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第十二章 新学期

12、カヨの結婚観

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櫻は辻に送ってもらって、出版社に出社した。

おやつの時間らしく、タイピストたちは休憩室に行っていた。

編集長の冨田カヨは応接セットにいた。

「お疲れ様です、編集長。」
「あら、櫻さん。こんにちわ。」
「どうしたんですか?」
「ちょっとゆっくりしたくてね。おやつ休憩だから、コーヒーを飲んでたの。」
「編集長でもそう言うことあるんですね。」
「私だって人間よ。疲れることもあるわ。」

二人でふふふと笑った。

「櫻さんも卒業したらお仕事と結婚と大変になるかもしれないわね。」
「どう言うことですか?」
「私は卒業してすぐに結婚して、内緒で就職もしたからね。」
「結婚だけじゃダメだったんですか?」
「だって、働きたかったしね。それは櫻さんも同じでしょ?」
「でも、最初は我慢しなきゃいけないかもって思ってます。」
「そうね、辻財閥の奥様が働いてたら目立つしね。」
「でも、私、働きたいです。」
「私、あなたには仕事を続けてほしいわ。どんな形でも。」
「そう言っていただけると嬉しいです。」

ふと、冨田カヨは息を吐いた。

「どうかされましたか?」
「正直、結婚について考えることがあってね。」
「結婚するんですか?」
「いいえ、相手もいないわよ。でもね、前の主人が会いにきたの。この間。」
「知りませんでした。」
「そうね。でも久しぶりに会ったあの人、とっても悲しい目をしてた。」
「まだ好きなんですか?」
「もともと、恋愛で結婚したわけじゃないからね。でも、あの人の本当の姿を見ずに離婚しちゃった。」
「惹かれる部分があったんですか?」
「惹かれる、、、そうね。そう言うものじゃなくて、あの人が喜ぶようなこと何もしてあげなかったていう過去の後悔かな。。」
「じゃあ、次に出会う人と結婚した時に優しくすればいいんじゃないですか?」
「うーん。もう結婚はしないかなあ。」
「そうなんですか?」
「そう。結婚はもういいかなって。離婚する時のもう大変さったらもう経験したくないからね。だからと言って、櫻さんは素敵な家庭を築いてほしいわ。」


櫻は結婚はいろんな意味で難しいのだなと思った。
カヨの苦悩を聞いて、自分も茨の道が待っているのだなと思った。
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