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第十五章 佐藤櫻として

9,父の帰宅

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7時過ぎにベルが鳴った。
ナカが玄関へと行くと、父親の帰宅であった。

「やあ、櫻。夕食はまだかい?」
「はい、皆さん、お父さんが7時過ぎになるから一緒に食べられたほうがいいってうかがって。」
「うれしいね。じゃあ、寝間着にきがえてくるから、ダイニングで待ってておくれ。ナカ、食事よろしく。」
「はい、ご主人様。」

そういわれて、ナカはキッチンへ、櫻はダイニングに向かった。

ダイニングには冷めても食べられるものがすでに置いてあった。
しかし、二人分である。

気になった櫻はキッチンへ向かった。

「あの、」
「ああ、櫻お嬢様」
スエが出てきた。
「どうかなさったんですか?」
「あの、ご飯が二人分しかないように感じて。」
「そうですよ。」
「え?」
「ご主人様は女中とは召し上がらないんです。」
「それは?」
「以前ご家族がいた流れで、お食事は女中は女中部屋でと。」
「でも、おひるごはん、私と皆さんで食べたのに。」
「それはそうなんですがね。ご主人様はダイニングでは家族かお客様と召し上がりたいのです。」
「じゃあ、お客様がいらっしゃらないときはいつもおひとりで?」
「そうです、ここ数年間は。」

櫻は父親の深い悲しみを思った。
そして、その悲しみは果てしないものであると同時に、自分がその氷を溶かしたいと願った。
自分を救ってくれたこの新しい、素晴らしい父親に恩を返そうと。

そして櫻はダイニングに戻った。
「えっと、どこにすわれば。。」
食事を運んできたナカが上座の斜め向かいの窓側の席を案内した。
「ここでいいんですか?」
「はい、ご主人様は上座におすわりになるので。」

そういうと、女中三人は手際よく、料理を並べていった。
「では、お嬢様ごゆっくり。」

そのすぐあとに、寝間着に着替えた父がやってきた。
「ああ、お父さん。」
「櫻、待たせたね。」
「いえ、ぜんぜん。」
「おなかすいたろう。たんとおたべ。」
「では、いただきます。」
「いただきます。」

二人で他愛もない会話をしながら夕食を食べた。
昼間に女中と昼食をとった話や、辻が来てうれしかった話など。
それをにこやかな表情で父はきいていた。
その表情を見て、櫻はうれしくなった。
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