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第十六章 最終学年

7、初日は電車でお帰り

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銀上の始業式はすぐに終わって帰る学校ではなく、四限まで授業があった。

あらかじめ、坂本から今日は車で送ることができないことを聞いていた。

昨日のことである。

佐藤邸に坂本がやってきた。

「櫻さん、坂本さんがお見えです。」
スエに言われて、リビングに通した。

「坂本さん、こちらでゆっくりなさってていいんですか?」
「ああ、ぼっちゃまは明日からの学校の準備が忙しいので、伝言を頼まれまして。」
「どういう?」
「ああ、それですね。明日はぼっちゃまの車ではなく電車で帰ってほしいとのことです。」
「全然、気にしません。何かあったんですか?」
「ああ、櫻さんにはきちんと言わなくてはですね。ぼっちゃまの周辺でもしかしたら櫻さんとの密会を暴く人が出るかもしれないから、とりあえず、明日はよしておこうと言われたのです。」
「そういう動きがあるんですか?」
「まだ、はっきりしたことはありません。しかし、用心に越したことはないのです。」
「そうですね。でも、私が佐藤になったことも関係してますか?」
「はい。その通りです。」
「え?」
「佐藤の令嬢ともなれば、櫻さん自体を嫁にと思う方も増えます。」
「え?どうして?」
「佐藤支店長との繋がりを持ちたい商売人というのはことの外多いのです。」
「お金持ちの世界ってそれはそれで大変なんですね。」
「そうですね。私も支えている立場ですが、ぼっちゃまも社長も大変です。」
「私、そんなところに入っていけるんでしょうか?」
「櫻さんが選んだ道でしょう?」
「私が。。。」
「櫻さんが、ぼっちゃまを選んで、ぼっちゃまも櫻さんを選んだからこの家に。」
「そうですね。」
「もしかしたら、少しの間、車での密会は週末だけになるかもしれません。」
「私は全然構いません。今までがあまりにも恵まれていたので。」
「佐藤支店長から電車の話聞きました?」
「ああ、お父さんは電車で出社していくのが好きでその話を聞いて、私も気持ちが変わりました。」
「よかった。本当は2往復しようかとも思ったんですよ。」
「え?」
「櫻さんとぼっちゃま別々に。」
「坂本さん、働きすぎです。」
「冗談ですよ。」

二人はその後、雑談をした。坂本の外国話はとても面白かった。
そして、櫻は翌日電車で帰ることにしたのだ。しかし、目的地は佐藤邸ではない。
今日は久しぶりの出版社に行くことになっている。
ワクワクしながら、新橋を目指した。
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