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第十五章 佐藤櫻として

17、坂本の来訪

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次の日、また午前中に書斎で本を読んでいた櫻はその世界に没頭していた。

スエが声をかけたのも気が付かなかった。

「櫻お嬢様。。。」

「櫻お嬢様。。。。」

「え?」
やっと櫻が気がついた。

「あ、えと何かありましたか?」
「今日、坂本さんがいらしてるんですが、櫻お嬢様にお会いしたいと。」
「ええ、あ、えと、どうしよう。」
「どうかしましたか?」
「書斎、散らかしてしまったから。」
「大丈夫です。端に置いておきますから。」
「すいません。スエさん。」
「もう、謝らない。」
「ああ、そうでした。」

スエに促され、リビングに行くと、坂本がソファに腰掛けていた。
手には紅茶を飲んでいる。

「ああ、櫻さん。」
「坂本さん、ようこそ。」
「そうでしたね。今日は、午後、ノア先生の時間だと思ったので午前に来ました。」

「何かありましたか?」
「いや、特別なことはないんです。櫻さんの様子を見てきてくれとぼっちゃまが。」
「辻先生が?」
「そんなに切羽詰まってはいないんですけどね。でも、気になさってます。」
「私は、この通り、元気にしてます。」
「そうですね。見ればわかりますね。」
「坂本さん、私変わりました?」

腰掛けた櫻をゆっくりと坂本は見た。
そうしてこういった。

「そうですね。そういうことで表現するといえば、変わってはいません。でも、変わっている部分もあります。」
「え?」
「あなたの芯の強さは全く変わってません。でも、柔和になられました。」
「柔和?」
「そう。あなたの怖がっていた怯えから発していた棘が抜けています。」
「棘。。。」
「坂本は安心しました。」
「私、そんなに怯えてるように見えました?」
「いいえ。」
「なら?」
「私はいろんな方とお会いします。みなさん気が張り詰めている方が多いです。そういう人は少なからず棘を持っています。しかし、櫻さん今の所、その感じが見えません。」
「ああ、でもいいです。」
「そうですか?」
「私、いい方にかわれたんだなってわかって。」
「この家の方々のおかげですね。」
「そう思いますか?」
「はい。この家は坂本が思うに、主人と女中というよりはワンチームといった感じです。」
「ワンチーム?」
「そう。スポーツのチームのような。協力体制なんです。櫻さんはもうチームの一員になられたんですね。」
「嬉しいです。」
「ぼっちゃまにも報告しておきます。」
「あ、えっと辻先生にお手紙のお礼してください。」
「ああ、そうでしたね。」
「お返事もなくてすみません。」
「ぼっちゃまはそんなことは望んでませんよ。ご安心ください。」

そういって、坂本は帰って行った。
安心した櫻は嬉しさで涙が出てしまった。
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