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元カノの住所
しおりを挟む「あなた、全然駄目らしいわね」
姑さまが現れた。
連続、10時間も寝た私は、絶好調だった。
博弥さんを受け取り、久子さんを家に帰し、応接間で鼻歌まじりに、おしめを変えていた。
相変わらず、貴世実さんは、存在感を出さない。
貴世実さんの乳母にお乳をいただいて、ひたすら眠っている。
「お義母様」
金の刺繍ギラギラな、似合わない抹茶色のお着物をお召しだ。
ご本人が気に入っているなら、それが正解だけど。
無理に派手にしている感が強い。
「そうなんですよ、私、舐めてました」
「あら、素直ね」
「お義母さまの選んでくれた乳母のおかげで何とかなってます」
「あなた、やっぱり……もう少し入院した方がいいんじゃない?」
「絹子です。絹子ですよ、お義母さま、お忘れですか?大丈夫ですか?」
もう開き直って、姑さまの方が忘れっぽい、みたいな反応をしてみた。
すると、姑さまは、大きな声で笑い出した。
「あははは、随分、面白い子だったのね」
姑さまは、どかっとソファに座って、王様みたいに足を組んだ。
着物が乱れていらっしゃる。
絹子は、姑さまを『下賤』と毛嫌いして避けまくってたけど、金にがめつい以外は、懐深いおばちゃんだ。
まぁ、映画で見てるから知ってる、ズルだけど。
「いえいえ、少し、調子に乗っているだけで、また、そのうち落ち着きます」
「はっ、お飾りのときは、今の感じじゃ困るけどねぇ……」
ごめん、絹子。
もとに戻ったら、周りが貴方を見る目に驚いちゃうね。
でも、何とか、貴方と家族の命を守るから、許して欲しい。
そのためにも、姑さまに聞いておきたいことがある。
「あの、お義母様にお聞きしておきたいことがあるのですが」
広いソファ。
暗めのトーンで配色された、ベロア生地の上品なソファ。
姑さまの隣に、ぴったりくっついて座った。
何よ、という顔で見られた。
「博弥さんの、母親に関してです――」
博弥さんを探して連れて来たのは、姑さまだ。
博弥さんの母は、芸妓として名を馳せ、今は店を持つ女性だったはず。
彼女は絹子に嵌められて、悲惨な目にあうのだ。
大きくなってから、その事実を知り、本当の母に会うことができなかった博弥さん。
ぜひ、今から平和的な交流を持ちたい。
本当の絹子的に、旦那の元カノというのは面白くないかもしれないが、私にはそんな感情は無い。
私は絹子じゃない。
同時に、博弥さんも、貴世実さんも、どちらも自分の子という感覚は薄い。
多分、これから色んな愛情とか、絆とか生まれるはずだ。
「わー、聞こえないわ!」
姑さまは、勢いよく立ち上がった。
そして、そそくさと歩き出した。
「ですから、博弥さんの……」
「きこえなーい」
逃げようとする姑さまの腕をつかんだ。
「お耳が遠くおなりですか!」
「あの子に聞けばいいじゃない」
あの子、それは宵さまの事だろう。
「……」
聞けるわけないじゃないですか!
私が口をつぐむと、勝ち誇った顔で笑った姑さまは、手をひらひら振って去っていった。
本妻に、「元カノは、どこに住んでるの?」と聞かれるなんて、ホラーだ。
しかも、絹子だよ。
殺す気か、と警戒されそうだ。
いや、実際、探し出して、ほぼそうしているわけで……。
向こうも会ってくれなさそうだから、仲介役を姑さまに頼んでるのに。
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