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第十六章 最終学年

124、それだけの意味を持つ、繰り返してく

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櫻は迎えにきた望月の車に乗った。

「急に時間ずらしてもらってありがとうございました。」
「いや、こっちも和子に会えたし。」
「和子ちゃん、いい子ですね。」
「いい子って?」
「あんまり泣かないし。」
「泣く時は泣くよ。」
「え?」
「人から見るとさ、手のかからない子でいいですね、とかアグリが言われてるのを見ると、少し考える。」
「何を?」
「だってさ、アグリは手のかかる時もいるんだよ。」
「。。。」
「他人がさ、とやかくいうのってどうかと思うんだよね。」
「それには意味があるんですか?」
「そう、繰り返していくね。」
「何か収穫は?」
「うーん、鈍感になることかな。」
「え?」
「人の意見に鈍感になることだよ。」
「鈍感。。。」
「敏感がいつもいいとは限らない。」
「でも。。。」
「櫻くんはいつも敏感だよね。」
「そう言われると。。」
「だからさ、僕としても、やっぱりさ。」
「え?」
「夫婦ともに鈍感でいたいわけさ。」
「でも、なんとなくわかります。」
「好き好んで、こうなったんじゃないさ。でも、選んだのは僕たち。」
「いい夫婦ですね。」
「ま、僕のわがままも引き受けてくれる奥さんだしね。」
「でも、もっと構って欲しいですか?」
「アグリは僕の所有物じゃないよ。だから、彼女が僕を欲した時だね。」
「欲した時?」
「そう、愛の形。」
「愛の形って辻先生も言ってました。」
「愛の形は千差万別。お互いが納得してればいいんじゃない?」
「それは。。。」
「まあ、櫻くんは師範に入るのが先決だね。」
「プレッシャーかけないでください。」
「そんな用語知ってるの?」
「バカにしないでください。」
「まあ、人生長いようで短いよ。学生時代はかけがいのない時だからね。」
「なんだか、いつもの風船の望月さんと違いますね?」
「いや、風船のままだよ。ただ、櫻くんが見る視点が変わっただけじゃない?」

ふと、思った。自分が最近変わりつつあることを。
そして、辻を思った。

「やっぱり、辻先生のおかげかな?」
望月が聞いてきた。
「それは、あります。」
「ま、いいよ。今日はプレゼントを用意したからね。」
「え?プレゼント?」
「家に帰ってからのお楽しみ。」
「えー、教えてくださいよ。」
「玉手箱は自分で開けるのが一番。」

いつもの望月に今度は思えた。
そして、櫻は家に帰ってのサプライズを楽しみにするのだった。
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