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第十六章 最終学年

64、ナカの優しさ

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櫻は色々な人から意見を聞いて、まだ未来は未確定だということを知った。

父から昔の恋愛話を聞いた時、自分がゴールにいるのではなく、スタートにも立っていないことに気がついたのだ。
辻との恋愛はまだ始まったばかり。
その、まだ、を知りたかったのだ。

トントン
お風呂上がりの部屋にノックされた。
「どうしましたか?」
櫻は聞いた。

ナカが
「ちょっと宜しいですか?」
「え?ああ、はい。」

夜にナカが訪れることはなかったので少しびっくりした。
「どうかしましたか?」
「ちょっとお嬢様にお話ししたくて。」
「あ、じゃあ、椅子へ」

ナカを椅子に座らせて、自分はベッドに腰掛けた。

「どうしたんですか?」
「あの。」
「はい。」
「今日、ある出版社の方が来て。」
「何の用ですか?」
「それが、櫻お嬢様は?って」
「え?」
「でも、櫻お嬢様は出版社でも働かれてるし、邪険にできなくて。」
「何か聞かれたんですか?」
「いつからこちらのお宅にって」
「どう答えたんですか?」
「お付き合いは昔からでって言いました。」
「ああ、助かりました。」
「これでよかったんでしょうか?」
「え?」
「私の答え方がいいのか、他の二人に聞けなくて。」
「いいんです。急に私がこの家の養女になったのはスクープになるかもしれませんし。」
「お嬢様。そう言っていただけると。ただ。」
「ただ?」
「あの、男性関係はお気をつけなさった方がいいかもしれません。」
「え?」
「今、週刊誌では令嬢のお相手探していうのが流行ってて。」
「そうなんですか?」
「そうです。見目麗しい令嬢の特集でお相手を予想するっていうのが。」
「大概ですね。」
「でも、櫻お嬢様狙われそうで。」
「ああ、私は見目麗しくないですよ。」
「そんなことはないです。」
「え?そんな。」
「お嬢様は自分を過小評価しています。」
「私ごときがっていのはありますが。」
「だからこそ、そうであっても大丈夫なように辻のぼっちゃまも裏口から入っていただくようにしていただく様にしなくては危険かもしれません。」
「それはそうかもしれません。辻先生は話題になりやすそうですね。」
「女中如きがすみません。」
「いいえ。私はそれより身分は低かったからナカさんの勇気がありがたいです。」
「お嬢様、本当にお気をおつけになって。」
「そうします。それと、本当にありがとうございます。あと、父と他の女中さんにはちょっとの間秘密にしてもらいますか?」
「どうして?」
「一度、辻先生に相談したいのです。」
「はい。でも、ナカにも皆さんにいうときはお知らせください。」
「そうします。」

ナカは部屋を出て行った。その親切に櫻は感謝した。
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