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第五章 新たなる世界へ
11、櫻のお返事
しおりを挟む二通目の手紙が櫻の元に着いたのは辻と離れて一週間経った頃だった。
その日は淳之介の勉強を見る日だったので、午前中は家の掃除などをしていた。
実は、辻からの手紙が来るのではないかと、そわそわしていたのだ。
電報が来る不安と期待がなくなったのは少し残念だが、辻らしい文章を読めるのは手紙だったので手紙を待っていた。
庭の掃除をしたときに、郵便配達が通ったのを見て、ポストに辻からの手紙が届いたのを確認した。
早く読みたい。でも、掃除をしているのを途中でやめては不審がられそうで、ポケットに手紙を入れていそいそと掃除を終えた。
昼食を作る前に、手紙の封を開けた。
嬉しい気持ちが心の中でいっぱいになり、櫻は辻に会いたくなった。
どうして、目の前に現れてくれないのか、辻への気持ちが溢れてきた。
まだ、昼食を作るまでには30分ほど時間がある。
櫻はノオトを開いた。
早速、届くことのない手紙をまた書き出した。
「先生へ
お手紙ありがとうございます。私嬉しくて、ドキドキして、先生が目の前にいないことが残念で
早く会いたい気分でいっぱいです。
先生は、私の分身を心の中に飼っているのでしょう?
私は心の中に先生をまだ飼っていないから、先生とお話しできない。
でも、先生がこう言うかな?こう行動するかな?など考えています。
先生、私、先生と出会って、こんなに人を大切にできることを知りました。
先生、農家を恨んでる?って書いてあったでしょう?
はい、恨んでます。でも、私が農家にいたのは6歳まで。それから女学校に入るまではほとんど呉服屋の丁稚奉公だったんですよ。
でも、盆暮正月にどうしても帰りたくなかった。あの父が憎かった。
私をコマとしか思っていないあの父が憎くてたまらなかった。
だからこそ結婚の話をしてきた時に、ああ、こういう運命だから私はこの父を恨んでいたんだと思ったのです。
でも、私、先生に見合う人になって、素敵なパートナーになりたい。
だから、素敵な職業婦人になって、誰からも後ろ指刺されないように生きていきたい。
先生、私も先生のことが大好きです。あなたの手を離したくない。抱きしめられたい。
いっぱいのお土産話を期待しています。お体に気をつけて。
櫻」
これは出されることはない手紙だ。でも、この手紙が空の下で辻の元に届くような気がした。
早く会って、いろいろ話したい。でも、修行した自分を、成長した自分を見てもらいたい、そう心に誓った櫻だった。
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