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第十六章 最終学年

21、弟子たちの話

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まさに出産に立ち向かってるアグリのその時、望月洋装店は意外にも暇な時間であった。

「ねえ、先生朝から陣痛来てたから、平気かしら?」
「そうねえ、今日今って感じかも?」
「どうしよう?帰ったら出産だったら?」
「いいじゃない、お手伝いできなるなんて。」

そんな話をしていると、みんなを嗜める声が聞こえた。
一番弟子の市原だ。

「みんな、アグリ先生が一番喜ぶことをしましょうよ。」
「市原さん、それって?」
「あのね、このお店が繁盛して先生が戻ってきた時にああ、みんな頑張ってたのねって思うことよ。」
「でも、今日みたいに暇だと。」
「それって、私たちのせいじゃない?」
「え?」
「私たち弟子がちゃんとできていないからじゃない?」
「まあ、そうですけど。。」

みんなシンとした。

市原がもう一度言った。
「私たち、もっと楽しんで仕事しましょう。だから、今日のことなんて通り過ぎること。先生に子供が産まれてもお店が続いていくわ。もっと盛り立てましょう。」

みんなが心が一つになった。

店のドアが開いた。
辻社長である。

「ああ、望月くんはお休みだったね。」
「はい、先生は臨月で。」
「では、市原君にお願いするよ。」
「今日のお仕立てはどうなさいますか?」
「外国のお客様が来月来るんだ。イギリス風の仕立てのスーツをお願いしたい。」
「かしこまりました。他のご所望のものはありますか?」
「ああ、もし生まれていてもいなくても、今日持ってきたものがあるんだ。」
「何を?」
「市原君、これを望月君に渡してくれるかな。」

それは辻百貨店の包装紙に包まれたものだった。
「これは?」
「ああ、ベビー服だよ。」
「じゃあ、生まれてから?」
「どちらでもいいよ、市原君にお任せするよ。」
「早くいただいてしまって申し訳ないです。」
「いや、もし、将来、ベビー服も望月君がするようになったらライバルだからね。」

その空間は辻社長の和やかな話で和んだ。
そして、弟子たちはいいお客さんが来てくれたと安心したのであった。
     
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