ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】

いんげん

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お風呂に入ります

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住処には、お風呂があった。
人生で初めてみる五右衛門風呂だった。この食品工場の大きなお釜を利用して煉瓦やセメントを使って作られていて結構本格的なお風呂になっている。外だけど。
工場のトラックが出荷時に停車するような場所に作られているから、すごく情緒ないけど、此処が一番排水が良いらしい。確かにすぐ側に格子状の側溝がある。
ジフが薪を割ってから半分寝ながら俺を見守っている中、ひたすら水を釜に運び、お湯を沸かした。
現代のピッとボタンを押すだけのお風呂が懐かしい。

「出来たよ、ジフ!」

お風呂に手を入れて温度を確かめ、近くの階段に座って寝ているジフに声をかけた。
昨日はジフが夜の見張りで、昼すぎまで寝た後「犬、風呂入るぞ」と言ってきた。レッドと畑仕事していた俺はジフに連行され、風呂の用意に励んだ。大変だけどお風呂に入れるのは凄く嬉しいから、毎回張り切って頑張る。現代人の俺的には、毎日井戸水で行水するのは物足りない。

釜の蓋の横に置いておいた、お風呂の底板をお湯に浮かべた。

「おぅ、ごくろう犬」

ジフが階段の方から歩いて来た。まだ眠そうなジフの細い目は凶悪な糸目になっている。
だるそうに肩に掛けているホルスターを外し、拳銃とナイフを俺に押しつけた。
俺はソレをお風呂の近くに並べる。いざという時にすぐとれるようにね。

「よっ」
ジフはポンポンと服を脱ぎ捨て、鍛えられた体が晒される。ジフの肉体は、レッドのゴリラ筋肉とは違うし、しなやかに鍛えられた豹兒とも違う。確かな厚みがあるけど重すぎない、余計なものを削ぎ取り必要なモノを残した感じでメチャクチャ渋くて格好いい。それに巨根。
「ジフ……やっぱし、良いからだしてるねぇ」
「その顔で変態発言を辞めろ…」
ジフが眉間に皺を寄せ、体を洗い始めた。それをじっと見る俺。
男の入浴シーンなんて、一般人だったら見ていられないけど、こうも渋くて格好いいと、同性でもため息でるし、見てて楽しい。エンターテイメント!!
「ジフ頭洗ってあげるよ!」
「ああ?」
大型トラックの荷台の高さに合わせた出荷口の場所から、目の前に立っているジフの頭にステンレスのボールでお湯をかける。ジフの頭から飛んだお湯が俺の足を濡らす。
「っ…おい…犬……」
ジフの髪が水を吸って、ぺっしょりした。いつもはハーフアップしている長めのショートがワカメみたいに顔に張り付いている。ジフは若干うねりのある癖毛だな。
「あはは、ジフ濡れたワンちゃんみたいだよ。可愛いよ」
「……お前」
「あー、動かないでねジフちゃん」
俺はフローラルな匂いがするシャンプーでジフの頭を、わしゃわしゃ洗う。
知らなかった、人の髪を洗うのって意外と楽しい。
こめかみ、てっぺん、後頭部、襟足、足をぶらぶらさせて、目の前に立つジフの髪を鼻歌交じりに洗う。目を瞑って顔を下に向けて意外と大人しく洗われているジフが、実はお風呂好きなツンデレの犬みたいで可愛い。
いや、体はバッキバキで傷だらけだから、見た目が可愛いわけじゃないけんだけどね、不思議だね。

「痒いところはありませんか」
おなじみのアレを聞いてみた。泡立てた髪で、右と左にトイプードルの耳みたいなのをつくる。
「ねぇ」
ジフプードルから、力が抜けたリラックスした声が返ってきた。
「じゃあ流していきますね」
腰を上げて、上からボールでお湯を掬い、背後からジフの頭に近づける。
お湯の入ったボールが重くて、ジフの頭にフチをのせてお湯を流した。雑だけど、意外と怒られないし、チラッと覗いたジフの口元は少し微笑んでいた。
何度か流して、泡が無くなって、最後にボールを頭に被せた。
「はい、おしまい。お会計は1000円になります」
「それって、いくらだ」
ボールをとったジフが聞いた。
あぁ…そうだった、今は物々交換が全てで使われてないんだよね。
「んー、ごはん2食くらい?」
「たけぇな」
ふっと微笑したジフは、体を流し風呂の底板を踏んで湯船にはいった。もともと六割くらいしかお湯が入ってないので溢れることはなかった。お湯からジフの広い肩が出ている。うん、次はあとちょこっと多めにお水汲んでこよう。
お風呂はいつも、ジフ、豹兒、俺、レッドの順番で入る。前半は序列でレッドが最後なのは、ガタイ良すぎてお湯無くなっちゃうし、熱々が嫌いだからだ。

「気持ち良い?」
「…そうだな」
「えへへ」
自分が用意した風呂に入って、リラックスしているジフを見て嬉しく思う。
湯船につかり腕を広げているジフと向かい合って、高い所で足をぶらぶらさせて、現代の定番のお風呂の歌を歌う。
「なんだぞの変な歌」
「よくわかんないけどお風呂の歌」
「記憶が無くても歌は覚えているのか?」
「うん。なんか不思議だよね」
とりあえず、そういうことにしておく。もしかしたらジフは俺がただの記憶喪失じゃない事を何となく気がついているかもしれない……。
「お前…あんまり歌うまくないな」
「余計なお世話だよ!」
「そういえば、3日後に出張に行く」
湯船のお湯を掬って顔を洗いながら、ジフお父さんが言った。
「出張?」
えっ…何そのサラリーマンみたいな発言は。
何、何?大阪?名古屋?はたまた福岡?まさかの北海道とか?俺の中のジフが高そうなスーツを着て飛行機のビジネスクラスに乗っている。ジフにはちょと太めのネクタイのほうが似合いそうだな。

「どこで何するの?」
「少し先のグループの近隣で強いゾンビが出たらしい。ウチと下野のグループから1人ずつ出して狩りに行く」
「え…」
それって危なく無いのって言おうとして、口を閉じた。危なく無い訳が無い。ゾンビだよ。
痛覚も恐怖も何も持たず、噛み付いてウィルスに感染させ、相手を殺して、仲間にする。それだけの為に、脳か心臓にダメージを与えるか、腐るまで本能で動き続けるんだ。
しかも生前強ければ強いほど、ゾンビになった後も強いし、健康だった人ほど、長く腐らない。妙な設定にしてくれたな……あのクソ作者!

「あっ……あれ」
「おい!」
突然くらっと来て、頭が重力に吸い寄せられるように傾いた。
ヤバい、ちょっと高いところに座ってたから……落ちるかも。そう思うのに手が出ないし動けない。これって貧血ってやつ?
慌てたジフがザバって立ち上がり、お風呂の縁に足をかけて、俺に飛びついて来た。
頭を抱え込まれるように、後ろに倒れ込み、ジフの雄っぱいに鼻を潰された。
雄っぱいって柔らかいものだと思ってたけど……想像より硬い。
鼻が痛い。
でも…その痛みで、遠くなった意識が戻ってきた。
うん、全身ビチョビチョだよ。
「ごめ…「色々誤解だから、その日本刀をしまえ」

ごめん、ありがとうと言おうとしたら、俺の上に居るジフが、首だけ後ろを向いて言った。

「誤解」
「……豹兒?」
ジフの後ろから豹兒の声がする。
ちょっと横に顔をずらすと、豹兒がいつも履いている黒のスニーカーが見えた。
「こいつが突然倒れそうになったんだよ。本当に、お前……いつも微妙なシチュエーションを作り出すよな」
ジフが俺の上からいなくなると、刀をしまう豹兒が居た。
「倒れた……ポチ、大丈夫?」
豹兒は、俺の側に膝をついて、俺の頭の下に手を当てて抱き起こしてくれた。
「全然大丈夫!一生懸命薪吹きすぎて酸欠だったのかな?くらって来ただけ、ありがとうジフ」
支える豹兒の手をどかして、ジフに微笑んだ。
「さっさと服を着て下さい」
豹兒が俺の目の前に手を翳し、ジフの裸体をみせまいとした。
これって……まさか!やっぱり…ジフ×豹兒もしくは、豹兒×ジフ。この『屍街世界』攻め×攻めのゾンビBL世界なのだから。
やばい、俺も相当毒され……いや、適応してきたのかもしれない。
「豹兒……お前最近可愛くねぇな。すっかり男じゃねぇか」
な、何てデリカシィの無い事を言うんだ、ジフ。確かに豹兒は美形だから、さぞ昔は美少年だっただろう。だからって成長した豹兒にそんな事を言うなんて、ジフに恋する豹兒が傷つくだろう!
いや!待て…俺!
これか……コレが攻め×攻めなのか?
昔はジフ×豹兒だったのが、豹兒の成長で、豹兒×ジフにもなり得る、みたいな?
いや?これは感想サイトでみたリバーシブルの話かな?
しかしながら、豹兒は先日まで自慰も知らなかった恋愛バブちゃん。やっと二人の恋が始まる感じなのか?俺が豹兒に大人のハシゴ渡した感じ?

「……ポチ、大丈夫?気分悪い?」
俺が色々と頭の中で忙しくしていると、いつの間にかジフの着替えは終わっていて豹兒が俺を覗き込み、濡れた俺の事をタオルで拭いてくれた。
「あっ、ごめん。なんでもない、考え事。ジフ!ゾンビ退治大丈夫なの?」
豹兒の差し出してくれた手をとって立ち上り、ジフに歩み寄った。
片膝を立てて座り込みブーツを履くジフの頭を、豹兒が俺を拭いてくれたタオルでかき回す。ここでは頭は自然乾燥だ。ソコソコ水分を吸い取った後、俺のポケットに入れておいたジフのゴムを取り出して、髪を結ぼうとしたら、横から豹兒に奪われた。
「……」
思わず目をまん丸くして、豹兒を見てしまった。豹兒は俺から顔をそらして、ジフの髪を結ぶ。ジフも目を剥いて振り向いた。お風呂入って穏やかな顔していたジフの眉間の皺がまた戻ってきている。
どうしたのジフ!照れているの?

何だか二人を見てムズムズ?もやもやする気がする。変な感じだ。のけ者にされた疎外感かな?

「……強いゾンビって凄い危険でしょ?知らない人と二人で大丈夫なの?」
「あぁ、誰に言ってんだ」
ブーツを履き終わったジフが立ち上がった。
「ジフって本当に強いの?」
「なんだと、犬!」
ジフが俺に顔を寄せて、ワザとガンを付けた。
だってさぁ、小説内のジフは戦闘のセンスも高くて、体も強靱で、とにかく強かったけど、でも所詮は小説なわけで、今、この世界は現実だし……いや、現実っていってもゾンビとか居るから、やっぱり、この人達は俺が思うよりも超人なのかな?50メートル4秒くらいで走るとか?
こんど、不意打ちで攻撃してみよう!

「ポチ、心配ない。ジフの強さだけは保証する」
豹兒が俺の腰に腕を回して、接近しているジフから遠ざけた。豹兒、こういう接近に関しては駄目なのに、愛するジフがゾンビ狩りに行くのは良いんだ。戦闘に関する信頼熱いね!!
「……豹兒……お前……」
ジフが元々細い目を細めて豹兒を見つめている。
えっ…今、トキメキのシーンなの?
どうしよう!!演出のためにハートマークでも手で作る?
あっ、今、豹兒に抱きこまれている俺がジフの腕を引っ張ったら、BL小説の強制力みたないやつで、二人はキスしたりしないだろうか!
俺は、目を光らせ、目の前のジフの腕を掴んだ。しかしジフの上腕の筋肉が発達しすぎてて、指が回らず全然引き寄せられなかった。
「……」
「なんだ、犬」
ジフが不思議そうに俺の手を見下ろしている。
「えっと……あの……」
何も言い訳が思いつかない。
「い…いくら強くても、危ないし……気をつけて!」
掴んだ腕をどうしたらいいものか悩み、手を離してソコをポンポン叩いた。
「あ…あぁ」
「待ってるから、かすり傷一つ無く帰ってきて。じゃあ!」
いたたまれなくなって、豹兒の腕から抜け出して立ち去ろうとしたけど、外れない。

「ポチ、入るなら、お風呂先に良いよ。心配だから見張ってる」
「ん?う、うん。ありがとう」

いつもは、レッドが居てくれるんだけど、まぁ良いか。


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