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第十章 冬休み 旅行に出る

11、次の目的地

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ツエに鍵を返して、大阪の街から出ることにした。

「さあ、次はそろそろ帰りながら旅行をしなくてはだよ。」
「辻くん、ちょっと遠回りになるけど、箱根にいきたいな。」
「全然遠回りじゃないじゃないか。」
「あ、箱根湯本じゃなくて、仙石原に行きたいんだ。」
「どうして?」
「あの彼女と旅行に行ったんだ、仙石原。」
「でも、もう彼女とはいけないよ。」

望月は鞄から大阪の写真ハガキを出した。

「あのね、こういう写真ハガキを買いに行きたいんだ。」
「買ってどうしたいんだい?」
「彼女に手紙を出したい。」
「思い出の場所だから?」
「そう。」

辻はちょっとデリカシーがないのではないかとも思ったが、望月が好きなようにしてあげようと思った。

「僕のわがまま旅になってるね。」
「そんなことないよ。君といると誰でも楽しい。」
「僕は呑気に生きてるからさ、普段ないことが起きると、何かしたくなっちゃうんだ。」
「それは誰でもだよ、望月くん。」

自分だって、櫻の前では尋常ではいられない時がある。
それは誰だってあるのだ。

望月は、周りに恵まれていた人生だったのかもしれない。
今回の彼女だって、本当は望月の家に乗り込んでいくこともできたのかもしれない。
しかし、それをしなかった。
密かに、男の名前で手紙を出し、望月に子供を産むことを知らせ、何も必要はいらないという。

「まあ、仙石原もいい宿があるしな。」
「あ、辻くんも行ったことあるの?」
「前に、ガールフレンドとね。」

「まあ、もう辻くんは櫻くんに夢中だから、他の女性とは無いんでしょ?旅行は僕との楽しみになってるね。」
「助かるよ。もう一回ガールフレンドを作ることは望んで無いからね。」
「イエッサー。じゃあ、切符を買おうか?」

2人は東京方面の電車に乗った。
大阪城が彼方に見える。ここに今度来るときはどんな時だろうか。
自分の未来がどうなるか、自分自身はわからない。

いろいろな経験が自分を成長させると辻が車中からアンニュイな気持ちで思った。
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