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第八章 遭遇
2、辻から見た櫻
しおりを挟む「という訳で、先生、近いうちに大久保さんとランチに行ってきていいですか?」
「ちょっと嫉妬してしまうな、と言いたいところだけど、君の同僚がランチに誘っているっていうのはいい状況だから、ぜひいってきなよ。」
大久保とのランチをその日の昼食の時に辻に相談した。
「歳の近い友人というのはすぐにできるようで、中々難しいものだよ。だからこそ、できたときは大切にすべきだよ」
「先生と、望月さんもとても仲がいいですものね。」
「ああ、僕が僕でいられるのも望月のような友人がいたからかもしれない。」
「それって?」
「僕は両親に関しては状況は恵まれてはいなかった。しかし、その両親のお陰でいい学校に行くことができて、学友ができた。」
「羨ましい限りです。」
「そうだね。君は全部切り開いて、銀上女学校までやってきたんだもんな。」
「私みたいに尋常小学校も出ていない人物が女学校に入れたのも奇跡です。」
「そこは、嘘をついてるんだろう?」
「はい。秩父の尋常小学校を出ていることになっていて、そのあとは、所沢の女学校から編入したことになってます。」
「学歴偽装できる実力があったということだね。君はいつも勉強している。」
そう言われればそうだ。辻と出会った時も、勉強の最中だった。
「僕はね、君のようなまっすぐな人にも美しい嘘があるのも魅力だと思ってるよ。」
「私にとってはいつもバレるのではないかと怯えています。」
「堂々としていることさ。それが一番の特効薬だよ。」
「でも。」
「君は何もしていなくても目立つ。だからこそ気をつけようとして怯えてはいけないんだ。その嘘の経歴だって、本当だと思って生きればいい。」
辻は恵まれてるからそんなこと言うんだ。と、思う一方、そうだなと思う。
「先生。私、職業婦人にもう見えますか?」
「職業夫人の見習いには見えるよ。それは、君が若すぎると言うことさ。」
「そんなに幼く見えます?」
「まだ、顔があどけなくて。でも、そんな時に君に出会えたのは神のおかげかな。」
「先生ったら!」
こう言う時も冗談を言う辻が本当に愛おしい。
夏の日が車の中に差し込んでいる。窓は空いているが暑い。
しかし、二人には幸せの光が降り注いでいるように、坂本には見えた。
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