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嫁と姑と、息子二人。
しおりを挟む「おかえりなさいませ、奥様」
宵さまに手を取られ、車を降りると、使用人たちが整列して、一斉に頭を下げた。
なんて、恐ろしい職場だ。
私の、元居た塾も恐ろしい所だった。
駅前で声出しさせられるのだ。
『絶対、合格、成績保障 タケノコ塾!』
あの当時は、そんなに違和感なかったけど、今思い出すと唸りたくなる。
これは、いつか、やめて頂こう。
「ご心配をおかけしました」
負けじと彼らに頭を下げたら、空気がざわざわした。
「何をしている、いくぞ」
顎をしゃくる宵さまについて歩きだすと、洋風の屋敷の中から、赤ちゃんを抱いた女性が二人出て来た。
あぁ、この子たちが息子に違いない。
そして、彼女たちは、それぞれの乳母らしい。
「わぁ、はじ……久しぶりに会えてうれしいわ」
危ない。
初めましてはまずいですよね。
右の子は、まだ生まれて間もない、頼りない感じがあり横抱きにされている。そして整った顔立ちで、絹子に似ている。
左の子は、使用人に抱きつく感じで抱かれていて、目つきが宵さまに似ている。
おそらく、大きさ的にも右が実子で、左が養い子の――主人公ね。
「ただいま、博弥さん」
あえて、主人公に先に手を伸ばした。
確か、使用人の皆さんも、絹子にアピールするかのように主人公にキツく当たっていた。
これから変わっていく事を示す、いいチャンスだ。
「うっ……」
使用人の腕から奪うように博弥さんを抱き上げた。
博弥さんは、難しい顔をしている。
意外と重い。
確か……生後8ヶ月くらいだったかな?
二人は、5ヶ月くらい違うけど、博弥さんは実母の元で、若干、粗末に育てられたらしく、今の段階では、華奢で子柄らしい。
将来は、かなり大きくなるけど。
神と親子役でも違和感のない、闇系も似合う俳優さんだ。血走った目で慟哭するシーンなんて、ガクブルだった。
まぁ、絹子と宵さまが悪いよ。色々あるから。
「絹子………」
「あっ、すいません。赤ちゃんの頭、不思議ないい匂いがするので、つい嗅いでました。ほら、博弥さん、お父様もお帰りですよ」
流れで、宵さまに博弥さんを押し付けた。
宵さまは、困惑しながらも、意外と上手に博弥さんを抱いた。
「あらまぁ、珍しい事もあったもんだ」
遅れて現れたのは、ふくよかな中年女性だ。
年の頃は、50代。ブルドックほっぺが特徴的な、個性派おばさん女優の登場だ。紅色の高価な着物を着ているが、似合っていない。絶妙に、似合わない着物を選んでいるのかと疑うくらいに、浮いている。
宵さまの養母。
私の姑さまだ。
ズカズカと歯にきぬきせぬ物言いで、お金にがめついが、金のこと以外は悪い人じゃない。
博弥さんも、この姑さまの命は助けている。
「お義母様、只今戻りました」
嫁姑の関係性など、さっぱりわからない。
宵さまも、絹子も脇役だった。
そんなに事細かく映像にされていない。
「あれ、本当だ。この子すっかり別人だわ」
「お、お、お義母様! 何をおっしゃいますか、絹子でございますよ!」
ビックリして思わず、姑さまに駆け寄ってしまった。
どう考えても華族出身の動きじゃない。
「本当に気の毒なこったね。子供産めなくなるわ、外の子供来るわ、病に倒れて、これだなんてねぇ」
「いえいえ、全然、大丈夫です。正常ですよ」
「どこがよ。あんた、今まで殆ど喋らないで、いつも冷たい顔でアタシのことなんて田舎の成金ババアとしか思ってなかったじゃない」
そうかもしれない。
絹子なら、そうだったかもしれない。
私が、うっと言葉に詰まると、博弥さんを使用人に預けた宵様が割って入ってきた。
「すみませんが、絹子は疲れています」
「あら、ごめんなさいね。じゃあ、またいずれ」
そう言って姑さまは、嵐のように去っていった。
ふぅ、目が覚めた。
「……もう、行くぞ」
「あっ、待ってください。じゃあ、貴世実さんも抱っこしてから」
「……」
ふにゃふにゃの赤ちゃんに、怖気づきながら抱っこした。
「わぁ、小さい……」
さっき抱いた博弥さんよりも、頼りなくて、どうにかなってしまいそうな不安に襲われ、すっと使用人にお返しした。
「では、また後でね」
「落ち着かれましたら、お部屋に?」
不審に思う気持ちが、ありありと伝わって来た。
「ええ、お願いします」
ふふん、と絹子みたいに偉そうな顔をしてみた。
正直、お二人とも自分の子供という気は一切ない。
なにせ、乗り掛かった舟だ。
絹子になってしまった以上、生存するために選択した。
塾講師から、住み込みの乳母に転職だ。
私が関わっていたのは、小学生。
体験とかで幼稚園の年長さんとは接したけれど、赤ちゃんはまったくの未知数。
どうなるかわからないけど、他に道は無い。
やるしかないから、頑張るしかない!
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