上 下
207 / 416
第十三章 養女になる準備

1、アグリに誘われた素敵なこと

しおりを挟む
櫻は学校も仕事も終わり、望月家の夜を迎えていた。
夕食は美味しかったし、風呂も気持ちよかった。

部屋で次のポスターの案などを考えてノートに書いていた。

すると、櫻の部屋のドアをノックされた。
トントン。

「はい、江藤です。」
「あ、アグリだけど、ちょっといい?」
「はい、どうぞ。」

アグリを部屋に招き入れた。

「先生、どうしたんですか?」
「相談ていうか、私がしたことを伝えに来たの。」
「なんですか?」
「あなた、4月から佐藤支店長のところに行くでしょう?」
「うまくいけば、ですが。」
「私ね、なんだかあなたをお嫁に出すような気持ちなのよ。」
「え?」
「妹のように思ってるしね。この家からいなくなってしまったらって寂しくてね。」
「ありがたいです。」
「そう?」
「私、この家に来て、本当に幸せなんです。」
「うん、よかった。だから、何かしてあげたいのよ。」
「そんな、この家に居られるだけで本当に幸せですから。」
「そう言わないで。私にも姉らしいことをさせて。」
「それってどうことですか?」
「たとえば、臨月に入る前に旅行に行かないかしら?」
「え?大丈夫ですか?」
「もちろん、淳も姑も一緒だけどね。」
「望月さんは?」
「風船さんはお留守番えね。」
「もし、私が産気づいても母がいれば大丈夫よ。」
「私、旅行に行ったことないんです。」
「あら?そうだったの。」
「はい。故郷の秩父と東京しか知りません。」
「旅行はいいわよ。すっきりする。」
「行き先は?」
「私の地元の群馬の伊香保はどうかしら?」
「遠くないですか?」
「もし、よることができたら、群馬の望月の家も行きたいしね。」
「先生のルーツを知ることもできるなら、行ってみたいです。」

櫻はワクワクした。
旅行は初めてだから。

「私初めてで、何から準備したらいいかわからないんですが。」
「旅館に泊まるから手ぶらで大丈夫よ。下着くらい替えがあれば他の荷物は大丈夫よ。」
「何も知らなくてすみません。」
「ううん。一緒に行ってくれるってわかって、本当に嬉しいわ。」
「私もなんだかワクワクします。でも、いつ?」
「お腹も大きすぎるとまずいから来週末はどうかしら?」
「来週末?」
「あなたの仕事の調整はするわ。安心して。」

ということで、櫻は人生初の旅行を経験することになった。
心の中は、とても期待に満ちていた。
しおりを挟む

処理中です...