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第十章 冬休み 旅行に出る

10、布団での話

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夕飯はツエの店でたべ、案内された下宿へと行った。

「2人ともたくさん食べてくれるから、作り甲斐があったってもんですね。」
「ツエの料理が上手いんだよ。」
「そうそう、僕なんて、まだまだ食べられる気がするよ。」

3人は和やかに話した。

「では、この奥の部屋を使っていいそうなので。鍵はこちらです。」
「どうしてツエがここの鍵を持っているの?」
「飲みすぎて帰れなくなったお客さんとかをここに運ぶこともありますからね。」

「じゃあ、私は店に戻ります。明日、帰る時、また寄ってくださいな。鍵を預かりますからね。」
「ありがとう。」「僕もありがとうございます。」


2人でツエを見送った。
「まあ、じゃあ今日は疲れたし、布団を敷いて寝るとしますか。」
「辻くん、お酒はいいの?」
「ああ、ツエのところでもらった程度で大丈夫だよ。」

2人で押し入れから煎餅布団を出し、それを引いて寝た。

「ねえ、辻くんまだ起きてる?」
「ああ、まだ起きてるよ。」
「あのさ、僕、今日の1日が信じられない1日のような気がするんだ。」
「どうして?」
「あのお腹の中に僕の分身がいるなんてちょっと不思議でね。」
「僕だって、望月くんと同じ立場になったら冷静じゃいられないよ。」
「ぼくさ、あの親子を片親で育てるようにしてしまっていいのかな?」
「君にはアグリくんがいるじゃないか。」
「うん。でも、どうにかして支援とか。」
「彼女は求めていなかった。片親で育った僕が見る限り、あの母親のもとで育ったら子供は幸せだと思うよ。」
「そう?彼女はそう見えた?」
「うん。彼女は芯があるように見えたよ。」

「さっき、辻くん、泣いちゃたね。」
「そうだね。まだ僕は母娘いしなのかもしれないね。」
「恋しいって母親だけによく使われるね。」
「子供にとって母親は父親以上に必要だよ。それを僕は大切にしたいと思う。」
「それって、櫻くんのこと?」
「そう。彼女を途中で放ったりしない。反対されても。」
「僕も、アグリの子供を大切にするよ。」
「いつか、あのお腹の子供に会った時、君がそれを受け入れてあげればいい。」
「ああ。そうだね。」

2人はしばらく無言になった。
そうすると、望月からスースーと寝息が聞こえてきた。

今日は本当に望月にとっては疲れただろうと思う。
身から出た錆とはいえ、できてしまったのは事実である。
子供の未来を明るいものになるように辻も祈って、眠りについた。
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