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トレジャーハンター絹子
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お屋敷には絹子の部屋がある。
何度か訪れているけれど、他人の部屋を勝手に家探しするのは気が引けるので、ちゃんと見ていない。
部屋は、12畳程度の広さがある。
大きな窓、壁掛けの楕円の鏡、鏡の下にはダークブラウンの机がある。
大きな箪笥が2棹、丸テーブルに一人掛けのソファ。
箪笥の大きさは絹子の身長より大きい、180センチはありそうだ。
上部が観音開きで、下部が大小の引き出しになっている。
右の箪笥の方が、観音開きの部分が縦長だ。
「トレジャーハンター、絹子」
今日のターゲットは、宝石よ。
さぁ、どこにしまいこんでいるのかしら?
言っても、箪笥と机しか収納は無い。
押し入れも、ウォークインクローゼットも存在しない。
簡単に見つかりそうだ。
左の箪笥の観音開きの部分を開けると、隙間があって奥が見える、細い引き出しが連なっていた。
これは、着物を収納するところだな。
「ここには、ない」
次は、下の引き出しを次々にチェックしていった。
帯、簪、着物を着る紐類、足袋、巾着、風呂敷、裁縫道具。
色々入っていたが、宝石はない。
右の箪笥を開くと、そこは洋服が掛かっていた。
お洒落な帽子もある。
「おぉ……」
見るだけでも楽しくて、試験前の荷物整理のように、目的を忘れて楽しんでいた。
「ちょっと、あんた、外で子供たちが、母さま、母さま、騒いで女中が手を焼いてるわよ。宵さんも帰ってきたみたいよ」
部屋中に色々広げて、鑑定団のように物色していたら、ノックも無しに姑さまが入って来た。
「お義母さま」
「……何やってるのよ」
「宝石探しです」
私の答えに、お義母さまの目が輝いた。
「なにそれ、面白そうじゃない。失くしたの?」
「いいえ、どこにしまったか忘れました」
ぶーっと息をはいた姑さま。
「いいわ、探してあげる。どうせ一杯買わせたんでしょ、見つけたら1つよこしなさい」
「あっ、あ……でも、全然なかったです」
腕をまくり、やる気満々の姑さまに焦る。
「任せなさいよ、無いと思うから無いのよ。無いものでも見つけるわ」
「……」
逞しい。
目が、燃えている。
早速、また引き出しが荒らされていく。
「くまなく探したんですけど……ないですよ」
「だまらっしゃい」
姑さまの目は輝き、鼻の穴は広がっていた。
とても、ハツラツとしていらっしゃる。
「はい」
博弥さんと、貴世実さん、大丈夫かなぁ、と思いながらも、ここを離れるのもアレだと思い、姑さまを見守った。
「あっ!」
「何ですか⁉」
姑さまは、洋服をしまっていた箪笥の、一番下の引き出しを見ながら叫んだ。
「これ、おかしいわ」
「え? どこがですか?」
「ほら、見て見なさいよ、上の段より、明らかに奥行きが少ないでしょ!」
確かに、一番下の引き出しは、上の半分くらいしか出てこない。
姑さまは、鼻を掻いて、ほくそ笑んだ。
「絶対に此処よ!」
ガタ、ガタ
姑さまが、引き出しを取ろうとしたが、ストッパーが掛かっているのか、出てこない。
ふふふ、姑さまは笑いながら手を突っ込んで、ストッパーとなっていた木を取り外し、投げ捨てた。
「さぁ、出てきなさい!」
「すごい、こんな仕掛けが……」
引き出しは、乱暴に床に置かれた。
姑さまは、床に這いつくばって、腕を差し入れた。
「大丈夫ですか……虫とか、ホコリとか」
私が、一歩下がって見守っていると、姑さまの目が見開いた。
「あった! あった……出てこい、出てこい」
姑さまの手が、ティッシュ箱ほどの木箱を掴んで出て来た。
「ほら、見なさい!」
「わぁ、宝箱っぽいですね」
私も興奮して手を叩いて喜んだ。
姑さまの顔はもう、悪人のそれだ。
立ち上がり、箱を目線まで持ち上げて、カマキリのように顔を動かしてみている。
「開けてください」
「そうね、鍵はかかってないわ」
どきどき
姑さまの太い指が、装飾のある木箱の蓋を掴んだ。
じらすように、ゆっくりと蓋が上がり――木箱が開いた。
「……」
「……」
私たちは沈黙した。
「空っぽじゃないの!」
姑さまは、箱をポイっと投げ捨てた。
「あぁ! お義母さま!」
私は慌てて駆け寄り、拾い上げた。
改めて見ても、何もない。
箱の中は、真っ赤なベルベットの生地を張りつめてあって、まさに宝石箱のようなのに。
そこには、何もない。
「期待して損したわ! まったく」
姑さまは、着物を整えながら、鼻息荒くドアに歩き出した。
「すいません」
「誰か呼んで片付けさせるから、さっさと子供の所に行きなさいよ」
「は、はい」
姑さまを見送り、箱をテーブルに置いた。
宝石が無かったのは残念だったけど、箪笥の仕掛けは面白かった。
泥棒対策とかなのかな。
興味本位で、箪笥に近づいて奥を覗いた。
「あれ?」
箪笥の奥は良く見えないけど、まだ何かありそうだ。
「……」
ふむふむ、今のはダミーだったのね。
胸が高鳴り、腕を突っ込んだ。
ざらざらとした板目の上に手を滑らせる。
やがて、手触りの違うものに行き当たった。
「あった!」
指で手繰り寄せ、それを掴んだ。
触った感じでは、やはり木箱のような形に思える。
着物が擦れてしまう心配をしながら、慎重に取り出した。
ガサ――
先に紙屑が落ちた。
箱と一緒に、奥から掻き出されたゴミだろうか。
「わぁ、こっちは質素だ」
一個目の箱は、装飾もあり猫足もついていた。
それに比べ、二個目は桐っぽい単純な箱だった。
ただ、鍵がかかっている。
「開かない」
こんな質素な箱に鍵。
否が応でも期待が高まる。
絶対に、こちらが当たり。
宝石だ。
でも、鍵はどうしよう。
無理やり開けてしまおうか?
「あっ、あの鍵!」
唐突に閃いた。
以前に寝室で見つけた鍵。
寝室に置いておいたら、子供たちが口にいれる心配があり、こちらの机の中にしまった。
「きゃー、すごく楽しい!」
パズルが嵌っていくような心地がした。
映画の後半で、伏線が回収されていくのを目撃した気分だ。
わくわくする。
箱を持って机に駆け寄り、大急ぎで鍵を取り出した。
ゆっくりやっていると、子供たちが来て邪魔されてしまうかもしれない。
早く開けよう。
机に置いた箱に、ドキドキしながら鍵を差し込んだ。
鍵は抵抗なく入り
回すと、カチャリと開錠の音がした。
「やった!」
箱の蓋に手をかけた。
別に宝石が欲しいわけじゃない。
ただ、この宝探しを楽しんでいる。
さぁ、いよいよ、クライマックス。
お宝が姿を現す時だ。
開いた箱の中には――髪の毛が、詰まっていた。
「ひっいい!」
驚きすぎて声も出ない。
取り落とした箱が、机の上に落ちた。
中の髪が、羽根のように動いた。
黒髪の癖毛。
細くてふわふわした毛。
その下には、お札のような紙が敷かれている。
血のような、真っ赤な墨で書かれた赤い線。
目を形どったような模様まで書かれている。
「……っ」
バタン
恐ろしく、箱を閉じた。
箱が勝手に動きそうで怖い。何かが溢れ出してくるのではないか。
誰かが見ているのではないか。
誰か――そう、これを用意したかもしれない。
絹子が。
「……いやぁ」
早く、それを見えない所にしまいたい。
だけど、触るのも怖い。
口の中が、乾く。
噎せ返りそうだ。
「……ん」
震える手で、箱を掴んだ。
そして、箪笥に走りより。投げ入れるように戻した。
引き出しを持ち上げて、元に戻そうとしたけれど、焦ってしまい、中々はまらない。
怖い。
怖い。
来る――足音がする。
「ひぃ……」
必死で引き出しを押し込んだ。
まだ、聞こえる。
足音が、コツコツと迫ってくる。
恐ろしい。
頭と耳を押さえて、何かから隠れるように縮こまった。
髪の手触りを感じ、箱の中身を思い出した。
髪は、癖のある毛だった。
絹子の毛は真っすぐ。
姑さまは、白髪まじり。
あれは、宵さまの髪の毛なのでは?
しかも、ふわふわしてた毛……あれ――博弥さんのじゃない?
「……」
なんで?
なんのために?
思考の海に沈んでいると、ガチャとドアが開いた。
来た。
「きゃあ!」
恐ろしい者に、追い付かれ、捕まってしまった気になって、叫んだ。
「……絹子⁉」
宵さまの声がした。
「あっ……あ……」
扉の向こうから、やってきたのは宵さまだった。
宵さまは、部屋の惨状と私を見て、眉を顰め、駆け寄って来た。
「どうした? 何があった? 顔色が悪いぞ」
「宵さま……」
あれをやったのは誰?
どう考えても平和な代物には見えない。
お守りとか、そういうのじゃなくて、どう考えても……呪ってる。
「宵さま!」
恐ろしくなって、宵さまに縋りつく様に、抱きついた。
「き、絹子⁉」
「……」
宵さまは、困惑しながらも、受け止めてくれた。
温かい体温と、宵さまの匂いに、やっと生きた心地がした。
「何があった? 母に何か言われたのか? 一緒に探し物をしていたと聞いたが」
心配そうな優しい声が耳元をくすぐり、首を振った。
「前にも話したが……私が、君に贈ったものは、君の物だ。たとえ、なくても問題ない。もちろん……金に換えても」
「……」
どういう意味だろう。
宵さまは、何か知ってる?
宝石が無いと知ってる?
何が何だかわからない。
奇妙な妖しい箱。
空っぽの宝石箱。
絹子は、何を――。
私の大切な人たちに、何をしていたの――。
何度か訪れているけれど、他人の部屋を勝手に家探しするのは気が引けるので、ちゃんと見ていない。
部屋は、12畳程度の広さがある。
大きな窓、壁掛けの楕円の鏡、鏡の下にはダークブラウンの机がある。
大きな箪笥が2棹、丸テーブルに一人掛けのソファ。
箪笥の大きさは絹子の身長より大きい、180センチはありそうだ。
上部が観音開きで、下部が大小の引き出しになっている。
右の箪笥の方が、観音開きの部分が縦長だ。
「トレジャーハンター、絹子」
今日のターゲットは、宝石よ。
さぁ、どこにしまいこんでいるのかしら?
言っても、箪笥と机しか収納は無い。
押し入れも、ウォークインクローゼットも存在しない。
簡単に見つかりそうだ。
左の箪笥の観音開きの部分を開けると、隙間があって奥が見える、細い引き出しが連なっていた。
これは、着物を収納するところだな。
「ここには、ない」
次は、下の引き出しを次々にチェックしていった。
帯、簪、着物を着る紐類、足袋、巾着、風呂敷、裁縫道具。
色々入っていたが、宝石はない。
右の箪笥を開くと、そこは洋服が掛かっていた。
お洒落な帽子もある。
「おぉ……」
見るだけでも楽しくて、試験前の荷物整理のように、目的を忘れて楽しんでいた。
「ちょっと、あんた、外で子供たちが、母さま、母さま、騒いで女中が手を焼いてるわよ。宵さんも帰ってきたみたいよ」
部屋中に色々広げて、鑑定団のように物色していたら、ノックも無しに姑さまが入って来た。
「お義母さま」
「……何やってるのよ」
「宝石探しです」
私の答えに、お義母さまの目が輝いた。
「なにそれ、面白そうじゃない。失くしたの?」
「いいえ、どこにしまったか忘れました」
ぶーっと息をはいた姑さま。
「いいわ、探してあげる。どうせ一杯買わせたんでしょ、見つけたら1つよこしなさい」
「あっ、あ……でも、全然なかったです」
腕をまくり、やる気満々の姑さまに焦る。
「任せなさいよ、無いと思うから無いのよ。無いものでも見つけるわ」
「……」
逞しい。
目が、燃えている。
早速、また引き出しが荒らされていく。
「くまなく探したんですけど……ないですよ」
「だまらっしゃい」
姑さまの目は輝き、鼻の穴は広がっていた。
とても、ハツラツとしていらっしゃる。
「はい」
博弥さんと、貴世実さん、大丈夫かなぁ、と思いながらも、ここを離れるのもアレだと思い、姑さまを見守った。
「あっ!」
「何ですか⁉」
姑さまは、洋服をしまっていた箪笥の、一番下の引き出しを見ながら叫んだ。
「これ、おかしいわ」
「え? どこがですか?」
「ほら、見て見なさいよ、上の段より、明らかに奥行きが少ないでしょ!」
確かに、一番下の引き出しは、上の半分くらいしか出てこない。
姑さまは、鼻を掻いて、ほくそ笑んだ。
「絶対に此処よ!」
ガタ、ガタ
姑さまが、引き出しを取ろうとしたが、ストッパーが掛かっているのか、出てこない。
ふふふ、姑さまは笑いながら手を突っ込んで、ストッパーとなっていた木を取り外し、投げ捨てた。
「さぁ、出てきなさい!」
「すごい、こんな仕掛けが……」
引き出しは、乱暴に床に置かれた。
姑さまは、床に這いつくばって、腕を差し入れた。
「大丈夫ですか……虫とか、ホコリとか」
私が、一歩下がって見守っていると、姑さまの目が見開いた。
「あった! あった……出てこい、出てこい」
姑さまの手が、ティッシュ箱ほどの木箱を掴んで出て来た。
「ほら、見なさい!」
「わぁ、宝箱っぽいですね」
私も興奮して手を叩いて喜んだ。
姑さまの顔はもう、悪人のそれだ。
立ち上がり、箱を目線まで持ち上げて、カマキリのように顔を動かしてみている。
「開けてください」
「そうね、鍵はかかってないわ」
どきどき
姑さまの太い指が、装飾のある木箱の蓋を掴んだ。
じらすように、ゆっくりと蓋が上がり――木箱が開いた。
「……」
「……」
私たちは沈黙した。
「空っぽじゃないの!」
姑さまは、箱をポイっと投げ捨てた。
「あぁ! お義母さま!」
私は慌てて駆け寄り、拾い上げた。
改めて見ても、何もない。
箱の中は、真っ赤なベルベットの生地を張りつめてあって、まさに宝石箱のようなのに。
そこには、何もない。
「期待して損したわ! まったく」
姑さまは、着物を整えながら、鼻息荒くドアに歩き出した。
「すいません」
「誰か呼んで片付けさせるから、さっさと子供の所に行きなさいよ」
「は、はい」
姑さまを見送り、箱をテーブルに置いた。
宝石が無かったのは残念だったけど、箪笥の仕掛けは面白かった。
泥棒対策とかなのかな。
興味本位で、箪笥に近づいて奥を覗いた。
「あれ?」
箪笥の奥は良く見えないけど、まだ何かありそうだ。
「……」
ふむふむ、今のはダミーだったのね。
胸が高鳴り、腕を突っ込んだ。
ざらざらとした板目の上に手を滑らせる。
やがて、手触りの違うものに行き当たった。
「あった!」
指で手繰り寄せ、それを掴んだ。
触った感じでは、やはり木箱のような形に思える。
着物が擦れてしまう心配をしながら、慎重に取り出した。
ガサ――
先に紙屑が落ちた。
箱と一緒に、奥から掻き出されたゴミだろうか。
「わぁ、こっちは質素だ」
一個目の箱は、装飾もあり猫足もついていた。
それに比べ、二個目は桐っぽい単純な箱だった。
ただ、鍵がかかっている。
「開かない」
こんな質素な箱に鍵。
否が応でも期待が高まる。
絶対に、こちらが当たり。
宝石だ。
でも、鍵はどうしよう。
無理やり開けてしまおうか?
「あっ、あの鍵!」
唐突に閃いた。
以前に寝室で見つけた鍵。
寝室に置いておいたら、子供たちが口にいれる心配があり、こちらの机の中にしまった。
「きゃー、すごく楽しい!」
パズルが嵌っていくような心地がした。
映画の後半で、伏線が回収されていくのを目撃した気分だ。
わくわくする。
箱を持って机に駆け寄り、大急ぎで鍵を取り出した。
ゆっくりやっていると、子供たちが来て邪魔されてしまうかもしれない。
早く開けよう。
机に置いた箱に、ドキドキしながら鍵を差し込んだ。
鍵は抵抗なく入り
回すと、カチャリと開錠の音がした。
「やった!」
箱の蓋に手をかけた。
別に宝石が欲しいわけじゃない。
ただ、この宝探しを楽しんでいる。
さぁ、いよいよ、クライマックス。
お宝が姿を現す時だ。
開いた箱の中には――髪の毛が、詰まっていた。
「ひっいい!」
驚きすぎて声も出ない。
取り落とした箱が、机の上に落ちた。
中の髪が、羽根のように動いた。
黒髪の癖毛。
細くてふわふわした毛。
その下には、お札のような紙が敷かれている。
血のような、真っ赤な墨で書かれた赤い線。
目を形どったような模様まで書かれている。
「……っ」
バタン
恐ろしく、箱を閉じた。
箱が勝手に動きそうで怖い。何かが溢れ出してくるのではないか。
誰かが見ているのではないか。
誰か――そう、これを用意したかもしれない。
絹子が。
「……いやぁ」
早く、それを見えない所にしまいたい。
だけど、触るのも怖い。
口の中が、乾く。
噎せ返りそうだ。
「……ん」
震える手で、箱を掴んだ。
そして、箪笥に走りより。投げ入れるように戻した。
引き出しを持ち上げて、元に戻そうとしたけれど、焦ってしまい、中々はまらない。
怖い。
怖い。
来る――足音がする。
「ひぃ……」
必死で引き出しを押し込んだ。
まだ、聞こえる。
足音が、コツコツと迫ってくる。
恐ろしい。
頭と耳を押さえて、何かから隠れるように縮こまった。
髪の手触りを感じ、箱の中身を思い出した。
髪は、癖のある毛だった。
絹子の毛は真っすぐ。
姑さまは、白髪まじり。
あれは、宵さまの髪の毛なのでは?
しかも、ふわふわしてた毛……あれ――博弥さんのじゃない?
「……」
なんで?
なんのために?
思考の海に沈んでいると、ガチャとドアが開いた。
来た。
「きゃあ!」
恐ろしい者に、追い付かれ、捕まってしまった気になって、叫んだ。
「……絹子⁉」
宵さまの声がした。
「あっ……あ……」
扉の向こうから、やってきたのは宵さまだった。
宵さまは、部屋の惨状と私を見て、眉を顰め、駆け寄って来た。
「どうした? 何があった? 顔色が悪いぞ」
「宵さま……」
あれをやったのは誰?
どう考えても平和な代物には見えない。
お守りとか、そういうのじゃなくて、どう考えても……呪ってる。
「宵さま!」
恐ろしくなって、宵さまに縋りつく様に、抱きついた。
「き、絹子⁉」
「……」
宵さまは、困惑しながらも、受け止めてくれた。
温かい体温と、宵さまの匂いに、やっと生きた心地がした。
「何があった? 母に何か言われたのか? 一緒に探し物をしていたと聞いたが」
心配そうな優しい声が耳元をくすぐり、首を振った。
「前にも話したが……私が、君に贈ったものは、君の物だ。たとえ、なくても問題ない。もちろん……金に換えても」
「……」
どういう意味だろう。
宵さまは、何か知ってる?
宝石が無いと知ってる?
何が何だかわからない。
奇妙な妖しい箱。
空っぽの宝石箱。
絹子は、何を――。
私の大切な人たちに、何をしていたの――。
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