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引退式とベッド
しおりを挟む「久子さん……今まで本当にありがとうございました!」
博弥さんが2歳になり、久子さんはお役目を終えた。流石に1歳くらいから夕方でお帰り頂いて、夜を共にすることもなかったけど、私の偉大なる指導者であり、戦友と勝手に思っていた。
「ぜひ、いつでも遊びに来てください! さぁ、お義母、金一封を。さぁ、宵さまも」
久子さんの引退式を我が家で開いた。
久子さんのご家族も参加してくれた。みんなで食べて、遊んで、とても楽しい時間だった。
「これから毎日家に居るのかと思うと、もう……はははは」
最後、少し酔った久子さんは、笑いながら謎の涙を流していた。
旦那さんが、うんうん、と頷きながら背中を叩いていたのが、仲良し夫婦みたいで羨ましかった。
お開きになり、宵さまが、うとうとしている、博弥さんと貴世実さんを抱いた。今日から、二人と寝室に寝る。夫婦の寝室のベッドの間に、低床のベッドを用意してもらった。
宵さまの肩に、顔を押し付けて眠る貴世実さん。
宵さまの肩に、のけぞって頭をのせる博弥さん。
「……どちらも、かわいい」
うんとも、すんとも言わず私の顔を見ている宵さまだが、その眼差しは優しい。何だかんだ、息子二人とも可愛いと思っているのだろう。
もう、復讐回避できているんじゃないかな?
貴世実さんを受け取り、ベッドに寝かせた。その隣に、宵様が博弥さんを下ろした。あんなに敏感だった背中のスイッチはどこへやら。だっこから寝かせても、起きなくなった。
「とても、よいベッドですね。さぞ、お高かったのでは?」
もちろん、ベッドは特注だ。
私が、こんな感じのと絵をかいて説明したところ、職人さんに依頼してくれたらしい。
宵さまは、聞いていないようで、聞いてくれている。
「君が以前、買いそろえていた石にくらべれば」
ボソっと皮肉を言った宵さま。多分、軽口なつもりなのだ。
ただ、若干、話題とか言葉とかの選び方が上手いとは言えない。
しかも、微笑の感じが、どうみてもサイコパスのニヤリ顔なの。
そんな不器用な感じも、好きだ……。
「石って宝石ですか? 私、それ何処にしまったんでしょうね? まぁ、投資だと思って、お金に困ったら売りましょう」
「……」
「あっ……いえ、売りません。宵さまのプレゼントですもの!」
「好きにしなさい」
「とりあえず、探してみようかな。宝探しみたいで楽しいです、きっと」
「……見つからなかったら、また買えばいい」
「ん?」
自分に話しているような、微かな声だった。
「あー、大事にしまいすぎて、見当たらない事ってよくありますよね。でも、良いです。今は、宝石、興味ないので、もっと見ていて飽きないのが目の前にいますからね」
博弥さんと、貴世実さんの間に飛び込んで、交互にマシュマロほっぺに吸いついた。
この魔力、堪らない。
「うっー」
嫌がる博弥さんから鋭い蹴りが入った。
「あっ、えっと、何だかんだ夜泣きとかありますし……宵さまは、今まで通り、ご自身のお部屋で気兼ねなく眠っていただいて……」うつ伏せで、子供の顔を見ながら言った。
いやぁ
きっと
そもそも
その気だろうけど、一応お伝えしておかないと、気を遣われてしまっても申し訳ないですし――。
私は、延々と頭の中で言い訳してから、宵さまを振り返った。
「あぁ」
宵さまの返答に、体の底から上がってくる安堵のため息が出た。
「私は、まだ、やることがある」
「あっ、どうぞ。あの、おやすみなさい」
「あぁ……」
宵さまが、踵を返した。
ドアを開けて、そして――屈むの忘れ、頭をぶつけた。
「宵さま⁉」
「……問題ない」
大丈夫ですか、駆け寄ろうと思ったら、手で制された。
恥ずかしいのか、宵さまは、ちらりとも、こちらを見なかった。
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