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第十六章 最終学年

99、アナナス

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櫻は学校の庭にいた。
和枝は夫人会講習に行ったのだ。
下校してもいいと言われたが、なぜか学校にいたかった。

和枝は結婚に前向きになってると言っていた。
時間は巻き戻る。

「ねえ、櫻さん。」
「和枝さんどうしたの?」
「今日の講習会出てみようと思うの。」
「あら、結婚に前向きなの?」
「うん。。。実はね、ちょっといい人がいるの。」
「あら、そんな。いいわね。」
「不器用な人なんだけど、櫻さんみたいな人なのよ。」
「私みたいな人?」
「そう。思想がちゃんとしてる人。」
「和枝さんがいいと思うなら素敵な人なんでしょうね。」
「うん。だから就職はするかもしれないけど、結婚後のことも考えておいてもいいかなって。」


講習会に和枝はそう言っていた。


そして、櫻はフランス語の参考書を手に学校の中庭にいる。
ふと、大きなカラフルなパイナップルのような花に目が入った。
少し覗き込んでいると、後ろから声をかけられた。
「佐藤さん?」
「え?」
振り返ると、辻だった。
「あ、先生。」
「うん。こうやって話すのは自然だろ。」
「先生は講習会いなくていいんですか?」
「僕の担当じゃないしね。一応、最初だけいて若葉くんに任せてきたよ。」
「ああ。」

ここで、若葉の一件を話すべきでないのはわかっていたので、櫻は花の話をした。
「あ、先生、この花知ってます?」
「うん。アナナスだよ。」
「アナナス?」
「パイナップルの一種でね。」
「パイナップル?」
「ああ、櫻くんは食べたことはないか?」
「はい。」
「和名もあるんだけど菠蘿(はら)ともいうんだよ。」
「ダイナミックだけど、綺麗ですね。」
「強い花だよ。僕は好きでね。君みたいだよ。」
「先生、こんなところで。」
「まあ、雑談と思えば。」

そこで、辻は他の先生が通ったので、櫻に礼をして、去った。
家に帰った後、櫻はアナナスの花言葉を調べた。
「私にとってあなたは最愛の人です」「大切な気持ち」

まさに櫻が辻に思っている気持ちだった。
辻は知っていて、自分に言ったのだろうか。
アナナス。
きっと忘れれない。
そう心に刻んで、櫻は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
アナナスの下に落ちていた花の花びらを持って帰って、フランス語の参考書に挟んでいる。
これを宝物にしようと、思った。
素敵な二人の思い出の花が増えたのだった。
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