上 下
195 / 416
第十二章 新学期

13、キヨとの話

しおりを挟む
出版社で働いた後、望月家での夕食をとり、キヨが櫻に話しかけてきた。

「ねえ、櫻さん、ちょっとお話いい?」
「はい、じゃあ後でテラスへ。」

部屋に戻って身支度をした櫻はテラスへと向かった。
先にキヨはきていた。

「ああ、櫻さんごめんね。」
「どうしたんですか?」
「今、仕立ての修行してるじゃない?」
「そう、大変ですか?」
「大変も何も!すごい大変よ。」
「キヨさんが言うくらいだから本当に大変なんでしょうね。」

「それで、今日は原点に帰りたくて、櫻さんと話したくなったのよ。
「どう言う意味ですか?」
「それがね。。」
「いいんですよ、他に話している人もいないし。」
「私専用のお客さんがつきそうなの。」
「え!すごいじゃないですか!」

「大手を振るって喜べないのよ。」
「どうしたんですか?」
「先輩のお客さんなのよ。」
「でも、お客様が望むなら」
「アグリ先生はそう言うんだけどね。」
「でも気が引ける思いはわかります。」
「櫻さんならわかってくれると思った。」
「でも、私助けられなくて。」
「ううん。そう言うことじゃなくて。聞いてくれる人がいるってだけでも助けになるの。」
「そうですか?」
「ねえ、私のような修行をしている人のことをいつか記事にしてくれないかしら?」
「え?」
「みんな、苦しい思いをしてると思うのよ。でも、ひとりぼっちだと思う。でも記事になっていたらそれがじぶんだけじゃあないって思うでしょ。」
「まだ、私は駆け出しですけど。力になれるか。」
「いいの。今じゃなくても。櫻さんにいつか書いてもらうって思えば、話す甲斐があるわ。」
「そう言ってもらうとありがたいです。」
「私ね、前にも言ったっけど、洋服からメイクアップまで全部できるお店を持つのが夢なの。」
「そうですね、聞きましたね。」
「今は、しっかりと洋装店の仕事を覚えて、それからお化粧のこと勉強するわ。」
「こちらもうかうかしてられませんね。」
「私の修行は長くなりそうだから、櫻さんの夢が叶う方が早いかもね。」
「まだ、私自身、ちゃんとした夢を見つけてませんが。」
「あなたはペンで戦える。それはしっかりと言える。」

真剣な顔をしてキヨは言った。
その言葉を聞いて、櫻は泣いてしまった。
素敵な人に囲まれている今の現状に。
しおりを挟む

処理中です...