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第十六章 最終学年

125、ごめんね、少し待って

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家について、車を降りて、家に帰った。
前もって望月が伝えてくれたそうで、女中たちは心配していなかった。


「櫻お嬢様、荷物を置いたら、リビングへ。」
ナカが言った。

櫻は何があるのか分からず、自室に戻って荷物を置くとリビングへ行った。

「やあ、先生。」
「え!淳之介くん?」
「そう!」
「ちょっと久しぶりだね。」
「うん、先生が受験に専念するからって、だから会いにきたよ、」
「どうやって?」
「お父さんが車に乗せてくれた。」
「え?」
「あ、さっき女中さんが紅茶を淹れてくれたよ。一緒に飲もうよ。」

淳之介に導かれ、櫻は一緒に紅茶を飲んだ。
「ねえ、先生?」
「何?」
「先生は結婚するの?」
「え?」
「だって、さ。うちのママ、女学校の時、結婚したんでしょ?」
「そうだけど。」
「女の人は10代でみんな結婚するって聞いたよ。」
「誰から?」
「おばあちゃん。」
「まあ、そうなんだけど。」
「先生は違うの?」
「私は師範学校でてから決めようかなって。」
「よかった。」
「え?」
「先生がお嫁に行っちゃったら会えなっくなっちゃうじゃない?」
「そんなことありませんよ。」
「どうして?」
「だって、先生は先生でいて欲しいから。」
「淳之介さんの先生は辞めませんよ。」
「そう言ってもさ、パパが先生はいつお嫁に行くか分からないなんていうんだ。」
「望月さんが?」
「僕はまだ中学だし、先生に教えて欲しい。何より、先生は僕のお姉さんだから。」
「そうでしたね。私も可愛い弟を持てて嬉しいですよ。」
「じゃあ、約束だよ。」
「何の?」
「そうね、先生を辞めない、お姉さんでいること、この二つ。」
「よかったな、ほんと。」
「でも、どうして望月さんは結婚なんて。」
「お父さんの友達の妹さんが銀上にいて、ほとんどが結婚するって言われたんだって。」


望月も講演会のことを聞いたのだろうと思った。
そして、櫻は彼女たちの将来を少し心配した。

「先生、どうしたの?」
「ううん。未来は無限なのにね。結婚しか選択肢がないのは悲しいなって。」
「ごめんね、少し待って。」
「え?」
「僕が小説家になったら、世の中伝えるからね。」
「楽しみにしてます。」
「本気にしてる?」
「もちろん。」


淳之介がのちの文豪になることは考えず、可愛い弟のその姿を本当に応援したかったから櫻は答えた。そして、夕食の時間前になると、望月が迎えにきて、帰って行った。
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