華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

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東京の冬の考察、三神 宵。

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 冬を、雪を憎んでいた。

 生まれた村は、雪に埋まる場所だった。寒いという記憶よりも、痛いに近い。自分で用意した藁の布団も吐息で凍り、癪に触り握り潰すと痛かった。

 身を寄せ合って眠ってくれる兄弟もいなかった。気持ち悪いから近づくな。そう罵られ、部屋の端に追いやられていた。

 親に売られるように、東京に来て、なんて温かいのだと驚いた。暑いくらいの冬だった。
 そして、働けば働くほど食わせてくれるので、私は働くことにのめり込んでいった。暴力にも、嫌われる事にも、妨害される事にも慣れていた。

 長じて、あらゆる物が手に入った。

 しかし、人の温もりは苦手だった。

 温かい寝所は、不相応で……恐ろしかった。全てが夢で、またあの氷の中に引きずり込まれそうな気がした。

「……」

 日が昇る前に目が覚める。そして、自分の体に絡みつく、温かい存在に、安堵する。

 冬になると、寒がりの妻は、私のベッドで眠っている。夜遅くに、彼女を起こさない様に、そこへ潜り込むと、猫のようにすり寄って来る。
「……」
 その時の私の顔は、絶対に見られたくない。きっとだらしの無い顔をしている。いい大人の男が、泣きそうになるのだ。
「宵さま……おか、えりなさい」
「あぁ」
 目も開けず、すんすんと私の腕に鼻を寄せる彼女の肩に布団を引き寄せた。

 東京は寒い。冬は、彼女には寒すぎる。

 毎年、最新の布団を作らせるが、まだ寒い。
 もっと良い商品は無いかと、問い合わせている。もういっその事、商売として一枚噛もうかと思うほどだ。
 しかし、布団が十分温かくてなったら、人間行火あんかはお払い箱だろう。
「……」
 寂しいが、彼女が風邪をひくよりは、余程良い。
 布団から出ている冷たい頬に手を置いた。小さな彼女の顔に乗る妖怪の様な手が気持ち悪い。
「宵さま、きょーは、楽しいことありました?」
 ほんの少し目を開けた妻が聞いてきた。
「………………ない」
 何か面白い話題は無いかと考えたが、思いつかない。悩んでいるうちに彼女の目は閉じて、寝息が聞こえてきた。
 少し口角が上がって微笑んでいる様だ。
「おやすみ」
「……」
 何も返事が返って来ない事を確認する。
 すっかり寝入っている彼女の顔からは力が抜けて、幼子のようだ。

「愛してる」
 その寝顔に口づけて、何度も愛を囁いた。
 もう、二度とが戻って来ない様に。
 あれが嫌悪する、私の愛で彼女を満たそう。
「一生、君と共に過ごしたい」
 すがりつく様に抱きしめて、眠りについた。

 東京の朝は、寒い。
 私は、うっすら汗をかいているが、彼女の足は氷の様に冷えている。絡みつく足が気持ち良い。

「宵さま、あったかい……行かないで……」

 引きとめられる言葉に、休もうかとすら思うが、仕事もしたい。やりたい事が、作りたい物が山ほどある。1日が2日あれば良いと、馬鹿な事を考えたくなる。やはり、ここは……労働環境について一考すべきかもしれない。人には休みも必要である。

「寝起きの宵さまも、素敵ですね」

 当たり前のように語る彼女の目に嘘はなく、より私の眉間は皺を刻む。彼女の思考回路が理解できない。奇妙な怪物が好きなのかと、怪談の絵や本を買ったが「怖すぎます!」と怒られてしまった。それは、今、貴世実が気にって部屋に飾っている。貴世実の考えも良くわからない。
 博弥とは考えが近く、手に取るように理解出来る分、向こうから敬遠されている。

「君は、いつでも愛おしいが……」

 言い終わらないうちに、抱きつかれた。「んー」と唸りながら、着物の合わせに頭を詰め込んでくる妻は、おそらく変わり者だと思う。
 くすぐったい。
 だが、少しも嫌ではなく――むしろ、可愛い。

 頭が、邪な事を考える前に、部屋を出よう。

「もう、行く」
「えー、もうちょっと……」
「駄目だ」
 
 自分に言い聞かせる様に言った。
 肩を落として、反対側を向いて横になった妻。
 怒ったのだろうか。
 また、言葉の選び方を間違えた。

 最近では息子達に指摘される。「今の言い方は、冷たく聞こえると思います」と言う博弥と「まぁ、でも喜んでる気がしますよ。ただ、こう言ったらどうですか?」と助言する貴世実。二人の方が余程、彼女を理解している気がする。

「絹子……」

 謝ろうと彼女の肩に手を置こうとすると……振り返った。

「今の凄い痺れました!! もっと怖い顔で冷たく言ってください!」
「……」
 目が輝いている。嬉しそうだ。
 理解しがたい女性だ。

「今日も寒い、温かく過ごしなさい」
「あーもう、そうじゃなくて!! でも好きです」
 抱きついてくれたおかげで、まただらしない顔は見せずに済んだ。



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