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第十六章 最終学年

97、スタア

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望月と通学するようになって、車内の会話は櫻にとって有意義になった。

「望月さん、聞きたいことがあって。」
「何?」
「どうやって書くことを勉強したんですか?」
「勉強じゃないよ。」
「え?」
「本を書く、小説を書くというのはね、どれだけ読んでるかってこと。」
「他の人の文章をですか?」
「その通り!御名答!」
「でも、他の人の文章を読むとそれによってしまいませんか?」
「それも、その通りだよ。僕の最初の方の作品なんて辻くんの真似事だしね。」
「先生の?」
「うん。辻くんに半ば誘われて始めたからね。」
「先生はその作品を読んでどう言ったんですか?」
「君はスタアになるって言ったよ。」
「スタア?」
「そう、空に輝くあれだよ。」
「星。。。。」
「真似事がどうしてって僕だって聞いたよ。」
「どう答えたんですか?先生は?」
「学ぶと真似ぶは語源だよってね。」
「真似ぶ。。。。」
「だからさ、櫻くんは書くことも勉強のうちだけど、書くことの前に色々読んでみるといいよ。」
「私、影響受けやすくて。。。」
「いいんだよ。あ、でも参考書は別だよ。」
「どういうことですか?」
「ああ、それはね、英語と国語とか数学とか、一つの参考書をとことん突き止めた方が身に入るんだ。」
「さすが、帝都大は違いますね。」
「いや、帝都大だからってじゃないよ。どの学校だってそうだよ。櫻くんだってそう勉強したんだろ。」

櫻は思い出した。自分が尋常小学校にも通えず、奉公先のお嬢様からいらなくなった教科書をもらって夜更けまで何回も読んだことを。それで、女学校の2年に編入したことを。


「どうして、私がそうって。」
「辻くんから少し聞いてね。」
「先生が。。」
「あ、嫌な意味じゃないから変に撮らないでよ。辻くんはいい意味で努力家の君を僕にプレゼンしたんだ。」
「プレゼン?」
「ああ、うちに置くときに紹介文をあつらえたんだよ。」

辻先生はそこまでしてくれていたのかと櫻は感謝した。

「あの、望月さん。」
「うん?」
「おすすめの参考書ってあるんですか?」
「それは、今君が教わっている家庭教師からもらっているものを少なくとも毎日やることだよ。」
「毎日?」
「そう。覚えちゃうくらいにね。」
「望月さんは何を覚えちゃったんですか?」
「英語と日本史は何ページに何書いてあるか覚えてたね。」
「え?忘れちゃったんですか?」
「そりゃ、受験が終わったらね。」
「それは勉強した甲斐がないっていうか。」
「いいの。大切なことは勉強し続けるしね。」
「そうなんですか?」
「うん。僕はまだ坂の途中だな。」
「坂の途中?」

望月は謎めいた言葉で締めたが、櫻は勉強法を知ることができて、それはとても良かった。
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