33 / 38
綺麗な石
しおりを挟む私は、お気に入りのお洋服をありったけ鞄に詰め込んで、荷造りを済ませた。
そして、これからの生活に思いを馳せた。
今後も、貧乏な暮らしはしたくない。
愛する人と、不自由なく暮らしたいのだ。
きっと、お兄様は、持ち前の人当たりの良さや優秀さを発揮して、地方では引く手あまただわ。沢山お仕事をして、良い暮らしをさせてくれる。私も、田舎のしみったれた小金持ちを相手に、我慢して交流しなくちゃ。彼女たちに、上流階級とはどんなものか教えてあげるわ。
トコトコと歩み寄ってくる足音が聞こえ、ドアに歩み寄った。おそらく子供たちだろう。今は部屋を見られたくない。ドアを少し開けて顔を出した。
「何をしているの」
ドアの外には、想像通り二人の子供が立っていた。
二人は、驚いた顔で、私を見上げている。
彼らの手には、それぞれ手紙が握られていた。
また、紙屑を運んできた。
「お母さま!」
喜び勇んで飛びついて来ようとした綺麗な子を、仏頂面の子が腕を引いて止めた。
綺麗な子が、貴世実で、あの気味の悪い子が博弥ね。
「ご病気でお休みの所、申し訳ありません。すぐに戻ります」
「病気! あぁ、そうね。でも、良いの」
「本当ですか!」
再び近づこうとする子供を手で制した。
「少しくらい話しても大丈夫というだけです」
「そう、なんですか」
「……」
しょげて頭を下げる貴世実は、私に似ていて綺麗な顔をしている。
訝しそうに眉を寄せる、博弥は夫に似て、気味が悪い。
「私の病気が治る為に、貴方たちに頼みたいことがあるの」
特別に笑顔を見せてあげると、二人は目を輝かせた。
「私は、綺麗な石が大好きなの。見ているだけで、元気になれるわ。でも、このお部屋には無いの。きっと、おばあ様のところに沢山あると思うの。持ってこられる?」
「すみませんが……おばあ様は、今日はお出かけなさっていますので頼めません」
「何処へ?」
「親戚に会いに、堺のほうへと聞きました」
こんな好都合なことがあるだろうか。
私は、笑いが止まらなくなりそうだった。ならば、こんな子供たちに任せず、自分で行こう。
「そうなの、じゃあ仕方ないわ。もう良いわ、下がりなさい」
さっさと追い払いたくて、犬を追い払うように手を振った。
「……母さま、早くよくなって、また遊んでね」
「……失礼します」
私は、さっさとドアを閉じた。
夕食をすまして、通いの使用人たちも帰り、住み込みの者たちも部屋へと戻った。屋敷が静寂に包まれた。
一階の応接室の窓の鍵を開けてから、私は誰にも見つからないように外へ出た。 義母たちの住む和風の邸宅は、女主人が不在で、義父も外の女の所へ行っているようで、とても静かだ。 人の気配がしない。
「……ふふ」
やはり、天は私たちに味方している。
こちらの邸宅の鍵が、私の屋敷にも保管されている。事前に違う鍵と交換しておいた。
緊張しながら扉の鍵を回した。
カタン
予想より大きな音がした。屋敷が無人なわけではない。息を潜め、耳をすませたが、変化はなく安堵した。そして真っ暗な屋敷に足を踏み入れた。
程なく義母の部屋に到着した。電気をつけるのは目立ちすぎるので、真っ暗な部屋を手探りで歩き、仏壇にたどり着き蝋燭を付けた。
験担ぎや、縁起を気にする義母の部屋には、仏壇も神棚もある。よく分からない縁起物で溢れている。
蝋燭を手にし趣味の悪い着物ばかりはいっている箪笥を漁った。
よくもまぁ、こんな派手で下品な着物を着ることができるものだ。ひとしきり、漁ってみたが見当たらない。箪笥の一つの棚は鍵が掛かっていて開かない。思わず、舌打ちをしてしまった。
「……どこよ」
ふと、私の箪笥の仕掛けを思い出した。あそこには、おまじないを施した。しかし、今日まで効果はなかった。邪魔な人たちに消えて貰いたかったのに。
「……」
それにしても、鍵はどこに隠しているのか。まさか持ち歩いてはいまい。
次は引き出しの多い仏壇を漁ってみる。写経の間に、紙幣が挟まっていたので頂戴した。もしかして、思い至り、部屋の端から踏み台を持ち寄り、神だなを覗いた。扉が3つも開く神棚を、1つずつ開けていくと、最後の扉の奥には、目当ての鍵が下がっていた。思わず笑ってしまった。
「……誰かいますか?」
廊下の方から声が聞こえた。まずい。誰か来る。
鍵を手にした手が震える。踏み台から滑り落ちそうになり、ぐっと耐えて、静かにおりた。
動悸が止まらない。蝋燭を消せば焦げ臭いにおいが残る。
悩んだ末に、続きの間に体を滑り込ませた。たしか、夜はこちらに布団を敷いて寝ているはずだ。
「気のせいかしら? 物音が聞こえたような」
聞いたことがある、女中の声だ。彼女は恐ろしく思っているのか、ぶつぶつと一人で話をしている。
はやく、どこかへ行け。
「大奥様、一応、お部屋たしかめますよぉ……」
隣の部屋に、女中が入り、2、3歩、足音がして、廊下と繋がる障子が閉じる音がした。
よし、居なくなったわね。
ほっとして、そちらの部屋に戻ろうと襖を開けた。
「奥様⁉」
「っ!?」
声の主の女中が、まだ、そこに居た。
「ど、どうして奥様がこちらに!?」
「お前こそ、ここで何をしている!」
「私は、物音がして、こちらを確かめに……」
「嘘を言うな、まさか盗みでも働こうとしていたのでは!」
私は、動揺する心を、相手を攻撃することで鎮めようとした。
「め、滅相もございません!」
「ならば、もう行きなさい」
「し、しかし……奥様」
「私は、子供が昼間、この部屋に忘れたというものを探しに来ただけです。疑うなら、明日、お義母様に確認すればいい」
明日の朝、私はもう居ない。今夜だけ切り抜けられれば問題ない。
女中の目は、私のあらゆる所を観察している。
「は、はぁ……では、失礼いたします」
まだ疑っているようで、こちらを何度も振り返った。
そして、中々去っていかない足音にイライラしながら、先ほどの鍵を取り出した。
もういいだろう、と鍵を差し込み、引き出しを開けた。
「やったわ」
中には、金貨とダイヤ、真珠、ヒスイが現れた。それを、着物のそこ彼処にしまい込んだ。
□□□□
「兄さま、あれ大丈夫かな?」
「しっ!」
ベッドに入った貴世実と博弥は、体を寄せ合い、ヒソヒソと話をしている。
宵は、自分のベッドに腰かけ、本を開いた。
二人の希望により電気をつけているので、本の文字も子供の様子も見える。絹子が戻ってから、母と接することができず、塞ぎがちだった二人だが、今日は心なしか明るく見えた。
二人の話を聞くともなしに聞こえていたが、宵は、あえて反応せず本に視線を走らせ続けた。
「母さま、喜んでくださるよね」
「あぁ、そうだといいな」
更に声を潜めた二人は、強く手を握り合った。
今日、二人は庭で綺麗な石を集め、石鹼で洗い、布で拭き、天日に干していたと報告を受けた。そういう遊びなのかと思ったが、絹子へのプレゼントだったのか、宵は小さく頷いた。
そして、二人が明日、それを渡す姿を想像し、微笑んだ。
きっと、彼女は大袈裟なくらい喜ぶだろう。
そして、少し涙を浮かべるかもしれない。
宵は、絹子の反応を考えるだけで、幸せな気持ちになった。
本を閉じ、懐から鍵を取り出し、指で弄びながら子供たちを眺めた。
53
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
愛しいあなたは竜の番
さくたろう
恋愛
前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。
16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。
竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。
※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。
※全58話、一気に更新します。ご了承ください。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる