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第十一章 櫻の冬休み

22、キヨの仕立てデビュー

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冬休みの最終日、望月家にヨウスケと辻が帰ってきた。
昼間だったので、望月一家とお留守番をしていた櫻が対応した。

辻にエッセイが載ることを報告できたことも良かった。

辻は、家に帰らなければいけなかったので、早々に帰宅した。

「辻さんが、早くお帰りになって寂しい?」
アグリが聞いてきた。
「いえ、だって、明日からまた会えますから。」
「そうね。でも、いいの?」
「何がですか?」
「2人っきりの時間、明日から少ししか取れなくなってしまうのに。」
「でも、アグリ先生も望月さんと長く一緒にいなくても幸せそうです。」
「そうね。お腹に子供もいるしね。」

明日から学校ということで、気が引き締まる思いだった。
しかし、今までのようにつっけんどんな対応はしないでいこうと思っていた。
あのエッセイのおかげで、友人をきちんと作ってみようと思ったのだ。

今、櫻の友人はキヨである。

夕飯の時に、今日、仕立てのデビューをしたことでキヨはみんなにお祝いされた。

2人で夕飯後にテラスに行った。
「キヨさん、おめでとう。」
「ううん。やっとだわ。これから始まる。」
「どんどん夢を叶えてるキヨさんに勇気をもらってる。」
「そう?私は櫻さんから夢の後おしをしてもらってるのね。」
「そうですか?私たち、持ちつ持たれつですね。」
「でも、初めての仕立ては本当に緊張したわ。」
「緊張?」
「だってお客さんにメジャー当てて、仮縫いの針とかもう手が震えたわ。」
「聞いてるだけで、難しそうですね。」
「先輩たちがささっとされてるのが、本当にすごいと思う。」
「キヨさんにはやっぱり洋装店というか女性を美しくする職業が似合ってますね。」
「あらそう?でも、私は櫻さんが大物になりそうで、ちょっと怖いわ。」
「大物?」
「そう、今出版社にも行ってるでしょう?そこで、開眼というかね。」
「そんなことないですよ。でも、私、誰かの元に届くような文章を書きたいです。」
「経理の仕事はしないの?」
「食べていくためとはいえ、好きです。だから、洋装店の仕事もしていくつもりです。」

職業婦人になりつつあるキヨを頼もしく思った。
そして、櫻も一人前の職業婦人になりたいと思うのであった。
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