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第十六章 最終学年

100、夜の怪物

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櫻はなぜか眠れない夜を過ごしていた。

幸せだからなのか。
いや、若葉の脅威に怯えているのか。

よくわからなかった。

想像の中で、辻が言っていた夜の電信について考えてみた。
未来は夜でも遠くの人と電信、通信ができるようになると言っていたのだ。

本当にそんな頃が来るのだろうか。
そうしたら、時間を構わず自分は辻と話したり、文章を送りあったりするのだろうか。
想像の域は出ない。

でも、自分の中を占めるこの夜の怪物から辻なら救ってくれるような気がした。

しかし、今ではこの底知れぬ恐ろしさが自分を攻めて君臨するような気がした。

トントン

ノックされた。
「櫻お嬢様?」
「あ、ナカさん?」
「電灯がついてて。」
「良かったら、入ってください。」
「じゃあ。」
寝巻き姿のナカが部屋に入ってきた。

「お嬢様、こんな遅くになにされたんですか?」
「考え事っていうか、なんか頭がぐるぐるして。」
「櫻お嬢様もそんなことがあるんですね。」
「え?」
「いつもニコニコなさってるから。」
「うーん。幸せです。でも、それが確固たるものと確信してないから怖くて。」
「それはありますね。」
「ナカさんもそう思います?」
「私はこの家の女中で幸せなんです。でも、もし佐藤の家が無くなったら、って考えます。」

櫻は考えたことがなかった。
自分が嫁いで、この家の主人がいなくなる未来のことを。

「ナカさん。」
「はい。」
「私が婿取りした方が幸せって思います?」
「それは私からは言えません、。」
「どうして?」
「櫻お嬢様の幸せはご自身の中にありますから。」
「でも、私、ちゃんと家のことも考えてこなかったから。」
「きっといい未来を櫻お嬢様ならしてくださるかも知れませんね。」
「え?」
「もし、私たち3人が女中として行き場を無くしたら、呼んでください。」
「よぶ?」
「嫁ぎ先でも、ご主人との家庭でもいいです。」
「私、そんないいところに行けるかな?」
「櫻お嬢様は後世に名を残しますよ。」
「持ち上げすぎです。」
「私ね、実は書くのは不得意だけど、読むのは好きなんですよ。」
「知らなかった。」
「だからね、お嬢様の雑誌毎月読んでるんです。」
「嬉しいです。」
「お嬢様、時々書かれてるでしょ。」
「え?」
「ナカは半年近く過ごして、すごくその引力を感じました。」
「私の文章かも知れないもの読んでどう思いました?」


ナカは一呼吸おいて、言った。
「荒削りです。でも、心があります。」
「嬉しいです。私、頑張ります。」
「でも、勉強も疎かになさらずに。。」

二人でふふと笑った。
どうやら櫻の中の夜の怪物は逃げて行ったようだった。
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