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お迎えが来たよ
しおりを挟む「……んっ」
誰かが俺の頭に優しく触れている。
亮平?あれ?亮平は…今…居ないはずなのに。
「……目が覚めたか?」
薄らと開いた目に映る、ヒコさんの心配そうな顔。もともと鋭い目つきだけど、今は更にキツい。眉間の皺も一本多い。そしていつも冷静っぽい雰囲気出しているのに、今は薄らと汗まで掻いて余裕がない。
「…ヒコさん…」
「あぁ…大丈夫か?頭も打ったんだろ?気分は?」
何で知っているのだろうと思ったけど…きっと俺が寝ている間に聞いたのだろう。
「眠い…疲れた……でもヒコさんが来てくれて……嬉しい」
大丈夫、大丈夫って無理して言っていた反動か、凄い甘えたい本性が出てくる。
俺は両腕を伸ばしてハグを要求した。
一瞬戸惑ったヒコさんだったが、俺の腕が下ろされないのを見て、椅子から立ち上がった。
上に覆い被さるように頭を撫でるように抱きしめられた。俺が首に腕を回して頭を持ち上げると、ゆっくりと起こしてくれた。
「痛い…」
足首が動いて、ズキズキと痛みを知らせてくる。足首で鼓動を感じる。
「っ…わるい…」
離れていこうとするヒコさんを引き留めるように抱きつく腕に力を込めた。
すると、力を抜いたヒコさんは俺の背中を優しく撫でてくれた。
嬉しいな…凄く癒やされる。
やっぱりハグも良いよね。
でも最初に抱きついた時は、あんなに体が硬かったのに…大分なれてくれたなぁ。
ヒコさんの大きな胸に顔をくっつけると、安心感に包まれる。
「……」
「……病院の人に、迎えを呼べって言われて……家族は皆石川だし…タクシー乗る金も無いし…途方に暮れてたんだ……ヒコさんが天使に見える」
抱きつく腕を解いて、ヒコさんの顔を見つめた。
「……いつもは図々しいくらいなのに…なぜ、本当に困ったときに遠慮するんだ……馬鹿か……これからは最初から選択肢に入れておけ…」
「ヒコさぁぁん、やめて…いま優しいこと言わないで……涙腺が崩壊するから」
なに映画のヒーローみたいになっちゃっているのさ!
心に響いちゃうだろうが!
俺の格好いい顔が、涙と鼻水で崩れてしまう。
誰だって一番なのは笑顔なんだぞ。
俺ほどのイケメンは何でも余裕の笑顔で乗り越えるんだぜ
「…くそ生意気なガキの泣き顔見れるなら、来た甲斐がある……不細工だな…困った時は呼べ……馬鹿にしに来てやる」
意地悪な事を言っているくせに、優しく微笑まないで欲しい。
「うぅ……くそぉ……見るなよ…テッシュ……テッシュとって……」
受け取ったテッシュで顔を隠すように涙を拭いて、鼻をかんだ。
近くに置かれたゴミ箱にポイッと投げる。
「それで、そろそろ帰って良いそうだが、どうする?もう少し休んでいくか?」
「えっ…もう良いの?あっ!病院の支払いって次に来るときで大丈夫だよね?」
大きい病院来て、あれこれやったらいくら掛かるんだ?
頭の中の財布から、新幹線のチケットの引き落としが飛び去り、治療費が飛び去り、暫くバイトに行けない時の生活費が飛び去った。やべぇ……コレは…ついに最終兵器、姉さんの奴隷コマンドを使用する時がきたか。
地元で高給取りの姉は、弟の顔を溺愛している。玩具として姉さんに2、3日付き合えば、それなりのお小遣いが…それとも…成績表を持って父ちゃんに小遣いを…。
「助けた女性の娘さんが迎えに来たときに、お前の精算も済ませたそうだ。挨拶しに来てくれたが、ぐっすり眠ってたから帰って頂いた。でも連絡先を渡されたぞ…今後の治療費も支払ってくれるそうだ」
ヒコさんからメモが渡された。
そこにはご丁寧にお礼の言葉と連絡先が書いてあった。
「えっ…やだよ!そもそも、俺がヒョロかったせいで大事になって申し訳ないし」
「いや、払われておけよ。向こうだって気にするだろ」
「でもさぁ…分かんないけど、おばあちゃん、家族に怒られたりしても嫌だし、すぐ治るから大丈夫!まじで情けない。おばあちゃん…駅来る度に思い出したら可哀想だ」
「……」
紙を眺めて考える。破り捨てたらお金返せないし、治ったよ気にしないでねって連絡出来ない。
「…よし、さっさと治して、おばあちゃんをデートに誘おう、巣鴨か?浅草?」
手紙を畳んで財布にしまった。
お年寄りの疲れなくて楽しいデートコースを調べないと。
「……お前の恋愛対象が女性で無くて良かったな……」
「なんで突然?」
「いや……店長より酷い争いが起きていそうな気がする…」
「そう?」
□□□□
「…そっと…そっとね!」
お世話になった看護士さんに挨拶をして、次の診察の外来予約を取った。
日にちを決めるのに、この日にしろと口を挟んできたってことは、ヒコさんまさか付き合ってくれるつもり?面倒見良すぎでは?
決死の覚悟でベッドに腰掛けたポーズになった。
タクシーまでヒコさんのおんぶな訳なんだけど…目の前に迫る背中…でけぇな。何気に逆三角形の水泳選手体型だ。
「よっ!」
覚悟を決めてヒコさんの背中に乗っかった。
「動くぞ」
「うん、よろしく。俺のベンツ」
「……元気でてきたのか?」
ヒコさんが、ふんって鼻で笑った。ヒコさんの顔の斜め上からみる世界は、いつもの俺の世界より、亮平におんぶされるよりも高い世界だった。
へぇ-、こんな風に見えるんだ…。物はいつもと同じサイズなのに、心持ち小さく見えるから不思議だ。
「お大事にね」
「有難う御座いました」
看護士さんに声を掛けられ、ヒコさんが頭を下げた。
この異色な取り合わせは、彼女たちにはどう見えているのだろうか。
年の離れた兄弟?友達?まさか…親子!?
クスクス笑っている俺をよそに、危なげない足取りでヒコさんが歩く。
割と出口に近い所にいたのか、あっという間にタクシープールについた。
幸いな事に誰も並んでいなかった。開いたドアの前まで来た。
「一回下ろすから…我慢しろよ」
ヒコさんが、ゆっくり屈んでいく。
「羽根のように…ふわって…エアリーにおろして」
往生際悪く、しがみつき…ゆっくりと降り立った。
足にビー-ンと痛みが走る。
「よっしゃ!!」
そのままの勢いで、ヤケクソにタクシーに乗り込んだ。
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