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第十六章 最終学年

126、答えを恐れる前に

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秋のある日、鈴音は隅田川を眺めていた。

最近、望月もあまり来ない。
まだ、自分は半玉の芸妓になりれていない。
自分が自信を持ってお座敷に出たいけど、相談相手がいない。

少し前に望月が来た時のやり取りを思い出していた。
「ねえ、お兄ちゃん、最近何してるの?」
「ああ、運転手さ。」
「え?小説書いてないの?」
「ああ、今は書けない期間かな?」
「書けない期間?」
「頭がぼやけて何にもないのさ。」
「それで運転手?」
「うん、辻くんが櫻くんを送迎してくれってね。サラリーもらえるし。」
「え?サラリー?」
「僕らしくないって?」
「うん、お兄ちゃんらしくない。」
「うん、そうだよ。でも、今は今で幸せなんだ。」
「そうなの?」
「和子の世話もできるしね。」
「ああ、赤ちゃん?」
「うん。初めての子育てだよ。」
「淳くんは?」
「ああ、あいつはもう大人だしね。」
「でも中学生よ。」
「鈴音だって、今の淳之介より年嵩が低い時に奥屋に来たじゃないか。」
「そうだけど。」
「そういうもんさ。」
「どういう意味?」
「ま、鈴音らしい芸妓になればいいのさ。」
「私らしい?」
「たとえば?」
「前に、櫻くん連れてきただろ?」
「そうね、女学生の。」
「あの子、鈴音よりずっと貧乏な家に育って、今じゃ佐藤のお嬢様さ。」
「え?!佐藤支店長の?」
「そう、その通り。」
「知らなかった。」
「まあ、櫻くんがあまり言わないでって言ってるからね。」
「でも、すごい。。。」
「鈴音だって奥屋の女将だって、料亭仕切ったってそれ以外の未来だってあるさ。」
「どんな?」
「たとえば、お金持ちの奥方とかね。」
「私だったら、多分囲われて、隅田川の向こうで住むことになるわ。」
「それは鈴音にとって嫌な未来?」
「うーん。今はわからない。」
「だったらさ、夢を持った方がいいよ。」
「え?」
「芸妓になりたい夢はまだ持ってるんだろ?」
「うん。でもその先はわからない。」
「芸妓上がりの小説家もいいかもしれないよ。」
「女が小説なんて世の中が認めないわ。」
「そう?」
「うん。だから、このままでいたい。」
「それが夢?」
「わからないって言ってるじゃない。」
「鈴音、お前は人より努力してるのを隠してる。そしてそれが身になってないのが歯痒いんだろ?」
「その通りよ。」
「そう、怒らないで。人生は長いよ。」
「どうすればいいの?」
「鈴音の生きてきた後ろ側は間違ってないだろ?」
「うん。」
「だったら、続けることさ。」
「お兄ちゃんはまた小説書く?」
「もちろん。」
「よかった。」


隅田川の川からくる風が冷たくなってきた。
鈴音はあの感じの望月とまた話したいと思った。
そして、櫻にも会いたいと思った。
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