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第十六章 最終学年

121、偶然の必然

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櫻は学校にいたが、今日は誰ともいなかった。
クラスのほとんどが、今後の夫人に必要な授業に出てしまったからだ。

すでに婚約が決まっているものもいったので、実際教室に残ったは櫻だけだった。

今日は昨日の秋雨と違って、木漏れ日が清々しい、秋の日だった。

「やあ、佐藤くん。」
「辻先生。」
「こういう形なら、大丈夫だろ?」

「はい。」
「勉強をしながらおしゃべりしようか?」
「おしゃべりって。」
「うん、最近、できてなかったしね、」

辻も匂わせる発言をしていた。
「先生、ちょっと意地悪。」
「そう?」
「あの、この単語がよくわからなくて。」

そうして、勉強を教えてもらっていた。
「ね、君は春の人だけど、秋も似合うね。」
「急に何いうんですか?」
「急じゃないよ。」
「え?」
「君に言いたかったんだ。」
「どうして?」
「だって、愛おしいから。」
「私の心が割れてても?」
「そう。割れてても。」
「私、自分でも」
「うん、わかってる。」
「わかってて、傷ついても?」
「僕はいいんだよ。」
「何がですか?」
「傷も含めて君とだから。」

そう言われると、ますます、追い詰められたような気がした。

「ねえ。」
「はい。」
「大杉くんの手がかけた?」
「いえ。」
「どうして?」
「書こうとしても、なんだか空を掴むような気がして。」
「空を掴むか。」
「変ですか?」
「ううん。君はまだ彼と知り合ってまが無いからね。」
「でも。。。」
「答えを性急にする問題でも無いんだ。」
「私、先生との将来ちゃんと考えたいんです。」
「しっ」
「あ、いつも癖が。」
「ここは教室。」
「でも、大杉さんのこと言ったの先生だし。」
「まあ、もし彼を知りたいと思ったっら、彼の寄稿した文章を取り寄せるよ。」
「誰からですか?」
「カヨくんから。」
「ああ、編集長。」
「そう。」
「え?でもどうして?もしかして、編集長って。」
「うん。そうだよ。」
「どうして教えてくれなかったんですか?」
「知っても、嬉しく無いだろ?」
「知ってたら、気持ちが大きくならなかったかもです。」
「うん、わかってた。」
「なら?」
「うん、僕は彼が不利な条件を提示したくなかった。」
「いずれ知ると知っていても?」
「うん、受け止められる君なら。」
「いま、受け止められてません。」
「櫻くんらしいね。」
「え?」
「そんな嫉妬はさ、僕の前で。」

ハッとした。
櫻は感情的になっていた。
時間はまだ10分しか経っていなかった。
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