初恋Crab 可愛い君は今マッチョ

いんげん

文字の大きさ
5 / 14

いつもの所で

しおりを挟む

そんなこんなで、徐々に仲良くなった僕らは、学校では親友と思われるほどになった。
先生たちも『不知火の事は、木ノ下つばめに』という認識を持ったようだった。

「不知火くんが、一学期を無遅刻無欠席で終えるなんて、木ノ下のおかげだ!って先生に抱きつかれちゃったよ」
僕らは、一学期の最終日、今日も一緒に下校していた。
鍵盤ハーモニカを握る手が汗を掻いている。背中のランドセルも暑くて重い。
今日も身軽で涼しげな格好の不知火くんが羨ましく思えてきた。彼は、鍵盤ハーモニカも鍵盤部分をむき出しでリュックに入れて、ジャバラはジッパー付き袋に入れてた。いいな……。

「……抱き……ん…抱き?」
「そういえば、不知火くん通知票どうだった?」
僕は、鍵盤ハーモニカを不知火くんに押しつけて、彼のリュックを漁った。
既に変な所で折れている通知票を開いた。

「…おい……さっきの…抱き…」
「うっわぁ…テストの成績凄く良いなぁと思ってたけど、全部良いんだ…すごい…不知火くんって実は何でもできるよね…」

通知票をまっすぐにして、リュックへと戻した。
勉強だけでは無く、スポーツも出来るし…良いのか悪いのか…僕には何とも言えないけど、不在がちなお母様にかわり、自分で何でもやって暮らしている。時々、家政婦みたいな人も出入りしているけど。

「…別に…」
「夏休みも遊びに行って良い?」

鍵盤ハーモニカを受け取るために、手を伸ばした。

「……駄目だ……アイツが来る」
「アイツ?」
「……」
僕の頭の中に、熊倒しのお父様の笑い顔が浮かんだ。

「あっ…お父様が帰ってくるんだね!それは邪魔できないね」
聞いて良いか分からずに、聞けてないお父様の話。
アメリカに住んでいて、春とか夏とかだけ現れるんだよね。
何している、どんな人なのか。

「…そうじゃない……気が向いたら………行く…待ってろ……」

僕の胸に鍵盤ハーモニカが押しつけられ、不知火くんが走り出した。
えっ…、今、まさか…不知火くん。

ちょっと……デレてくれた!
僕の目の前が、パァァっと光り輝いた。
嬉しい、とっても嬉しい。

「待ってる!待ってるからね!」

僕は飛び跳ねながら、不知火くんの背中に手を振った。


□□□□

夏休みに入って間もなく、我が港町に不知火くんのお父様がやって来た。
いや?帰って来たというべきなのかな?
それに合わせて、冒険家のお母様もチラチラお店などでお見かけするようになった。

僕は、不知火くんと遊べなくて、少し寂しいけど、スーパーで親子三人で買い物をしている姿を見かけて…不思議と嬉しくて涙が浮かんでしまった。

「…お前…なに泣いてんだよ…」

そんなに広くない店内だったので、すぐに見つかってしまった。
上下のカゴが溢れそうなカートを押している、お父様は遠目でみるよりも、もっともっと…ビックサイズ!だった。商品の棚から頭飛び出てるのでは?

「…おい、ばか鳥…」
「……」

不知火くんのお父様の大きさと、筋肉に覆われた厚い身体と、あちらこちらの傷とタトゥーに圧倒された僕は、呆然と見上げている。

「…おい!どうした」
「うわぁ…」

不知火くんが、僕の目の前でパチンと指を鳴らした。

「…ご…ごめん…なんか…嬉しくなっちゃって……はは……こんにちは」

ごしごしと手の甲で涙を拭ってから、ご両親に挨拶をした。
改めて見ると、厳ついお父様の目は、笑い皺があって優しい雰囲気だ。
手ぶらのお父様の隣に立つお母様は、スーパーなのに山登りみたいな大きなリュックを背負っている。タンクトップに短パンにトレッキングシューズで、綺麗な筋肉に覆われている。背も高いし、僕より髪が短くて、カッコ良い女性だった。

いつも綺麗なスカートを履いている、ふわふわした家のお母さんとは、タイプが正反対だ。

「ケント!フレンドあったか!こんにちわ!」
「こんにちわ!可愛いいわ!こんな可愛いお友達が居たの?」

背の高いお二人が、しゃがみこんで僕を取り囲む。

「あっ…あの…えっと……つばめです!よろしくお願いします!」

かばんを抱きしめて、直角に頭を下げた僕の前でお二人が英語で何やかんやと盛り上がっている。

ちらっと顔を上げると…

「うわああぁ!」

高い高い状態で、軽々と持ち上げられてしまった。
天井に頭がぶつかりそう。
蛍光灯の上のホコリが見える。
お父様に悪意は無く、キュートとか何とか言っている。

「おっ…おい!離せ!」

不知火くんの蹴りが、お父様のふくらはぎを攻撃している。

「ゴメンナサイ」

息子の怒りに気づいたのか、僕はそっと降ろして貰えた。地に足がついても、ふわっとした感覚が少し残っている。
それにしても、高かったなぁ。そして大きな手だった。さすが熊を倒す人だ。

「行くぞ…」
「えっ……ちょっと…不知火くん……待って」

お父様を見上げていると、不知火くんに手を引かれ、その場から連れ出された。
お父様とお母様は、にこやかに僕らを見送っていた。

暫く不知火くんの足は止まらず、僕らはスーパーから出て、防波堤までやって来た。

「……」
僕を、ここまで連れてきた不知火くんは、なにも言わずに小石を海に蹴り込んでいる。
「……」
僕も、その隣で石を蹴り始めた。
本当は、不知火くんのお父様とお母様について話したいけど、僕も自分の両親について友達に話されると、何だか照れくさいから、黙っていた。
でも、これだけは聞かないと!

「不知火くん、いつ僕のことを迎えに来てくれるの?」
「っ!」

夏休みに入って、もう8日経ってしまった。
不知火くんは来てくれなくて、暇だし宿題のドリルは終わりそうだよ。
つい、窓の外ばかり見てしまうし。

「……いつも……途中まで、行ってる……」
「えっ?」

途中まで?
えぇ…じゃあ、僕が途中まで行けば会えるのか!

「ごめんね、明日は僕も行くから、途中で待っててね」
「……いつもの…ところな…」
体の向きを変えた不知火のビーチサンダルが、じゃりっと地面を擦り、ざっざ…と走り出した。

「うん!いつものところで」

僕は、防波堤で不知火くん背中を目で追い、スーパーの前でご両親と合流した彼らをみて満足してから、家へ帰った。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...