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おまけ クソBBAと呼んで欲しい
しおりを挟む子供たちというのは、筍のように、一瞬で、にょきにょき伸びるものなのだと知った。
前の屋敷は、地震のせいで、損傷があったので建て替えた。
新しい屋敷の柱に、また一本線を引く。
「大きくなりましたね。もう、と……届きませんよ」
リビングの柱の前に直立する、博弥さん。その頭上は遥か遠い。ちらりと後ろの宵さまを見て、鉛筆を渡した。すると、ニコニコしていた博弥さんが、無の表情に変わった。15歳になった博弥さんは、若干反抗期なのかもしれない。いや、全然、失礼な事言ったり、したりしないのだけど、宵さまに笑顔を見せることが減った。
まさか、復讐⁉ と恐れた私は、久子さんの家に駆けこんだ。曰く「思春期です」と。確かに、塾に勤めていたころ、この位の年齢の子たちは、親御さんとの距離感が小さなころから変わっていた。ちょっと、寂しいです。
「兄さん、でかいよね。いいなぁ」
同じ学年の異母兄弟の二人は、ちっとも似ていない。
貴世実さんは、映画では、某アイドル事務所の方が演じていた。柔和な貴公子顔だ。老若男女に愛されている。
博弥さんは、個性強めの実力派の若手俳優さんだった。目線で周囲が黙る存在感のあるカリスマだ。
そこそこ文武両道で優秀な貴世実さんと、飛びぬけている博弥さん。ご学友の一部の方は、愛人の子の方が優秀などと失礼なことを言ったりするようだけど、博弥さんに制裁されているらしい。貴世実さんは、まったく気にせず笑っている。
「良いことなど何もない」
博弥さんのつぶやきに、宵さまが小さく頷いているのが可愛い。
「健康なら背丈など問題ありません。二人ともイケメンですしね。母は、毎日眼福です」
「いけめんとは、何でしょうか」
博弥さんが真面目な顔で訊ねたので、笑ってしまう。
「貴方たち三人のように、優れた顔面の男性の事です」
貴世実さん、宵さま、博弥さんを順番に見て言った。
「優れた……」
「顔面……」
二人が、一斉に隣にいる宵さまを見た。
宵さまは、目を閉じて顔を天井に向けた。
「そうです。もはや、国宝級です」
私は、真ん中に立つ宵さまに抱き着いて、腰に腕を回した。
「……母さんは、相変わらずだよね。確かに父さんは、凄く目を引くし尊敬しているけど、ねぇ」
「国宝は言い過ぎです」
「もー、本当にお二人は見る目がありません!貴方たちのお父様は、年齢を重ねるごとに更に色気と凄みを増して、もう見るだけでため息が出ます。好きすぎます」
宵さまの胸に顔を擦りつけて、匂いを嗅いだ。
「……」
宵様は相変わらず、無だ。何も言わないし、動かない。
二人の息子からは、呆れたような空気を感じる。
「それより、母さん。母さんみたいに顔面が優れている女性は何というのですか?」
貴世実さんが聞くので、宵さまに抱き着いたまま振り返った。
そういえば、イケメンの女性バージョンってなんだろう?
「母さまが、国宝と称されるなら納得します」
博弥さんが、ぼそりと言った。
思春期到来中のはずの博弥さんだけど、まだ、私には反抗してこない。
いつ「くそババァ」と呼ばれる日が来るのだろう。全然いい。復讐に比べたら、いくらでも、どんど来いである。
むしろ、小出しにしてほしい。いっぱい言って安心させて欲しい。
「いいですか、博弥さん。将来の為に言っておきますが、この顔に騙されてはいけませんよ。こういう顔した女性は、性格が破綻してる可能性が高いです」
「母さん、世間から何と呼ばれているか、ご存じですか?」
「え? 没落アホ華族ですか?」
なんとなく思いついた事を言ったら、ぴったりで、我ながら凄い。
「誰に、そんなことを言われたんだ」
上から恐ろしく低い声が聞こえて来た。見上げると、怖い顔した宵さまと目があった。
「私も知りたいです」
博弥さんが、私の肩に手を置いた。
「え? ええ? 私ですけど」
そう答えると、二人がため息をついて顔を伏せた。
「母さん、謎の自己評価だよね。世間は、聖母って言ってるよ。良妻賢母のお手本とか」
「え……いやぁ、無い無い。それに良妻賢母って」
昭和ですか、という言葉は飲み込んだ。
そう、昭和だ。大正時代は終わって、昭和なのだ。
昭和って何があったっけ?
段々と、前の生の知識が薄れているのは、年のせいだろうか。
「私は、ただ、夫と子供が大好きな、家族大好きおばちゃんです」
「おばちゃん……」
「似合わないですよ」
確かに、絹子の外見はアラフォーのそれではない。
流石、美しき女優さんの体と、苦労知らずの富豪生活。
「ここは、虎柄の服とか着て、飴玉を持ち歩こうかしら」
「虎の毛皮が欲しいのか?」
宵さまの発言に、飛び上がった。
「いらないです! 絶対にいらないです! 買ったらダメですからね!」
ポロっといった物が家の中で溢れる。そんな経験が何度もある。あの時に聞いた逆ジャイアニズムは、継続されている。
つまらなそうな顔で宵様が顔を反らしたので、その頬に手を伸ばして顔を見合わせた。
「誕生日プレゼント以外は、頂きません」
「……」
「父さん、僕、新しい靴が欲しいです」
「私は、本を」
二人が、ここぞとばかりに手を挙げている。宵さまは、私に対しておかしい金銭感覚をしているけれど、子供たちには意外とまともに計らっている。
「「僕ら、来週は合宿もあります!」」
え?
何を突然言い出したの? 聞いてない。
「ご旅行などいかがですか」
「温泉も良い時季ですね」
「いくらかの軍資金があれば、家の者のいう事をきいて、大人しく勉学とスポーツに励みます」
「そうか」
なんで、宵さま、満足そうに頷いているの?
「ん?」
「だ、そうだが。絹子、君の希望を教えてくれ」
いつのまにか、腰を抱かれ、ソファへと促された。
息子二人は、柱に書き込みをすると、何やら相談しながら消えていった。
本当に仲、良いよね。息、ぴったりだよね。私、さっき、売られた?
「本当に、旅行へ行くんですか? お忙しいのに?」
「どちらでも良い。君と過ごせれば」
「っ!」
ふわあああああ! 私はソファに沈みこんだ。撃沈だ。
よし、温泉とか行って、速攻で寝るんだから!
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