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5.雪解け
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暗い部屋。
カーテンも閉め切って何もかもを遮断した部屋で一人蹲っていた。
机の上にはシンプルなガラスの花瓶に刺さった1本の茎。その先についた花弁はとうに萎れて机の上で息絶えていた。乾いた最後の一枚がクーラーの風に揺れるのもなんだか鬱陶しくて、視線を彷徨かせては舌打ちをする。きっとそこまで苛つくのは、その姿が今の自分に重なって耐えられないからだろうな。
急に満開から枯れるわけじゃない。少し、また少しと見えない何かが重なって気付いた頃にはカラカラになってる。気付かなかった訳じゃない、分かってて見逃した結果がこれだ。最初から、俺なんかが儚い命を面倒見れるわけなかったんだ。
大事にしたいって、思ってたのになぁ。
周りには空いた缶が数え切れないほど転がっている。タバコだって、灰皿に乗り切らなくて机にも床にも散らばって。はらはらとこぼれた小さな葉っぱたちが余計に床を汚して見えた。
「っ、はぁ……」
涙が溢れそうで溢れないってのは想像の何倍もキツい。せめて枯れてくれれば良かったのに、俺の瞼の裏を潤すばかりで一向に動きやしない。それをどうにかしたくてまた新しい缶を軽快な音で開けた。
なんだよ、なんで缶の方が楽しそうな音出してんだよ。
自分でも意味が分からないような怒りを抱きながらその中身を体に流し込む。ごくごくと音を鳴らして一気に半分くらいは飲んだだろうか。
それでも酔えないのは俺が酷いところに堕ちたからか、俺を酔わすこともできないほどこの酒が弱っちいからか。そんなの明らかに前者に決まってる。
気持ち悪い。でもやめられない。もうすぐタバコが切れる。酒だって無限にあるわけじゃない。
どうすれば、どうすればこの不安なんて言葉じゃ収まらないグロテスクな恐ろしい形をした悪魔を葬り去れる?
頭がぐちゃぐちゃだ。自分が何を考えているのかも、何に怒っているのかも、何を恐れているのかも分からない。
「っぅ、ゔ……」
いたい。目は眩んで、脳は揺れて、胸は頻りに痛みを訴えている。
そこから俺が何を考えたのか、俺も覚えてない。ただ、気付いたらスマホから発信音が鳴ってた。
プルルルル、ぴ。
「……もしもし?」
「……っあ、千弦……?」
「そうだけど……何、こんな時間に」
「……起きてる?」
「起きてるわよ、それが何」
「今から行くわ、鍵開けてね」
えっ、みたいな声が聞こえた気がしたけど、俺の指が反射で画面の赤い部分を触る方が早かった。
……なんで電話、かけたんだっけ。でも行くって言ったしな。
思考が纏まらないけど、体の動くままに靴を履いて外に出た。そこからどんな風景の中を歩いてどうやって千弦の家に行ったのかも覚えてない。気付いたら千弦の部屋の前で、千弦に出迎えられてた。
「……まぁ、入れば」
「……おじゃまします」
ぱたん。
今日はドアの音、軽いな。なんて変なことを考えた。前はあんなにドキドキしてたのに、今日はびっくりするほど何も感じない。
「鍵は」
「……閉めていいわよ、あんたが何もしないならね」
がちゃり。鍵の音だって、今日は別になんとも思わなかった。
「……」
「手は洗いなさいよ」
「あぁ、うん」
前と同じように洗面所に向かう。今日は電気がついてなかった。当たり前か、別に千弦と帰ってきた訳じゃないし。
蛇口を捻って水で手を濡らす。水ってこんなに冷たかったんだって、意味の分からない感想を抱いた。そんで千弦の家のハンドソープの匂いがして、このフローラルな香りは千弦の家でしか嗅いだことないなって思い出した。
手を洗い終わってリビングに行けば、そこにはいつもと違う、既に寝る準備を整えた千弦がいた。
「……ごめん、急に」
「いいけど……何もないわよ、今日は」
「うん、いいよ」
何も考えずに千弦の横に座る。でも千弦が避けない辺り、たぶん嫌われてはないと思う。
それから数分、頭が真っ白なまま隣にいた。千弦も何も言わず、俺も何も言えないまま。脳みそが宙ぶらりんにぶら下げられたみたいに、何かを考えようとしてもすぐに思考が止まって会話の始まりを考えることすらままならない。
ひたすら自分の雑に組んだ足を見つめていた時、隣から息を吐く音が聞こえた。
「随分いい香りがするわね。どれくらい飲んだの」
「……分かんない。いくつ開けたっけな」
「覚えていられない程の量なの? 人間って案外強いのね」
「はは、ほんとにな」
良かった、いつもの他愛ない会話だ。頭が真っ白なまま脳に浮かんだ言葉を並べていく。
「そういえばさ」
「ええ」
「花買ったよ」
「優子さんから聞いたわ」
「……そう。今の俺なら大事にできるんじゃないかと思ったんだけど、枯らしちゃった」
また瞼の裏が熱くなる。どうせ零れやしないのに、鬱陶しくて堪らない。
千弦は自然を大事にしていたから、枯らしたなんて話聞きたくなかったかもな。言った後でそこに思い至って少し後悔した。けれど吐き出した言葉は飲み込めないし、千弦にもう渡ってしまってる。もし嫌われたらどうしよっかな。
「……そんな事だろうと思った。花を大事にしてるならそんな顔にならないもの」
なんだかその声はちょっとだけ暖かい気がした。けれどそれを確かめる勇気も元気もなくて、俯いたまま言葉を続ける。
「そんな顔って?」
「家に鏡ないの? 酷い顔よ。実はゾンビでしたって言われても信じるくらいね」
「……そんなに?」
つられて千弦の方を向けば、光を宿した瞳が真っ直ぐ俺を射抜いていた。今は窓の外も曇って真っ暗なのに、人の目ってそんなに輝くんだ。
久しぶりにそんな顔見たからかな。なんか、気付いたら溢れてた。
「……おれ、昔はこんなじゃなかったんだよ」
酷く弱々しい声。俺から出たのか疑うほど、その声は小さく震えていた。
「昔、初恋の人と付き合うことになってさ。俺、ちゃんと真面目に向き合ってたはずなのにすごい振られ方して。『あ、こんなに真っ直ぐ向き合ってても“酷い”とか言われちゃうんだ』って、だいぶ凹んだんだよね」
その蟠りは、自分が想像してた何倍も素直にするすると言葉になった。……そっか。おれ、凹んでたんだ。だから、ずっと苦しかったんだ。
「なんか、それならもういいやって。どれだけ自分勝手に生きても変わらないんじゃないかって、思って。そこから気付いたらこんななりになってた。」
「……そう」
「おかしいよな、そんな人間が急に花なんて買ってさ。自分の機嫌も取れないくせに花の命なんて面倒見れるわけないじゃん、どうかしてたんだよ、俺」
自嘲気味に振るうその言葉が自分の体をズタズタにして、首の皮スレスレに止まった気がした。馬鹿だよな、もう自分を傷付ける方法しか覚えてないんだ。
隣の千弦は何も言わない。けど、突き放すような冷たさは感じなかった。
それをいいことに、俺の口は止まることもなく思いの丈をぶち撒ける。
「きっと千弦に構ってもらっていいような人間じゃなかった。千弦のお眼鏡に叶うようなできた人間じゃなかったんだ。なのに、」
「ねぇ」
時が止まる。隣から音もなく、冷たい刃を向けられた気分がした。
「それは私が決める事でしょ。私が誰を構って誰に興味を持つか、私以外の誰かに決めさせた覚えはないわよ」
「……それは、そうだけど」
思わず向けた視線の先、その光は今にも俺を突き刺さんとするような鋭さを含んでいた。
千弦は俺のもたついた言葉の続きを待たずに続ける。
「そもそも、アンタはなんでそんなに卑屈な訳。可愛らしい名前で名乗ったりしたところから私は疑問だったの」
可愛らしい、名前。あぁ、あの呼び方って可愛らしいんだ。言われて初めて気が付いた。
「雪くん、ってやつ? ……あれは、元カノからそう呼ばれてたんだよ」
「へぇ。それがなんでその呼び方で呼ばせる話になるの」
「……それは」
なんでだろう。確かに、そう言われてみれば変な話だ。振られたんだからその呼び方なんて捨てて拒否してしまえば良かったのに、なんで俺ってその呼び方させてたんだっけ。
「……無意識なのね。傷をわざわざ掘り返して、楽しかった?」
「楽しいわけない……」
「でしょうね」
千弦が何を言いたいのか、皆目見当もつかない。
苦しい、でも受け入れてくれたこの隣を離れたくない。頭の中はさっきよりもさらにぐちゃぐちゃだ。クーラーが効いているはずの室内、じんわり湿った髪が風で揺らされている。
頬を伝った雫が汗なのか何なのかも分からない。ただ、背中だけが唯一冷えて感じた。
隣から、静かに息を吸う音が聞こえた。
「それで、あんたはいろんな人間にそう呼ばれて、何かイイコトがあった訳?」
イイコト。
……そう呼ばれて、良かったこと、ねぇ。
「どうだろう。あったのかな」
俯いたまま答えたその言葉にどんな反応が返ってくるのか、俺はちょっとだけ怯えた。俺がもしもか弱い動物ならストレスで体調を崩してたかもしれない。
でも、怯えるほど冷たい声は返ってこなかった。
「ふーん。まぁ、そこには別に興味ないんだけど。あんた、名前なんて言うの」
……名前?
「……雪嶺 彼方」
「そう。彼方って言うのね」
初めて呼ばれた名前。雪くんじゃない、俺自身を見てくれる呼び名。
考えてみれば、千弦から名前を呼ばれたことなんてなかったかもしれない。雪なら呼んであげる、と言われていたけど雪だなんて千弦の口から聞いたことない。
今思えば、名前を偽ってると思ってたから呼ばなかったのかもな。
「……うん。彼方、だよ」
久しぶりに口に出した自分の名前は、案外綺麗な響きをしていた。
でも、綺麗なのは千弦に見つけてもらえたからなのかもなんてふざけた考えが浮かんで、それを掻き消す気にもなれなくてそっと抱きしめた。なんだ、暖かいじゃん。
そろりとラベンダーの瞳を見上げれば、細められて綺麗な弧を描いている。あぁ、初めて見る。やっぱり綺麗だなぁ。
「今から言う事、ちゃんと聞きなさいよ」
「……うん」
千弦はその綺麗な顔に少しの優しさと力強さを乗せて、俺に真っ直ぐこう言った。
「私は彼方の事、ちゃんと見てるわよ。アンタもいい加減、私の方をちゃんと向きなさい」
俺の心をぐらぐらと揺らす熱量の言葉。たった一言なのにそれは胸を刺激して堪らなかった。でも、だって、まだ自分のことなんて微塵も認めてやれてないのに。
「……いいの? だって俺、酷い人間だよ」
「今更でしょ。クズなあんたでも愛してあげる。だから私を見なさい、彼方」
それは、人生で一回も受けたことのないくらいデカい肯定だった。はは、破壊力すご。
人間ってこんなにデカい感情を渡したりできるんだ。知らなかったな。気付いたら頬に一筋、温かい水の流れ道ができてた。
狡いやつだよ、千弦。俺は千弦のことまだぜんぜん分かんないのにさ、千弦はなんでもお見通しみたいに俺の扱い方を分かってる。俺だって、お前の扱い方早く知りたいよ。
その時、ぱぁっと光が射す。雲が途切れて明るい光の筋が俺たちのいる部屋を照らした。
「……なんか、綺麗だな。千弦」
思わず零れた言葉。柔らかい光を背負った千弦は月の住人だなんて言われても信じてしまうくらい美しかった。だから、きっとこれは不可抗力ってやつ。
「そう? あんたも案外綺麗な顔してるわよ」
「っえ、俺?」
忘れた頃に飛んできたのはカウンターパンチ。そうだった、コイツのカウンターは常設だって初日に気付いてたはずなのに。
……でもあの頃とは何もかも違う。パンチはきっと花束で、俺が一本差し出したら百本返ってきたみたいな、そんなカウンター。
俺が、綺麗……受け止められずにそう考えていたら、俺の声に応えてか心地良い声で続きが語られた。
「来た時より随分マシだもの、顔色。それでこそ私の隣に立つ男の顔よね」
「……ねぇ、それって」
期待してもいいの。
声に出す前に、千弦が楽しそうに眉を下げた。
「私に言わせるの? マシな男になったんだからもう少し格好付けなさいよ」
「……ふは、そうだな。譲ってもらうわ、流石に」
蟠りは鳴りを潜めて、随分と体は軽くなった。もう俺を止めるものは無い。
放り出された細い手にするりと指を絡める。ぬるい温度のそれは、まるで俺の言葉に期待しているみたいだ。俺の手の熱でとろけて溶けてしまわないかなって変な心配をしそうになる。
見つめたラベンダーの瞳に赤が透けているような気がした。なんかで読んだな、紫の瞳の人って興奮すると紫がどんどん赤くなるんだっけ。
光を含んだ赤紫はきらきらと輝いている。期待されたんなら、応えないとな。
「千弦、好きだよ。俺と付き合って」
「えぇ。私の隣、彼方にあげるわ」
あぁ、暖かい。嬉しいな、人間ってこんなに優しかったんだ。
二人の間に沈黙が落ちる。でもそれは決して恐怖を含んだ冷たい沈黙じゃなくて、お互いを肯定できたからこそ生まれた心の対話だった。静かな呼吸だけが聞こえる部屋の中でそっと繋いだ手の温度を確かめる。言葉がないからこそ、指が千弦の感情を伝えてくれていた。
指から視線を上げて見えた彼女の表情にはさっきよりも熱がある。俺の顔も、きっと似たようなもんだろう。でも、この熱を孕んだ空気をもっと甘く、味わいたかった。
その赤らんだ頬に手を添えて、髪を耳に掻き上げる。さっき触れた手よりもこっちの方が素直だった。
じっと瞳を見つめて、今までずっと待ち望んでいた果実に口付ける。
初めてのキスはタバコと酒と、甘い味がした。
糸が俺らを繋いで滴り落ちる。それすら甘みの余韻のような気がした。
「……甘いな」
「……えぇ。甘いわね」
それから二人、何度も確かめるようにそれを貪り合って、その度に少し笑った。
まるで子供のお遊びみたいだ。でも、それで良かった。お互いの足りなかった時間を埋め合うようにキスをして、肌を触れ合って、時間を重ねる。ぬるい温かさが、俺たちの全てだった。
「なぁ、今日泊まっていい?」
「いいわよ。真っ暗な中放り出す訳ないじゃない」
「よかった。千弦んち、なんか安心するから好きなんだよな」
「そう。言っとくけど明日も朝早いわよ」
「はいはい、隣でタバコ吸ってりゃいい?」
最初は好みだったから近付いただけ。食えりゃラッキーとさえ思ってた。でも、いざ近付いたら食わなくても満足するもんだな。
千弦がベッドに寝転んで、それから一人分のスペースを空ける。大分心を許してもらってるらしい。俺の居場所はここだって、差し出されたのが嬉しかった。だからそれを壊すつもりは微塵もない。
隣にそっと腰掛けて、そのまま横になる。温もりの方を向けば自然と距離が縮まった。
「……おやすみ」
もうすぐ朝が来る。真っ暗闇も、ようやく迎える朝も。二人ならきっと何も怖くないと心の底から思えた。
「おやすみなさい、いい夢を」
千弦の柔らかい声が耳を打つ。誰かにそんなこと言われたのはいつぶりだろうな。幸せな心地がする、慈愛に満ちた優しい言葉。暖かさで眠気の波が思考を誘っていく。
路地裏から始まったユートピアは、きっとこの先も続いていく。この腕の中の温もりがある限り、きっと、ずっと。それを胸に刻んで、俺は瞼を閉じた。
明日もきっと、いい日になりますように。そう、願いながら。
カーテンも閉め切って何もかもを遮断した部屋で一人蹲っていた。
机の上にはシンプルなガラスの花瓶に刺さった1本の茎。その先についた花弁はとうに萎れて机の上で息絶えていた。乾いた最後の一枚がクーラーの風に揺れるのもなんだか鬱陶しくて、視線を彷徨かせては舌打ちをする。きっとそこまで苛つくのは、その姿が今の自分に重なって耐えられないからだろうな。
急に満開から枯れるわけじゃない。少し、また少しと見えない何かが重なって気付いた頃にはカラカラになってる。気付かなかった訳じゃない、分かってて見逃した結果がこれだ。最初から、俺なんかが儚い命を面倒見れるわけなかったんだ。
大事にしたいって、思ってたのになぁ。
周りには空いた缶が数え切れないほど転がっている。タバコだって、灰皿に乗り切らなくて机にも床にも散らばって。はらはらとこぼれた小さな葉っぱたちが余計に床を汚して見えた。
「っ、はぁ……」
涙が溢れそうで溢れないってのは想像の何倍もキツい。せめて枯れてくれれば良かったのに、俺の瞼の裏を潤すばかりで一向に動きやしない。それをどうにかしたくてまた新しい缶を軽快な音で開けた。
なんだよ、なんで缶の方が楽しそうな音出してんだよ。
自分でも意味が分からないような怒りを抱きながらその中身を体に流し込む。ごくごくと音を鳴らして一気に半分くらいは飲んだだろうか。
それでも酔えないのは俺が酷いところに堕ちたからか、俺を酔わすこともできないほどこの酒が弱っちいからか。そんなの明らかに前者に決まってる。
気持ち悪い。でもやめられない。もうすぐタバコが切れる。酒だって無限にあるわけじゃない。
どうすれば、どうすればこの不安なんて言葉じゃ収まらないグロテスクな恐ろしい形をした悪魔を葬り去れる?
頭がぐちゃぐちゃだ。自分が何を考えているのかも、何に怒っているのかも、何を恐れているのかも分からない。
「っぅ、ゔ……」
いたい。目は眩んで、脳は揺れて、胸は頻りに痛みを訴えている。
そこから俺が何を考えたのか、俺も覚えてない。ただ、気付いたらスマホから発信音が鳴ってた。
プルルルル、ぴ。
「……もしもし?」
「……っあ、千弦……?」
「そうだけど……何、こんな時間に」
「……起きてる?」
「起きてるわよ、それが何」
「今から行くわ、鍵開けてね」
えっ、みたいな声が聞こえた気がしたけど、俺の指が反射で画面の赤い部分を触る方が早かった。
……なんで電話、かけたんだっけ。でも行くって言ったしな。
思考が纏まらないけど、体の動くままに靴を履いて外に出た。そこからどんな風景の中を歩いてどうやって千弦の家に行ったのかも覚えてない。気付いたら千弦の部屋の前で、千弦に出迎えられてた。
「……まぁ、入れば」
「……おじゃまします」
ぱたん。
今日はドアの音、軽いな。なんて変なことを考えた。前はあんなにドキドキしてたのに、今日はびっくりするほど何も感じない。
「鍵は」
「……閉めていいわよ、あんたが何もしないならね」
がちゃり。鍵の音だって、今日は別になんとも思わなかった。
「……」
「手は洗いなさいよ」
「あぁ、うん」
前と同じように洗面所に向かう。今日は電気がついてなかった。当たり前か、別に千弦と帰ってきた訳じゃないし。
蛇口を捻って水で手を濡らす。水ってこんなに冷たかったんだって、意味の分からない感想を抱いた。そんで千弦の家のハンドソープの匂いがして、このフローラルな香りは千弦の家でしか嗅いだことないなって思い出した。
手を洗い終わってリビングに行けば、そこにはいつもと違う、既に寝る準備を整えた千弦がいた。
「……ごめん、急に」
「いいけど……何もないわよ、今日は」
「うん、いいよ」
何も考えずに千弦の横に座る。でも千弦が避けない辺り、たぶん嫌われてはないと思う。
それから数分、頭が真っ白なまま隣にいた。千弦も何も言わず、俺も何も言えないまま。脳みそが宙ぶらりんにぶら下げられたみたいに、何かを考えようとしてもすぐに思考が止まって会話の始まりを考えることすらままならない。
ひたすら自分の雑に組んだ足を見つめていた時、隣から息を吐く音が聞こえた。
「随分いい香りがするわね。どれくらい飲んだの」
「……分かんない。いくつ開けたっけな」
「覚えていられない程の量なの? 人間って案外強いのね」
「はは、ほんとにな」
良かった、いつもの他愛ない会話だ。頭が真っ白なまま脳に浮かんだ言葉を並べていく。
「そういえばさ」
「ええ」
「花買ったよ」
「優子さんから聞いたわ」
「……そう。今の俺なら大事にできるんじゃないかと思ったんだけど、枯らしちゃった」
また瞼の裏が熱くなる。どうせ零れやしないのに、鬱陶しくて堪らない。
千弦は自然を大事にしていたから、枯らしたなんて話聞きたくなかったかもな。言った後でそこに思い至って少し後悔した。けれど吐き出した言葉は飲み込めないし、千弦にもう渡ってしまってる。もし嫌われたらどうしよっかな。
「……そんな事だろうと思った。花を大事にしてるならそんな顔にならないもの」
なんだかその声はちょっとだけ暖かい気がした。けれどそれを確かめる勇気も元気もなくて、俯いたまま言葉を続ける。
「そんな顔って?」
「家に鏡ないの? 酷い顔よ。実はゾンビでしたって言われても信じるくらいね」
「……そんなに?」
つられて千弦の方を向けば、光を宿した瞳が真っ直ぐ俺を射抜いていた。今は窓の外も曇って真っ暗なのに、人の目ってそんなに輝くんだ。
久しぶりにそんな顔見たからかな。なんか、気付いたら溢れてた。
「……おれ、昔はこんなじゃなかったんだよ」
酷く弱々しい声。俺から出たのか疑うほど、その声は小さく震えていた。
「昔、初恋の人と付き合うことになってさ。俺、ちゃんと真面目に向き合ってたはずなのにすごい振られ方して。『あ、こんなに真っ直ぐ向き合ってても“酷い”とか言われちゃうんだ』って、だいぶ凹んだんだよね」
その蟠りは、自分が想像してた何倍も素直にするすると言葉になった。……そっか。おれ、凹んでたんだ。だから、ずっと苦しかったんだ。
「なんか、それならもういいやって。どれだけ自分勝手に生きても変わらないんじゃないかって、思って。そこから気付いたらこんななりになってた。」
「……そう」
「おかしいよな、そんな人間が急に花なんて買ってさ。自分の機嫌も取れないくせに花の命なんて面倒見れるわけないじゃん、どうかしてたんだよ、俺」
自嘲気味に振るうその言葉が自分の体をズタズタにして、首の皮スレスレに止まった気がした。馬鹿だよな、もう自分を傷付ける方法しか覚えてないんだ。
隣の千弦は何も言わない。けど、突き放すような冷たさは感じなかった。
それをいいことに、俺の口は止まることもなく思いの丈をぶち撒ける。
「きっと千弦に構ってもらっていいような人間じゃなかった。千弦のお眼鏡に叶うようなできた人間じゃなかったんだ。なのに、」
「ねぇ」
時が止まる。隣から音もなく、冷たい刃を向けられた気分がした。
「それは私が決める事でしょ。私が誰を構って誰に興味を持つか、私以外の誰かに決めさせた覚えはないわよ」
「……それは、そうだけど」
思わず向けた視線の先、その光は今にも俺を突き刺さんとするような鋭さを含んでいた。
千弦は俺のもたついた言葉の続きを待たずに続ける。
「そもそも、アンタはなんでそんなに卑屈な訳。可愛らしい名前で名乗ったりしたところから私は疑問だったの」
可愛らしい、名前。あぁ、あの呼び方って可愛らしいんだ。言われて初めて気が付いた。
「雪くん、ってやつ? ……あれは、元カノからそう呼ばれてたんだよ」
「へぇ。それがなんでその呼び方で呼ばせる話になるの」
「……それは」
なんでだろう。確かに、そう言われてみれば変な話だ。振られたんだからその呼び方なんて捨てて拒否してしまえば良かったのに、なんで俺ってその呼び方させてたんだっけ。
「……無意識なのね。傷をわざわざ掘り返して、楽しかった?」
「楽しいわけない……」
「でしょうね」
千弦が何を言いたいのか、皆目見当もつかない。
苦しい、でも受け入れてくれたこの隣を離れたくない。頭の中はさっきよりもさらにぐちゃぐちゃだ。クーラーが効いているはずの室内、じんわり湿った髪が風で揺らされている。
頬を伝った雫が汗なのか何なのかも分からない。ただ、背中だけが唯一冷えて感じた。
隣から、静かに息を吸う音が聞こえた。
「それで、あんたはいろんな人間にそう呼ばれて、何かイイコトがあった訳?」
イイコト。
……そう呼ばれて、良かったこと、ねぇ。
「どうだろう。あったのかな」
俯いたまま答えたその言葉にどんな反応が返ってくるのか、俺はちょっとだけ怯えた。俺がもしもか弱い動物ならストレスで体調を崩してたかもしれない。
でも、怯えるほど冷たい声は返ってこなかった。
「ふーん。まぁ、そこには別に興味ないんだけど。あんた、名前なんて言うの」
……名前?
「……雪嶺 彼方」
「そう。彼方って言うのね」
初めて呼ばれた名前。雪くんじゃない、俺自身を見てくれる呼び名。
考えてみれば、千弦から名前を呼ばれたことなんてなかったかもしれない。雪なら呼んであげる、と言われていたけど雪だなんて千弦の口から聞いたことない。
今思えば、名前を偽ってると思ってたから呼ばなかったのかもな。
「……うん。彼方、だよ」
久しぶりに口に出した自分の名前は、案外綺麗な響きをしていた。
でも、綺麗なのは千弦に見つけてもらえたからなのかもなんてふざけた考えが浮かんで、それを掻き消す気にもなれなくてそっと抱きしめた。なんだ、暖かいじゃん。
そろりとラベンダーの瞳を見上げれば、細められて綺麗な弧を描いている。あぁ、初めて見る。やっぱり綺麗だなぁ。
「今から言う事、ちゃんと聞きなさいよ」
「……うん」
千弦はその綺麗な顔に少しの優しさと力強さを乗せて、俺に真っ直ぐこう言った。
「私は彼方の事、ちゃんと見てるわよ。アンタもいい加減、私の方をちゃんと向きなさい」
俺の心をぐらぐらと揺らす熱量の言葉。たった一言なのにそれは胸を刺激して堪らなかった。でも、だって、まだ自分のことなんて微塵も認めてやれてないのに。
「……いいの? だって俺、酷い人間だよ」
「今更でしょ。クズなあんたでも愛してあげる。だから私を見なさい、彼方」
それは、人生で一回も受けたことのないくらいデカい肯定だった。はは、破壊力すご。
人間ってこんなにデカい感情を渡したりできるんだ。知らなかったな。気付いたら頬に一筋、温かい水の流れ道ができてた。
狡いやつだよ、千弦。俺は千弦のことまだぜんぜん分かんないのにさ、千弦はなんでもお見通しみたいに俺の扱い方を分かってる。俺だって、お前の扱い方早く知りたいよ。
その時、ぱぁっと光が射す。雲が途切れて明るい光の筋が俺たちのいる部屋を照らした。
「……なんか、綺麗だな。千弦」
思わず零れた言葉。柔らかい光を背負った千弦は月の住人だなんて言われても信じてしまうくらい美しかった。だから、きっとこれは不可抗力ってやつ。
「そう? あんたも案外綺麗な顔してるわよ」
「っえ、俺?」
忘れた頃に飛んできたのはカウンターパンチ。そうだった、コイツのカウンターは常設だって初日に気付いてたはずなのに。
……でもあの頃とは何もかも違う。パンチはきっと花束で、俺が一本差し出したら百本返ってきたみたいな、そんなカウンター。
俺が、綺麗……受け止められずにそう考えていたら、俺の声に応えてか心地良い声で続きが語られた。
「来た時より随分マシだもの、顔色。それでこそ私の隣に立つ男の顔よね」
「……ねぇ、それって」
期待してもいいの。
声に出す前に、千弦が楽しそうに眉を下げた。
「私に言わせるの? マシな男になったんだからもう少し格好付けなさいよ」
「……ふは、そうだな。譲ってもらうわ、流石に」
蟠りは鳴りを潜めて、随分と体は軽くなった。もう俺を止めるものは無い。
放り出された細い手にするりと指を絡める。ぬるい温度のそれは、まるで俺の言葉に期待しているみたいだ。俺の手の熱でとろけて溶けてしまわないかなって変な心配をしそうになる。
見つめたラベンダーの瞳に赤が透けているような気がした。なんかで読んだな、紫の瞳の人って興奮すると紫がどんどん赤くなるんだっけ。
光を含んだ赤紫はきらきらと輝いている。期待されたんなら、応えないとな。
「千弦、好きだよ。俺と付き合って」
「えぇ。私の隣、彼方にあげるわ」
あぁ、暖かい。嬉しいな、人間ってこんなに優しかったんだ。
二人の間に沈黙が落ちる。でもそれは決して恐怖を含んだ冷たい沈黙じゃなくて、お互いを肯定できたからこそ生まれた心の対話だった。静かな呼吸だけが聞こえる部屋の中でそっと繋いだ手の温度を確かめる。言葉がないからこそ、指が千弦の感情を伝えてくれていた。
指から視線を上げて見えた彼女の表情にはさっきよりも熱がある。俺の顔も、きっと似たようなもんだろう。でも、この熱を孕んだ空気をもっと甘く、味わいたかった。
その赤らんだ頬に手を添えて、髪を耳に掻き上げる。さっき触れた手よりもこっちの方が素直だった。
じっと瞳を見つめて、今までずっと待ち望んでいた果実に口付ける。
初めてのキスはタバコと酒と、甘い味がした。
糸が俺らを繋いで滴り落ちる。それすら甘みの余韻のような気がした。
「……甘いな」
「……えぇ。甘いわね」
それから二人、何度も確かめるようにそれを貪り合って、その度に少し笑った。
まるで子供のお遊びみたいだ。でも、それで良かった。お互いの足りなかった時間を埋め合うようにキスをして、肌を触れ合って、時間を重ねる。ぬるい温かさが、俺たちの全てだった。
「なぁ、今日泊まっていい?」
「いいわよ。真っ暗な中放り出す訳ないじゃない」
「よかった。千弦んち、なんか安心するから好きなんだよな」
「そう。言っとくけど明日も朝早いわよ」
「はいはい、隣でタバコ吸ってりゃいい?」
最初は好みだったから近付いただけ。食えりゃラッキーとさえ思ってた。でも、いざ近付いたら食わなくても満足するもんだな。
千弦がベッドに寝転んで、それから一人分のスペースを空ける。大分心を許してもらってるらしい。俺の居場所はここだって、差し出されたのが嬉しかった。だからそれを壊すつもりは微塵もない。
隣にそっと腰掛けて、そのまま横になる。温もりの方を向けば自然と距離が縮まった。
「……おやすみ」
もうすぐ朝が来る。真っ暗闇も、ようやく迎える朝も。二人ならきっと何も怖くないと心の底から思えた。
「おやすみなさい、いい夢を」
千弦の柔らかい声が耳を打つ。誰かにそんなこと言われたのはいつぶりだろうな。幸せな心地がする、慈愛に満ちた優しい言葉。暖かさで眠気の波が思考を誘っていく。
路地裏から始まったユートピアは、きっとこの先も続いていく。この腕の中の温もりがある限り、きっと、ずっと。それを胸に刻んで、俺は瞼を閉じた。
明日もきっと、いい日になりますように。そう、願いながら。
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