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第十六章 最終学年

133、こんなにも大切な瞬間のプリティ

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辻は大学の研究室にいた。
先ほど、坂本から手紙を預かった。

宛名も書いていない。
坂本に聞いたら、読んだら誰にも見られないようにと言われた。


中身を開けたら、櫻からの手紙だった。

衝撃を受けた。
いや、すごく感動した。


自分にこんなにも感受性があるとは思わなかった。

研究の休み時間に大学の庭を歩いていた。

池の前に坂本を見つけた。
「坂本、どうした?」
「ああ、ぼっちゃま。」
「どうして?」
「この季節は月明かりを池で見るのが好きで。」
「風情があるね。」
「イギリスも日本も同じ月です。」
「そうだね。」
「でも、イギリスの四季と日本の四季は違ってます。」

「坂本はそれをどう考える?」
「私は日本の方が好きです。」
「どうして?」
「うまくは言えませんが、日本の木が好きなのかもしれません。」
「日本の木。」

よく見ると、日本独特の銀杏や赤松など見渡してみるとこの夜の中でもわかった。

「ぼっちゃま。」
「ん?」
「私は手紙の中身は知りませんが。」
「うん。」
「あの、もし落ち込んでいたら。」
「いや、その逆だ。」
「ああ、よかったです。」
「すっかり坂本にも心配をかけるね。」
「いえ、若者の恋愛は難しいものです。」
「そうだ、君もそうだったと言っていたね。」
「そうです。熱病ですから。」
「僕はこの一年ずっと熱病続きだ。」
「ぼっちゃまらしい人生になりますよ。」
「そう思う?」
「きっと。」
「きっと?」
「あなたの努力した思いは報われる気がします。」
「まるで預言者だな。」
「小さい頃からあなたを見てますから。」
「じゃ、祈ってくれ。」
「もちろん。」


二人で校内の道を歩いた。
しばらく無言だった。

しかし、それはとても心地よかった。
あえて、櫻の手紙の内容は聞いてこない。
それが坂本のいいところだ。

「坂本。」
「はい。」
「僕はね、今、この時を大切にしていく。」
「そうですね。」
「時に後押ししてくれ。」
「もちろんです。」

そして、二人は研究室の前で別れた。
また、迎えに来ると坂本は言った。


坂本と二人の時間をゆったりと感じた。
そして辻は自分の道は間違っていないことをもう一度認識した。
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