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第八章 遭遇

17、坂本への相談

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バーで1時間ほど飲んだあと、辻と富田編集長は店を出た。

「ちょっと、思い出した仕事があったから、辻さん先にお帰りになって。」
「こんな遅くに大丈夫ですか?」
「結婚歴でバツがついた女ですよ。ご安心を。」
足取りも軽く、富田編集長は編集部に向かっていった。

辻は一方、近くに停めてあった坂本の車へと向かった。
「坂本、待たせたね。」
「いえいえ、こちらも軽く食事させ手いただきました。」
「それはよかった。」

後部座席に辻が座ると車は発進した。
「なあ、坂本話をちょっといいか?」
「はい、いかがなさいましたか?」
「櫻くんのこと、富田編集長に相談したんだ。そうしたら、望月の養女っていうのはどうかって言われたよ。」
「ああ、その手がありましたか。」
「率直に坂本はどう思う?」
「年が近すぎるのはどうかと思いますが、望月様のご子息も10歳で櫻さまと6歳しか変わりありません。年齢はそこまでこだわらなくてもよろしいかもしれません。」
「他に何か気になるところは?」
「アグリ様はお店をされてますが、ヨウスケ様はまだ新進気鋭の文士。お父上がどう思うか。」
「望月は今編集者もしているよ。」
「でも、まだ駆け出しですよね。ただ、実家の望月家は群馬でも有数の大きなお家ですし、辻のご主人様がどう思うかは。」
「そうだね。でも、僕は望月の家は目から鱗だったんだ。」
「目から鱗?」
「田中家しかないかなって思っていたから、他の家でもいいのかもしれないってね。」
「そうですね。坊っちゃまは思うと考えてしまいますからね。」
「僕の話を聞いて全体的にどう思った?」
「望月の家ということも他の家ということも色々お考えしてみるといいと思います。例えば、百貨店の佐藤支店長なども櫻さんをとても買っていましたしね。」
「そうか、佐藤支店長のことも忘れていた。」
「未来は無限大ということです。それは職業につく櫻様にも言えます。きっといいように進みますよ。」
「ああ、君に相談してよかった。」
「今日はゆっくりと車を走らせながら、外の景色を楽しみましょう。」

辻は坂本の優しさをありがたく思い、外の景色がキラキラして見えた。
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