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第八章 遭遇

3、ランチでの遭遇

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その後、アグリに次の日のランチは大久保と行くことを伝え、大久保には翌日にランチに行けることを告げた。

そして、当日、お昼休みになり、二人は資生堂パーラーに行くこととした。
「本当、楽しみだわ。だって、あそこのカリー本当に美味しいって評判だし、内装も豪華だそうよ。」
「今までタイミングがあったのに行かなかったんですか?」
大久保はちょっと目を細めて言った。
「ちょっと!江藤さん。一人でランチなんて寂しすぎるでしょ。店頭のお姉様方はランチの時間が決まってないし、事務方でないとこう言うことはできないからね。」
アグリが言っていたが、大久保ももうすぐ店頭に仕事をするようになると。そうするとゆっくりランチなんていうこともできないかもしれない。
「私、女性の同い年くらいの人とお食事行くの初めてなんです。」
「え!どうして!」
「今までそういう機会がなかったというか。。。」
「江藤さんは箱入りさんだったのかしら?」
「いえいえ、家の仕事を手伝っていて忙しかっただけで。。」
「田中菓子店よね?おじさまのお店だって?」
「そうです。とてもおいしいですよ。」
「私、甘いものには目がないの。いつか先生と話していた水菓子食べてみたいわ。」
話していると、資生堂パーラーについた。
「ここですね。」
「うん。入りましょう。」

店内に入ると、窓側の席を案内された。
「銀座の景色が見えて、とてもいいですね。西洋の内装も素敵だし。」
「ね!言ったでしょ!やっぱりきてよかったわ・・・。」
楽しそうに話す大久保を見て、櫻は安心した。
二人でカレーを注文して待っていた時だった。

「ちょっとお嬢さん、よろしいかな?」
初老の男性に声をかけられた。
「え、はい。あれ、大久保さんのお知り合いですか?」
「私じゃなくてよ。すみません、どなたかとお間違いですか?」
「あなたがた、望月洋装店の方ではありませんか?」
驚いた。店頭にほとんど出ていない自分たちを知ってる人がいるなんて。
恐る恐る、大久保が答えた。
「はい。でも、私たちまだ見習いで店頭には出てないんです。」
「以前、そちらを伺った時に仕立てていただいてる時に見かけたんですよ。」
「私たちのような下っ端にお声かけていただけるなんてすみません。でも、どうかなさって?」
初老の男性は一息おくと、こう切り出した。

「私はこのあたりの百貨店を経営しているもので、辻と言います。若い職業婦人がどう働いているのか興味があって声をかけました。」
櫻はびっくりした。この人が辻先生の父上なのか。でも、顔には出してはいけない。
それに反して大久保は
「わあ。辻財閥の社長さんですか!私たちのような者に声をかけていただいてありがとうございます!」
「若い二人のランチをこれ以上お邪魔するのも無粋ですね。では。」

そういうと、辻は他の奥の席へと消えていった。
「本当、びっくりしたわね。あの辻財閥ってことは、辻さんのお父様ってことよね?」
「そうですね。。。本当にびっくりしました。」

もしかしたら、もう辻の父はわかっているのか。櫻が辻と恋仲ということを。粗相がなかったか緊張したが、一方で話しかけてきたのが気になった桜であった。
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