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第十六章 最終学年

94、望月の再来

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辻がもう少しで帰ろうというところで玄関のベルが鳴った。

来訪者は望月だった。
対応したナカは家の中に案内した。

「あれ?辻くん来てていいの?」
「ああ、変装したからね。」
「洋装もいいね。」
「アグリくんのお店から拝借してきたよ。」
「辻くんはいろんなところでお着替えできていいね。」

二人の何気ない会話が始まった。
「望月くん、会って早々申し訳ないんだが、帰るところなんだ。」
「なあんだ。最近はイケズだね。」
「研究が佳境なんだ。」
「僕は書くものもなく、運転手してるよ。」
「感謝するよ。君に頼んでよかった。」
「辻くんがまともなこと言うとつまらないね。」
「どうしたんだろうな。」
「そうだよ。もっと、おかしくしてよ。」
「望月くんは要求が高いな。」

櫻は二人のやりとりを見て、微笑ましかった。
「いいですね。」
「え?」
「お二人の関係。」
「櫻くん、これは悪縁かもしれないよ。」
「そんなことはないです、辻先生。」
「僕と望月は月と月だな。」
「え?」
「太陽じゃない。」
「でも平塚さんは女性が太陽だったって。」
「うん、僕たちはそう思ってるよ。だから男は月。」
「先生と知り合えてよかった。」
「うん。」

それを見ていた望月がつぶやいた。
「ねえ、二人のイチャイチャする姿を見せられる身にもなってよ。」
「え?」
「君たち、思ってる以上にダダ漏れしてるよ。」
「何がですか?」
「お互いを思う気持ちってのがさ。」
「恥ずかしいです。」
「それはそうだ。」
「だからさ、うちの夫婦みたいに外ではさっぱりしてよ。」


辻は望月に戒められたのが悔しかったのか、言い返した。
「でも、君たちのはさっぱりじゃなくて独立だろ。」
「ああ、いい意味でね。」


櫻は慌てた。喧嘩されては困る。
「喧嘩はやめてください。」


「え?」「え?」
二人の男性は目を丸くした。


「ああ、櫻くん、気にしなくていいんだよ。僕と望月はこんな感じだよ、いつも。」
「そうですか?」
「僕たちのことで言われたから気にしなくていいよ。」


「ねえ、またそうやってさ、恋人のランデブー。」
望月が囃し立てた。


「いいね、ランデブー。」
「そうですね、ランデブー。」

どうやら辻に軍配が上がったようだった。
そんな二人の友人関係を櫻は羨ましいと思った。
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