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第十五章 佐藤櫻として

16、新学期の準備

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辻の手紙を読んだ翌日、まだお休みだった櫻は朝ごはんを父と食べた後、ノートを持って書斎に行った。

もうすぐ新学期である。
その準備をしたいと思っていた。

普通の女学生だったら、新しい着物を仕立てたりとか、文房具を買いに行くものだ。
しかし、櫻は違った。
最終学年で何を勉強したいのか、その本を選びにきたのだ。

もちろん、父の書斎は図書室ではないので全てのジャンルが揃っているわけではない。
しかし、櫻は図書室にはない職業人である父の書斎に大変魅力を感じていた。

櫻の直近の夢は職業婦人になることだ。
しかし、何事にも修行は必要で、会社に入ってから教えてもらうこともあるだろうが、あらかじめ知っておくといいこともあると今までの仕事に就いた上で思っていた。

先日、政治の本を読み終わって、まだ政治の本を読みたいと思ったが、一度辻と話してからにしてもいいのかと思った。なぜそう思うのかというと、政治が果たして国に必要かというのを疑問に思ったからだ。
それを辻ときちんと話してみたいと思った。

そして、櫻は父の書斎から経済学の本と小説を選んだ。
経済学の本は実際に働く上で役に立ちそうだと思ったからだ。
小説はまだ翻訳されていない本だった。櫻の好きなシャーロックホームズの作者のコナンドイルが書いた、ロストワールドという本だった。
失われた世界。題名だけでもワクワクする。
小説から得られる英語を知ることができるのも嬉しかった。
だからこそ、小説を原書で読むことの面白さが最近よりわかってきた。

それを教えてくれたのはノアである。
彼女が英語で聖書を読むように教えてくれた。
櫻なりの解釈になるが、自分の栄養になるように聖書の文章が体に入ってきた。
それがいい体験になったのである。

明日、ノアに政治の話や経済の話をしてみようか。外国の人がどう思うのか知りたい気持ちもある。
そうだ、ピアノの練習もしておこうと今更思った。
今度は家にピアノがあるのだ。
いつか、人前で弾けるようになりたいという思いが強くなってきている。
辻のいう、宴でひく楽しさ。
望月家でノアが引いてくれた小さい鍵盤でも本当に感動した。
音楽というのは人の気持ちを楽しくしてくれる。

そして、櫻は本を数冊持って、自室におくと、リビンングに置いてあるピアノへ楽譜を持って向かった。
たどたどしいピアノであるが、その音色を聞いて、女中たちは微笑ましく見守っていた。
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