返していた兵士達を吹き飛ばしながら進む衝撃波。

そんな悍しい衝撃波に陣地や防塁まで破壊されてしまっては目も当てられない大惨事となるだろう。

嫌な想像が頭を駆け巡る。

しかし、その衝撃波を真正面から受ける形で突如として陣地より歩み出た1人の侍の姿を見て、思わず目が釘付けとなる。

ドゴォォォォォォッッ

衝撃波はそんな侍に衝突する。遠目から見ていた俺からすれば、抵抗すらできずにその侍は消し飛ばされ、陣地や防塁が砕け散る姿が目に浮かんだ。

しかし、爆風や土煙が消えた後に見えた風景は真逆のものだった。多少破壊された跡は見えるものの陣地は無傷で、その侍も満身創痍で片膝を突いてはいるものの無事であったのだ。

「あの方は山の型を使います永谷様です。山の型は守りに特化した構えですが、まさかあの物の怪の攻撃を凌ぐなんてっ。」

山の型や炎の型にはそれぞれ特徴があるようだ。

そして山の型は守りに特化しているらしい。しかし吉兵衛自身もあの上格の攻撃を永谷と呼ばれる侍が止められるとは思っていなかったようで、かなり驚いているようだ。

だが安心してもいられない。なんせまだ初撃を凌いだだけなのだから。

苛立たしげな表情を浮かべた鬼の物の怪は、金棒を肩に背負うと、一歩ずつゆっくりと前進を始めた。

その姿は死の権化。

衝撃波を防ぐだけで型を使える侍1人が瀕死となるのだから、今の状況であの物の怪を倒す方法なんて思い浮かぶはずがないのだ。

誰もが死を感じ、悲壮感が漂い始める戦場。士気は完全に落ち、目の前の吉兵衛でさえ苦しそうに眉をひそめていた。

しかし唐突に戦場の左手で、そんな悲惨な現状など吹き飛ばしてやろうかと言うように、どよめきと同時に、歓喜にも似た叫び声が木霊してきたのだ。

顔を下げていた吉兵衛は驚いたように戦場の左側を確認し、目が飛び出してしまうのではないかと思うほどに驚愕の表情を浮かべ歓声を上げた。

「お、応龍姫だ。応龍姫が参りました!!十二神将が助けに来てくださったのです!!」

姫。

あの屈強な足軽や、人智を超えた力を持つ侍達ですら敵わないような化物に、姫と名乗る人物が勝てるとは思えない。

「そ、その人は強いんですか?」

半信半疑で尋ねる俺に、吉兵衛は身振り手振りで大きく表現しながら、その人物について説明してくれた。

「強いも何も、十二神将が1人です。林ノ型で範士号を授かっており、たつノ方角を守護する女傑です。」

単語単語の意味は理解できない。しかし吉兵衛の表情を見れば、彼女は足軽や侍などとは比較できない程に強い人物である事は何となく理解できた。

戦場の左手から鬼の物の怪に向かって一直線に飛翔するそんな彼女は天女のように美しい。黒い長髪が月明かりに照らされ妖艶に輝いている。赤と緑を基調とした着物と、軽装の鎧は動きやすいように工夫されており、握りしめる薙刀は彼女の身の丈を裕に超え、2メートル超えの長さを誇っている。

ポニーテールのようにまとめた髪と、着物の裾を羽ばたかせながら勢いよく天翔る様子は、見る者誰もが魅了されるに違いない。

そして恐れるどころか歓声を上げ出した兵士達に怒りの表情を現わにした鬼の物の怪は、遠くからでも分かる程に青筋を浮かべている。

そしてその表情のまま、力強く右側に金棒を振りかぶる。奴は横薙ぎの攻撃を仕掛けるつもりのようだ。

「林ノ型、月葉切りつきのはぎり

優しく音色のように響く少女の声。

「グゥワワワアアァァァァァァァ」

反面、鬼の物の怪からは悲痛に叫ぶ唸り声が響き渡った。それもそのはず、その物の怪の右腕が深々と切り裂かれていたのだ。

月葉切りと声を発した少女は、その声と同時に構えていた薙刀を振り払った。宙の何もない場所で刀を振ったところで何も起きるはずがない、そう思っていた。しかし、振られた薙刀からは、それこそ三日月のような形をした薄緑の斬撃波が放たれたのだ。

その斬撃波は金棒を振りかぶっていた鬼の物の怪の右腕を直撃し、深々と切り裂き、奴に悲鳴を上げさせたようだ。

物の怪の右腕は力なくダラリと垂れ下がる。

それを好機と見たのか、少女はさらに奴へと近づく。

いくら彼女が強いとはいえ、流石に近づき過ぎるのは、油断しているとしか思えない。

そんな俺の不安を的中させようと、鬼の物の怪は左手の金棒を投げ捨て、彼女を殴り飛ばそうと左手の拳を空中にいる彼女に叩きつけたのだ。

それなのに、彼女は余裕綽綽という様子で優雅に拳を凌いでみせた。

鬼の物の怪の左手は、勢いはそのままに宙を空振る。

「林ノ型、柳垂やなぎだれ

無防備となった鬼の物の怪に対し、彼女は一息で真上から薙刀をもって叩き切った。

その薙刀には翡翠色の炎のようなものをまとっており、真っ直ぐ切り下ろした直後、鬼の物の怪の全身がその炎に包まれたのだ。

翡翠色の炎のようなものは、離れた位置から見てみれば、名前のように垂れた柳のように見える。

「ありゃぁ、あの世へ送る枝垂れしだれ柳でさぁ。」

吉兵衛は感嘆するように息を吐きながらそう呟いた。

その例えは言い得て妙だ。枝垂れ柳のように見えるそれは畏怖の念を抱く程に神々しい。そして垂れ下がる柳はどこかこの世の物とは思えない、おどろおどろしさも備えているのだ。

あの柳垂という攻撃が、上格と呼ばれる強力な物の怪さえ倒してしまう妙技であるなら、それこそあの世へ送るという表現は噛み合うように感じられる。

そして数秒間煌めいていた翡翠色の炎が消え去れば、そこに残っていたのは大きな魔玉と複数の妖材だけであった。

「「「えいえいおー!!!えいえいおー!!!えいえいおー!!!」」」

戦場全体から、櫓を揺るがす程に力強い歓声が広がっていく。

「鬨の声だ!!えいえいおー!!!えいえいおー!!!」

驚いている俺を他所に、吉兵衛は掛け声に合わせるように同じく歓声を上げた。

その直後には、城壁や防塁、陣地から一斉に兵士達が突撃を開始し、残った物の怪達を一掃し始めたのだ。

その頃には新たに出現する物の怪もおらず、我先にと物の怪へと攻撃を開始する兵士達の姿は、正に蹂躙という文字が相応しい。

そしてその後、30分もかからず物の怪達を掃討し、見事に人間が勝利を収めたのだった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...