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第六章 愛を確かめ合う関係

4、車中にて

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「先生、私、先生の旅のお話聞きたいです。」
「僕はもうちょっと、君と戯れあっていたいですけどね。」
「もう!」
櫻が体を離すと、辻はにっこりとした。

「まずはですね、君に夢中だった僕が、君なしでいられるのか知りたかったんですよ。」
「でも、先生はいつもエスコートして、そんなそぶり見せてなかったのに。」
「まあ、でも僕は君中心に生活をしてしまっていたから、これが変化したらどうなるのか興味があったんです。」
「それで、旅で何がわかったんですか?」
「そこで出てくるのが、心の中の櫻くんですよ。」
「心の中。。。。」
「僕は恋愛気狂いなのかもしれない。心の中の櫻くんとお話できるようになってしまったんです。」
「私じゃないのに?」
「多分、君の一部が僕の中に入り込んだんだと推察しますがね。」
「でも、その私って先生の望む私なんですか?」
「いやー、そうでもないかもしれない。僕の動いて欲しい通りに動くわけではありませんからね。」
「そんな私でも良かったんですか?」
「僕は離れても君と一緒だと言うことがわかりましたからね。」

まだ辻はニコニコしながら話している。

「と言うことで、僕は僕らしく旅を続けることができたと言うことです。」
「先生、旅で面白かったのは何ですか?」
「農家に寄ったことは大変興味深かった。普段なら関わらない人たちですからね。いい老夫婦でしたよ。でも、この国は貧富の差があることを思い知りましたがね。」
「私の実家もとても貧しいです。先生のご実家と比べたら。。。。」
「僕は君を永遠のベターハーフにしたいと思ってるのです。だから、家の出所なんて気にしないでください。あなたは素敵な職業夫人になるのが夢でしょう?」
「はい、アグリ先生みたいになりたいです。」
「アグリくんは少しかかえてしまう部分があるが、とても自立した女性だ。でも、櫻くん、君はもっと大成するよ。」
「先生、褒めてばっかり。」
「好きな人を褒めて何が悪いんですか?」
ハハハと笑った。

櫻はこの辻の気軽さの中にある真面目で真摯なところが好きだな、と改めて思った。
モウスグ、この逢瀬も終わる。
しかし、明日からまた東京だ。
「先生、明日から、どうやって会えば。。。」
「お昼休憩にこの車でサンドイッチでも食べましょう。握り飯でもいい。坂本に用意させるよ。」
「アグリ先生にはどう言えば?」
「望月から出版社の関係でと理由をつけてもらうよ。もちろん、それは表向きで、アグリくんには真実を伝えてもらうけどね。」

間隔を空けた櫻がドンと辻に抱きついた。
「先生、本当におかえりなさい!」

二人は、互いの必要性を改めて知ったのであった。


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