華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

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綺麗な石

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 私は、お気に入りのお洋服をありったけかばんに詰め込んで、荷造りを済ませた。
 
 そして、これからの生活に思いを馳せた。

 今後も、貧乏な暮らしはしたくない。
 愛する人と、不自由なく暮らしたいのだ。
 きっと、お兄様は、持ち前の人当たりの良さや優秀さを発揮して、地方では引く手あまただわ。沢山お仕事をして、良い暮らしをさせてくれる。私も、田舎のしみったれた小金持ちを相手に、我慢して交流しなくちゃ。彼女たちに、上流階級とはどんなものか教えてあげるわ。


 トコトコと歩み寄ってくる足音が聞こえ、ドアに歩み寄った。おそらく子供たちだろう。今は部屋を見られたくない。ドアを少し開けて顔を出した。

「何をしているの」
 ドアの外には、想像通り二人の子供が立っていた。
 二人は、驚いた顔で、私を見上げている。

 彼らの手には、それぞれ手紙が握られていた。
 また、紙屑を運んできた。

「お母さま!」
 喜び勇んで飛びついて来ようとした綺麗な子を、仏頂面の子が腕を引いて止めた。
 綺麗な子が、貴世実で、あの気味の悪い子が博弥ね。
「ご病気でお休みの所、申し訳ありません。すぐに戻ります」 
「病気! あぁ、そうね。でも、良いの」
「本当ですか!」
 再び近づこうとする子供を手で制した。
「少しくらい話しても大丈夫というだけです」
「そう、なんですか」
「……」
 しょげて頭を下げる貴世実は、私に似ていて綺麗な顔をしている。
 訝しそうに眉を寄せる、博弥は夫に似て、気味が悪い。

「私の病気が治る為に、貴方たちに頼みたいことがあるの」
 特別に笑顔を見せてあげると、二人は目を輝かせた。
「私は、綺麗な石が大好きなの。見ているだけで、元気になれるわ。でも、このお部屋には無いの。きっと、おばあ様のところに沢山あると思うの。持ってこられる?」
「すみませんが……おばあ様は、今日はお出かけなさっていますので頼めません」
「何処へ?」
「親戚に会いに、堺のほうへと聞きました」
 
 こんな好都合なことがあるだろうか。
 私は、笑いが止まらなくなりそうだった。ならば、こんな子供たちに任せず、自分で行こう。

「そうなの、じゃあ仕方ないわ。もう良いわ、下がりなさい」
 さっさと追い払いたくて、犬を追い払うように手を振った。
「……母さま、早くよくなって、また遊んでね」
「……失礼します」
 私は、さっさとドアを閉じた。


 夕食をすまして、通いの使用人たちも帰り、住み込みの者たちも部屋へと戻った。屋敷が静寂に包まれた。 

 一階の応接室の窓の鍵を開けてから、私は誰にも見つからないように外へ出た。 義母たちの住む和風の邸宅は、女主人が不在で、義父も外の女の所へ行っているようで、とても静かだ。 人の気配がしない。

「……ふふ」 
 やはり、天は私たちに味方している。
 こちらの邸宅の鍵が、私の屋敷にも保管されている。事前に違う鍵と交換しておいた。
 緊張しながら扉の鍵を回した。

 カタン

 予想より大きな音がした。屋敷が無人なわけではない。息を潜め、耳をすませたが、変化はなく安堵した。そして真っ暗な屋敷に足を踏み入れた。

 程なく義母の部屋に到着した。電気をつけるのは目立ちすぎるので、真っ暗な部屋を手探りで歩き、仏壇にたどり着き蝋燭を付けた。
 験担ぎや、縁起を気にする義母の部屋には、仏壇も神棚もある。よく分からない縁起物で溢れている。
 
 蝋燭を手にし趣味の悪い着物ばかりはいっている箪笥を漁った。 
 よくもまぁ、こんな派手で下品な着物を着ることができるものだ。ひとしきり、漁ってみたが見当たらない。箪笥の一つの棚は鍵が掛かっていて開かない。思わず、舌打ちをしてしまった。

「……どこよ」
 ふと、私の箪笥の仕掛けを思い出した。あそこには、おまじないを施した。しかし、今日まで効果はなかった。邪魔な人たちに消えて貰いたかったのに。
「……」
 それにしても、鍵はどこに隠しているのか。まさか持ち歩いてはいまい。
 
 次は引き出しの多い仏壇を漁ってみる。写経の間に、紙幣が挟まっていたので頂戴した。もしかして、思い至り、部屋の端から踏み台を持ち寄り、神だなを覗いた。扉が3つも開く神棚を、1つずつ開けていくと、最後の扉の奥には、目当ての鍵が下がっていた。思わず笑ってしまった。

「……誰かいますか?」

 廊下の方から声が聞こえた。まずい。誰か来る。
 鍵を手にした手が震える。踏み台から滑り落ちそうになり、ぐっと耐えて、静かにおりた。
 動悸が止まらない。蝋燭を消せば焦げ臭いにおいが残る。
 悩んだ末に、続きの間に体を滑り込ませた。たしか、夜はこちらに布団を敷いて寝ているはずだ。

「気のせいかしら? 物音が聞こえたような」

 聞いたことがある、女中の声だ。彼女は恐ろしく思っているのか、ぶつぶつと一人で話をしている。
はやく、どこかへ行け。

「大奥様、一応、お部屋たしかめますよぉ……」

 隣の部屋に、女中が入り、2、3歩、足音がして、廊下と繋がる障子が閉じる音がした。
 よし、居なくなったわね。
 ほっとして、そちらの部屋に戻ろうと襖を開けた。

「奥様⁉」
「っ!?」

 声の主の女中が、まだ、そこに居た。

「ど、どうして奥様がこちらに!?」
「お前こそ、ここで何をしている!」
「私は、物音がして、こちらを確かめに……」
「嘘を言うな、まさか盗みでも働こうとしていたのでは!」

 私は、動揺する心を、相手を攻撃することで鎮めようとした。

「め、滅相もございません!」
「ならば、もう行きなさい」
「し、しかし……奥様」
「私は、子供が昼間、この部屋に忘れたというものを探しに来ただけです。疑うなら、明日、お義母様に確認すればいい」
 明日の朝、私はもう居ない。今夜だけ切り抜けられれば問題ない。
 女中の目は、私のあらゆる所を観察している。
「は、はぁ……では、失礼いたします」
 まだ疑っているようで、こちらを何度も振り返った。
 そして、中々去っていかない足音にイライラしながら、先ほどの鍵を取り出した。

 もういいだろう、と鍵を差し込み、引き出しを開けた。

「やったわ」

 中には、金貨とダイヤ、真珠、ヒスイが現れた。それを、着物のそこ彼処にしまい込んだ。


□□□□

「兄さま、あれ大丈夫かな?」
「しっ!」
 ベッドに入った貴世実と博弥は、体を寄せ合い、ヒソヒソと話をしている。

 宵は、自分のベッドに腰かけ、本を開いた。
 二人の希望により電気をつけているので、本の文字も子供の様子も見える。絹子が戻ってから、母と接することができず、塞ぎがちだった二人だが、今日は心なしか明るく見えた。
 二人の話を聞くともなしに聞こえていたが、宵は、あえて反応せず本に視線を走らせ続けた。

「母さま、喜んでくださるよね」
「あぁ、そうだといいな」
 更に声を潜めた二人は、強く手を握り合った。

 今日、二人は庭で綺麗な石を集め、石鹼で洗い、布で拭き、天日に干していたと報告を受けた。そういう遊びなのかと思ったが、絹子へのプレゼントだったのか、宵は小さく頷いた。

 そして、二人が明日、それを渡す姿を想像し、微笑んだ。

 きっと、彼女は大袈裟なくらい喜ぶだろう。
 そして、少し涙を浮かべるかもしれない。
 宵は、絹子の反応を考えるだけで、幸せな気持ちになった。

 本を閉じ、懐から鍵を取り出し、指で弄びながら子供たちを眺めた。




 

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