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第十六章 最終学年

60、ノアからの言葉

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ピアノのレッスンが終わり、イタリア語の勉強もひと段落ついた。
ノアは今日、家に夫がいるので子供のことは気にしないで少しアフタヌーンティーをしようと言ってきた。

「せっかく家族3人で過ごせる時間いいんですか?」
「人生には大事な時があります。私の家族は毎日会いますから大丈夫です。」
「どう言う意味ですか?」
「櫻、ちょっと色々ありましたね。」
「え?」
「さあ、紅茶を飲みましょう。」

ノアが持ってきてくれたスコーンはバターが効いて美味しかった。
紅茶ととても合う。

「美味しそうに食べてくれると、ノアも嬉しいです。」
「いえ、本当に美味しいので。」
「フランスの時、イギリス人の友人がレシピを教えてくれたんです。」
「でも、バターなんて高価じゃないですか?」
「主人は貿易関係なので時々手に入ります。」
「いいお仕事ですね。」
「ノアにとってもいいです。」

二人で笑った。

「さあ、櫻あんまり急に色々あったようですね。」
「はい、その通りです。」
「私は無理に聞こうとは思っていません。」
「いえ、ノア先生にも聞いて欲しかったんですけど、今がタイミングなのかが。」
「話すのにタイミングというのは重要です。でも、ノアに話したところでジュンには言いません。」
「え?」
「ジュンのことでしょう?」
「どうして?」
「人は恋をするととても苦しい思いもします。」
「そうなんですか?」
「私は国を超えて恋をしたんです。生半可?じゃないです。」
「ノア先生、恋はご主人とだけですか?」
「ノー。」
「え?」
「フランスの友人との間で何人か付き合いましたよ。」
「ちょっとびっくりしました。」
「自由恋愛ですよ。最初から主人と付き合っていたわけではありません。」
「どうして別れたんですか?」
「うーん。ノア、あるいは相手の心変わり。」
「心変わり?」
「そう。恋の終わりなんてそういうものです。」
「私、終わらせたくないんです。」
「ジュンですね。」
「そう。私、はしたないかも知れないけど、他の男性に魅力を感じて。」
「実際、行動はしていないのですか?」
「うーん。一度二人で話しました。その方と。」
「ノアは恋を止めたり、恋を勧めたりしません。でも、私は今の主人がベストパートナーとわかるまで時間がかかりました。」
「どうして?」
「西洋人じゃないし、嫌に真面目だし。」
「でも、選んだんですね。」
「他の人の魅力を見ると他方が見えなくなります。しかし、ジュンの輝きは色褪せません。」
「え?」
「私は、ジュンとは付き合ってません。でも、憧れたことあります。」
「そうだったんですか。」
「心の中は誰にも邪魔できません。櫻は思うままに見ればいいのです。」
「そうでしょうか。」
「ジュンに任せて、それで納得できなかったらまた考えればいいのです。」


ノア先生は日本人の視点とは違っていたが、アグリと同じように櫻の気持ちを優先するようにアドバイスしてくれた。それが、とても心強かった。
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