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日本の冬は寒くない
しおりを挟む「そいつ…喉渇いているんじゃないか……うちで水やってもいいぞ…」
そんな不知火くんの提案で、本当はバッグにお水入ってたのだけど、秘密にして彼のお家にやって来た。
海岸から少し歩いた、古い一軒家だ。
今時の住宅では、あんまり見たこと無い…日曜日にやっている、ちび三角ちゃんのお家みたいだ…。
一階だけの家は、ボコボコした鉄板みたいな外壁で…正直…所謂、貧乏っぽい見た目だった。
周囲の友達や、大人達が言っていた不知火くんの悪口が思い出された。
「あいつ筆箱も上履きも買えないみたいだぜ」とか「いつも薄着しかしてないのは服が買って貰えないからだ」とか。
僕は、その言葉を振り払うように首を振った。
お水とか貰うのご迷惑じゃないかな…。
家に遊びに行きたいとか無神経だったかな…。
「おい、なんでそこに突っ立ってるんだ……来いよ」
不知火くんは、外の水道で植木鉢の受け皿を洗って、ラブにお水を出してくれた。
「あっ…ありがとう」
ラブが美味しそうにお水を頂いている。
駄目…ラブ…もっとユックリ飲んで…飲み終わったら帰らなくちゃならないから…。
「おい……貸せよ」
「え?」
「ここに繋いでおけよ…」
不知火くんがラブのリードを僕から奪い、近くにあった自転車のチェーンロックで玄関のひさしの柱へ繋いだ。
まさか、僕をお家の中に招待してくれるの?
僕は目を丸くして、不知火くんの動きを追った。
彼は、鍵の掛かっていなかったスライドするドアをガラガラと開けた。
その後、ドアを閉めずに家の中に入って行く。
これって、やっぱり僕も入って良いって事だよね。
「……ラブ、良い子にしていてね」
僕は、ラブの頭を一撫でして、お水のお皿を引き寄せてから中へと向かった。
「お邪魔しまぁす…」
目の前に広がる不知火くんのお家の中は、思ったよりも片付いていた。
玄関に靴は散乱していないし、綺麗だ。
僕はビーチサンダルの横に靴を揃えて、不知火くんを追いかけた。
一番近い部屋の襖を開けた先は、居間だった。その先には台所がある。
今までお邪魔した友達の家とは、趣が違う。
ついキョロキョロ見やると、本棚の上にランドセルが置いてあるのが見えた。
「不知火くん!ランドセル持ってたの?」
今までランドセルを背負っていたのを見たことが無い。
てっきり持っていないのかと思ってた…。 少し近づいて見ると、ソレは新品同様で使っていない事が伺えた。しかも、多分とっても高価なランドセルな気がする。刺繍とか質感とかが僕らのものとは違う…。
「ん?……ああ…」
台所で業務用みたいな大きな冷蔵庫を開けて、水を取り出しながら不知火くんが興味なさそうに答えた。
れ…冷蔵庫大きい。見たこと無い観音開きする冷蔵庫だ。
なんか…このお家、外の見た目と中のギャップがある気がする…。
テレビとかも超大型の薄い物だし、空気清浄機や、パソコンも最新な感じで…ハイテクだ。
あれ?
不知火くんって皆に貧乏だと思われているのは何故だっけ?
「…ランドセル使わないの?」
「…あ?それ重いし窮屈だろ」
えっ…そうかな?まぁ、不知火くんがいつも背負っているナイロンのリュックよりは重いだろうけど。
「あっ…上履き入れも上履きもあるじゃないか…えっ…なんでビニール袋にビーチサンダルなの?」
ランドセルの横に綺麗に積まれたソレをみて疑問が募る。
「上履き…熱い……ビニールは……ガシャガシャして……」
その先をゴニョゴニョと口ごもる不知火くんは、真っ赤になっていた。
えっ…まさか…ビニールのガシャガシャするのが好きなの?
その為だけ?
「……」
不知火くんは、僕の方をワザと見ないようにしながら、ちゃぶ台にお水をだしてくれた。グラスもオシャレだ。
「……」
僕は、座布団の上に正座をした。
不知火くんは、変わり者。そう思っていたけれど
なんだか、僕たちの方が型に填められていたような不思議な気持ちになっている。
「不知火くんって…知れば知るほど…面白いね…もっと、もっと知りたいな」
不知火くんの細い手を握り、その濃い緑の瞳を見つめた。
僕の手を。ぎょっとした様子で見た不知火くんが手を引き抜いた。
「……おま…おま…」
彼の口がパクパクと動いている。
「どうして冬も半袖半ズボンなの?」
「……は?日本の冬…別に寒くねーし……」
「…そっかぁ…」
ははは…と何だか笑えてくる。
そうか、冬も寒くないのか。
僕は、冬はダウンコートに冬用のスニーカー履いて、手袋、耳あてまでつけるよ。
「不知火くんは、いつも何して遊んでいるの?」
「……釣りとか…森の探検とか…」
「今度、僕も行って良い?」
再び不知火くんに近づいて膝を突き合わせた。
「……やだ……」
見事にプイっと顔をそらされてしまい、悲しい。
「……そっか……そうだよね」
また、距離感を間違ってしまった。
ちょっと早すぎたかも。
「……だって…お前……また怪我したら……来れないだろ……学校」
「えっ……」
もしかして、不知火くんは僕が嫌で断ったのでは無い?
まさか、まさか……僕を心配して?
学校で会えなくなるのが寂しくて?
いやいや、自信過剰だよね!
断り文句みたいな感じだよね。
「……まぁ…危なくないとこの釣りぐらいなら……連れてってやる……かもしれない……」
背を向けた不知火くんが俯いて言った。
ちゃぶ台の上の拳が、ギューギューに握られている。
「ホント?!嬉しい!絶対一緒に行こうね!」
僕は嬉しくなって、ラブにするように両手を広げて抱きついた。
「なっ!」
僕より華奢な不知火くんは、僕の腕にちょうどよくおさまった。
なんだろう、胸がキュンキュンする。
「離せ!ばかっ……ばか鳥!」
不知火くんがバタバタ暴れ、逃げられてしまって、寂しい。
「ねぇ、不知火くん……もっと呼んで」
「はぁ?」
「ばか鳥って、もっと呼んで!」
凄く仲良くなれたみたいで嬉しかった。
不知火くんの前に回ってワクワクして待つ。
「Get out!」
外を指差して怒鳴った彼の顔は、決して怒っている顔じゃなかったから、僕はニコニコと笑って立ち上がった。
「おじゃましました。また遊ぼうね」
頂いたお水のコップを台所のシンクに置いて、そそくさと玄関へ向かった。
「……帰り……気をつけろよ…」
僕の方を、ちっとも見ないのに言っていることが優しい。
「うん!じゃあね!」
なんで、不知火くんと居るとこんなに、ワクワク、ドキドキして楽しいんだろう!
これが気の合う親友になれる人なのかな?
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