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来訪者視点(屍街世界、主人公、蒼陽)
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「あの頃に戻りたい」
様変わりしてしまった世界で、他人の口から何度か聞いたことのあるセリフだ。彼らの言う、あの頃は平和で女性が存在していたときだろう。
だが、俺の戻りたいのは、そこじゃない。
芳親(よしちか)が生きていた頃だ。
彼に会ったのは、彼がまだ赤ん坊の頃だった。彼は若い父親に抱かれゾンビから逃げる生活をしていた。俺の父と同じ子連れ同士、共感するものが合ったのか、共に過ごす事になった。
芳親は、とても愛らしい赤ん坊だった。見たことないピンクの髪で、まるで天使のようだった。
でも、後から知ったが、不思議な色合いの髪はゾンビウィルスに感染した妊婦から生まれた赤ん坊の特徴らしい。
「この子、全然泣かないね」
父親たちが忙しいときや、危険が迫って隠れるときは、俺が芳親を抱いて隠れた。最初は、芳親が大泣きしたらどうしようと不安もあったけど、彼は全然泣かなかった。こちらが不安になるくらい、大人しい子だった。
十分にミルクも与えられないし、痩せているから、元気がないのか、それとも、ゾンビウィルスのせいなのか。
彼の父親はとても心配して、よく泣いていた。
芳親が歩けるようになった頃、俺の父が死んだ。
それからの事は、多少曖昧な記憶になるけれど、いつも芳親が側にいて、隣で笑ってくれていた。
遺体は無いけど、父の為に作った墓に、彼が集めた花を沢山飾ってくれたことが印象的だった。
芳親は3歳を過ぎても言葉を喋らなかったが、言っている事は理解していた。ただ素直に、俺や父親の言うことに従う子だった。
ゾンビが溢れる世界を生きるのは、大変だったけれど……不思議と、俺達は運が良かった。
何とか上手く生きてきたけれど、幸運はいつまでも続かず、ついに芳親の父親もゾンビになった。
彼は、まだ正気が残っているうちに、自分の頭を撃ち抜いた。
芳親は7歳、俺が12歳の時だった。
その頃には、生きている人間も大分数が減っていた。俺達は生きている人間で組織した軍隊に拾って貰い、下働きをしながら生きた。
しかし、相変わらず言葉を話さず、可愛い顔をした芳親は、男たちにおぞましい目で見られていた。
「芳親、ここを出よう。このままいたら……危ない」
何度も芳親に提案したが、普段首を横に振ったりしない芳親が、はっきりと嫌だと意思表示をした。
行く宛があるわけじゃないから、死にに行くようなものかもしれないけれど、芳親はもう俺の一部みたいなものだ。あんな男たちに好き勝手されるなんて許せなかった。
とにかく早く強くなりたくて、死ぬ気で戦い方を覚えた。最初はゾンビを撃つのにも抵抗があったけれど、段々と麻痺して行った。ゾンビに噛まれた仲間も躊躇なく撃てるようになるのも、あっという間だった。
そして、月日が経ち、そこで一目置かれるようになった頃、事件が起きた。
「……芳親……」
俺達の部屋から叫び声が聞こえて来て、駆けつけると、男が半裸で倒れていた。一人は腹を刺され血まみれで、一人は首を撃たれて死んでいる。
「なんでだよ……ぐっ……お前みたいなの、抱かれる以外!何の役に立つんだよ!!お前と蒼陽まとめて飼ってやろうとしたのによぉ!」
男は、ベッドの上に居る芳親からフラフラと離れて行く。ナイフが小さく傷は浅そうだ。
「ふざけるなっ!!」
俺は燃えるような怒りに支配されて、まだ生きている男の頭をうちぬいた。
ザワザワと廊下が騒がしくなった。
ここでは、武器を使った喧嘩は禁止だ。ましてや、殺しはご法度だ。原因はコイツらであっても、罰を受けるのは俺達だ。
今度こそ本当に……芳親が危ない。
「逃げよう!」
俺は、武器を装備して、焦点が合わない芳親の腕を引いてアジトを抜け出した。夜を迎えた外は所どころでゾンビの気配を感じた。
この世界で子供二人だけで生きるのは大変だった。でも休むわけにはいかない。ゾンビと戦い、食料を探し移動を続けた。
その間も、芳親は嫌な顔一つしないで天使みたいな笑顔で笑っていた。
俺は何度も笑っている芳親を抱きしめた。そうしないと、消えてしまいそうな気がした。
「……連れて行けない」
ある日、芳親が犬を連れてきた。昔、平和だった頃にテレビで見たことがある、クリーム色の柴犬だった。犬の面倒なんて見ている余裕なんて無い。何度か芳親が寝ている間に捨ててきたけれど、犬の鼻は優秀で何度も戻ってきた。
しかし、よく躾けてみると犬は、とても優秀だった。ゾンビの匂いを嗅ぎ分け、夜もいち早く危険に気がついた。
「コイツの名前……どうする?犬といえば、ハチとかシロとか……ジョンとか?あー、ポチとか?」
「ワン!」
「ポチ?」
「ワン!」
「芳親、こいつポチだってよ」
ポチは俺達の家族になった。
街の荒れたショップで犬の首輪になりそうな、ピンクゴールドのアクセサリーを見つけた。
細長いタグにポチの名前を彫って付けた。
大変だったけれど、この頃の日々が、一番幸せだった。
だけど、平和だった世界が激変したように、ささやかな幸せも長くは続かなかった。
近くの生存者グループがゾンビにやられ、大量の人間がゾンビ化した。
中には戦闘に長けた若い者も沢山いた為に、周囲に暮らしていた野良の人間達は、軒並みゾンビに襲われ自らもゾンビになった。
「芳親!ポチと逃げろ!」
軍服姿の手強いゾンビ二体を相手に、真夜中に廃ビルの中で命をかけた追いかけっこをして、足を負傷した。
何とか倒したけれど、もう一体いる。今回ばかりは、やばいかも知れない。必死に怪我を隠して、手近にあったテーブルに座った。
「良いか、できるだけ遠くへ行くんだぞ。ポチを頼む」
「……」
いつもは直ぐに指示に従う芳親が動かない。ポチは芳親の顔を必死に見上げている。
「急げ!俺が戦っている間に、裏から出るんだ!終わったら追いかける……分かったな」
芳親の手に銃を握らせた。芳親とポチが出て行ったらゾンビをおびき寄せよう。
自分がゾンビにならないように、噛まれる前に倒さなければ。たとえその後死んだとしても。
「……芳親」
これが最後になるかもしれない。芳親の顔を見つめた。
本当に天使みたいだ。綺麗で純粋で……汚れない。どんな過酷な状況でも文句もいわず、微笑んでいる。そう今みたいに。
今までずっと、芳親の心は少し遠くにあると感じていた。
「今までありがとう」
ついに芳親の笑顔以外見ることが出来なかった。それが少し寂しい。
「……」
芳親がまた俺に微笑み、背伸びをすると、俺を抱きしめた。
「芳親?」
俺が驚いていると、芳親は俺に手を振り……ポチに向かって顎をしゃくった。
裏口にではなく、先ほど入って来た扉に向かって。
「お…おい!何をする気だ!芳親!やめろ!戻れ!!」
芳親は、俺の行く手を塞ぐように椅子やテーブルを倒して、ポチとともに走り出した。
追いかけようとするが、足が言うことをきかない。
「芳親!!」
遠くで銃声とポチの激しい鳴き声がする。
その声は、段々と遠ざかって行く。まるで俺からゾンビを遠ざけるように。
その夜、俺は必死に芳親とポチを探したが、途中で意識を失ってしまった。
あの後、どんなに探しても、芳親もポチも見つからなかった。
死体も、それらしいゾンビにも出会えなかった。
□□□□
月日が経っても、芳親とポチを失った後悔は消えるどころが、降り積もる雪のように深くなっていった。
もし、あの時……俺がもっと強ければ。
芳親とポチを逃がすのではなく、一緒に戦う判断をしていれば。
もし……。
何度か、俺も死んでしまおうかと思ったが、芳親とポチの死を確認したわけではない。
まだ、どこかで生きているかもしれない。
どこかで苦しい思いをしているかもしれない。
だから、まだ生きている。
積極的にゾンビ退治に参加し、この地域や周辺をまわっている。
今回は、この周辺で有名な戦闘グループとの狩りだ。
最近では、日本刀の若手が出てくることが多かったらしいが、今回はボスが来るらしい。
合流するために、一日早く相手のグループの拠点へと向かった。
その途中、近くでバイクを止めて昼食を取り、少し休憩をした。
もうすぐ季節は秋だ。秋になるとコスモスを見かける。人類が減ってもゾンビが徘徊しても、強い花は生き残り、自生している。
芳親が花を摘んで、俺の髪に何本も挿して遊んでいた。自分の方が似合うのに…。
「……」
思い出に浸っていると、寄りかかって座っている塀の向こうから、騒がしい音が聞こえてきた。
ふと見上げると、塀の上を猿が走り、向こう側の建物の屋根に飛び移った。
町中を動物が走り回っているのは、珍しい光景じゃ無い。
興味を失って再び前を向いた時……人の気配がして、もう一度塀を見上げた。
「うぁああ!」
そこには、少し藤色にも見える、淡いピンクの髪の青年が居た。
色の白い卵形の顔に、大きな瞳、まさに……芳親が成長していたら……こんな風になっていたと思うような姿だった。
一瞬、都合の良い幻でも見ているのかと思い、数秒間は動く事が出来なかった。
その間に青年は、昇った塀から飛び降りて、走り去る足音が聞こえた。
「……まっ……待って!!」
慌てて、高い塀を乗り越えたが、既に青年の姿は無かった。大して時間が経っていないから、近くには居るはずだ。
名前を呼んだが反応は無い。
周囲の物陰を確認しながら、そういえば……今の青年は叫んでいた事に気がついた。
どう見ても、芳親だったと思う……彼は声を出せるようになったのだろうか?
なぜ逃げたのだろう。
もちろん、芳親が俺を覚えていない可能性もある。俺は、彼と離れてから急激に身長が伸びたせいで印象も違うから気がつかないかもしれない。
もし……男達に酷な扱いを受けて、恐れているのだとしたら?
気持ちが焦り、つい呼びかける声の語気が高まる。
直ぐ目の前のコンビニに入り、中を探していると猫が出てきた。
何だ…猫か……ポチではない。
更に奥を探しに行こうと足を踏み出すと、少し離れた場所で銃声が聞こえた。
様変わりしてしまった世界で、他人の口から何度か聞いたことのあるセリフだ。彼らの言う、あの頃は平和で女性が存在していたときだろう。
だが、俺の戻りたいのは、そこじゃない。
芳親(よしちか)が生きていた頃だ。
彼に会ったのは、彼がまだ赤ん坊の頃だった。彼は若い父親に抱かれゾンビから逃げる生活をしていた。俺の父と同じ子連れ同士、共感するものが合ったのか、共に過ごす事になった。
芳親は、とても愛らしい赤ん坊だった。見たことないピンクの髪で、まるで天使のようだった。
でも、後から知ったが、不思議な色合いの髪はゾンビウィルスに感染した妊婦から生まれた赤ん坊の特徴らしい。
「この子、全然泣かないね」
父親たちが忙しいときや、危険が迫って隠れるときは、俺が芳親を抱いて隠れた。最初は、芳親が大泣きしたらどうしようと不安もあったけど、彼は全然泣かなかった。こちらが不安になるくらい、大人しい子だった。
十分にミルクも与えられないし、痩せているから、元気がないのか、それとも、ゾンビウィルスのせいなのか。
彼の父親はとても心配して、よく泣いていた。
芳親が歩けるようになった頃、俺の父が死んだ。
それからの事は、多少曖昧な記憶になるけれど、いつも芳親が側にいて、隣で笑ってくれていた。
遺体は無いけど、父の為に作った墓に、彼が集めた花を沢山飾ってくれたことが印象的だった。
芳親は3歳を過ぎても言葉を喋らなかったが、言っている事は理解していた。ただ素直に、俺や父親の言うことに従う子だった。
ゾンビが溢れる世界を生きるのは、大変だったけれど……不思議と、俺達は運が良かった。
何とか上手く生きてきたけれど、幸運はいつまでも続かず、ついに芳親の父親もゾンビになった。
彼は、まだ正気が残っているうちに、自分の頭を撃ち抜いた。
芳親は7歳、俺が12歳の時だった。
その頃には、生きている人間も大分数が減っていた。俺達は生きている人間で組織した軍隊に拾って貰い、下働きをしながら生きた。
しかし、相変わらず言葉を話さず、可愛い顔をした芳親は、男たちにおぞましい目で見られていた。
「芳親、ここを出よう。このままいたら……危ない」
何度も芳親に提案したが、普段首を横に振ったりしない芳親が、はっきりと嫌だと意思表示をした。
行く宛があるわけじゃないから、死にに行くようなものかもしれないけれど、芳親はもう俺の一部みたいなものだ。あんな男たちに好き勝手されるなんて許せなかった。
とにかく早く強くなりたくて、死ぬ気で戦い方を覚えた。最初はゾンビを撃つのにも抵抗があったけれど、段々と麻痺して行った。ゾンビに噛まれた仲間も躊躇なく撃てるようになるのも、あっという間だった。
そして、月日が経ち、そこで一目置かれるようになった頃、事件が起きた。
「……芳親……」
俺達の部屋から叫び声が聞こえて来て、駆けつけると、男が半裸で倒れていた。一人は腹を刺され血まみれで、一人は首を撃たれて死んでいる。
「なんでだよ……ぐっ……お前みたいなの、抱かれる以外!何の役に立つんだよ!!お前と蒼陽まとめて飼ってやろうとしたのによぉ!」
男は、ベッドの上に居る芳親からフラフラと離れて行く。ナイフが小さく傷は浅そうだ。
「ふざけるなっ!!」
俺は燃えるような怒りに支配されて、まだ生きている男の頭をうちぬいた。
ザワザワと廊下が騒がしくなった。
ここでは、武器を使った喧嘩は禁止だ。ましてや、殺しはご法度だ。原因はコイツらであっても、罰を受けるのは俺達だ。
今度こそ本当に……芳親が危ない。
「逃げよう!」
俺は、武器を装備して、焦点が合わない芳親の腕を引いてアジトを抜け出した。夜を迎えた外は所どころでゾンビの気配を感じた。
この世界で子供二人だけで生きるのは大変だった。でも休むわけにはいかない。ゾンビと戦い、食料を探し移動を続けた。
その間も、芳親は嫌な顔一つしないで天使みたいな笑顔で笑っていた。
俺は何度も笑っている芳親を抱きしめた。そうしないと、消えてしまいそうな気がした。
「……連れて行けない」
ある日、芳親が犬を連れてきた。昔、平和だった頃にテレビで見たことがある、クリーム色の柴犬だった。犬の面倒なんて見ている余裕なんて無い。何度か芳親が寝ている間に捨ててきたけれど、犬の鼻は優秀で何度も戻ってきた。
しかし、よく躾けてみると犬は、とても優秀だった。ゾンビの匂いを嗅ぎ分け、夜もいち早く危険に気がついた。
「コイツの名前……どうする?犬といえば、ハチとかシロとか……ジョンとか?あー、ポチとか?」
「ワン!」
「ポチ?」
「ワン!」
「芳親、こいつポチだってよ」
ポチは俺達の家族になった。
街の荒れたショップで犬の首輪になりそうな、ピンクゴールドのアクセサリーを見つけた。
細長いタグにポチの名前を彫って付けた。
大変だったけれど、この頃の日々が、一番幸せだった。
だけど、平和だった世界が激変したように、ささやかな幸せも長くは続かなかった。
近くの生存者グループがゾンビにやられ、大量の人間がゾンビ化した。
中には戦闘に長けた若い者も沢山いた為に、周囲に暮らしていた野良の人間達は、軒並みゾンビに襲われ自らもゾンビになった。
「芳親!ポチと逃げろ!」
軍服姿の手強いゾンビ二体を相手に、真夜中に廃ビルの中で命をかけた追いかけっこをして、足を負傷した。
何とか倒したけれど、もう一体いる。今回ばかりは、やばいかも知れない。必死に怪我を隠して、手近にあったテーブルに座った。
「良いか、できるだけ遠くへ行くんだぞ。ポチを頼む」
「……」
いつもは直ぐに指示に従う芳親が動かない。ポチは芳親の顔を必死に見上げている。
「急げ!俺が戦っている間に、裏から出るんだ!終わったら追いかける……分かったな」
芳親の手に銃を握らせた。芳親とポチが出て行ったらゾンビをおびき寄せよう。
自分がゾンビにならないように、噛まれる前に倒さなければ。たとえその後死んだとしても。
「……芳親」
これが最後になるかもしれない。芳親の顔を見つめた。
本当に天使みたいだ。綺麗で純粋で……汚れない。どんな過酷な状況でも文句もいわず、微笑んでいる。そう今みたいに。
今までずっと、芳親の心は少し遠くにあると感じていた。
「今までありがとう」
ついに芳親の笑顔以外見ることが出来なかった。それが少し寂しい。
「……」
芳親がまた俺に微笑み、背伸びをすると、俺を抱きしめた。
「芳親?」
俺が驚いていると、芳親は俺に手を振り……ポチに向かって顎をしゃくった。
裏口にではなく、先ほど入って来た扉に向かって。
「お…おい!何をする気だ!芳親!やめろ!戻れ!!」
芳親は、俺の行く手を塞ぐように椅子やテーブルを倒して、ポチとともに走り出した。
追いかけようとするが、足が言うことをきかない。
「芳親!!」
遠くで銃声とポチの激しい鳴き声がする。
その声は、段々と遠ざかって行く。まるで俺からゾンビを遠ざけるように。
その夜、俺は必死に芳親とポチを探したが、途中で意識を失ってしまった。
あの後、どんなに探しても、芳親もポチも見つからなかった。
死体も、それらしいゾンビにも出会えなかった。
□□□□
月日が経っても、芳親とポチを失った後悔は消えるどころが、降り積もる雪のように深くなっていった。
もし、あの時……俺がもっと強ければ。
芳親とポチを逃がすのではなく、一緒に戦う判断をしていれば。
もし……。
何度か、俺も死んでしまおうかと思ったが、芳親とポチの死を確認したわけではない。
まだ、どこかで生きているかもしれない。
どこかで苦しい思いをしているかもしれない。
だから、まだ生きている。
積極的にゾンビ退治に参加し、この地域や周辺をまわっている。
今回は、この周辺で有名な戦闘グループとの狩りだ。
最近では、日本刀の若手が出てくることが多かったらしいが、今回はボスが来るらしい。
合流するために、一日早く相手のグループの拠点へと向かった。
その途中、近くでバイクを止めて昼食を取り、少し休憩をした。
もうすぐ季節は秋だ。秋になるとコスモスを見かける。人類が減ってもゾンビが徘徊しても、強い花は生き残り、自生している。
芳親が花を摘んで、俺の髪に何本も挿して遊んでいた。自分の方が似合うのに…。
「……」
思い出に浸っていると、寄りかかって座っている塀の向こうから、騒がしい音が聞こえてきた。
ふと見上げると、塀の上を猿が走り、向こう側の建物の屋根に飛び移った。
町中を動物が走り回っているのは、珍しい光景じゃ無い。
興味を失って再び前を向いた時……人の気配がして、もう一度塀を見上げた。
「うぁああ!」
そこには、少し藤色にも見える、淡いピンクの髪の青年が居た。
色の白い卵形の顔に、大きな瞳、まさに……芳親が成長していたら……こんな風になっていたと思うような姿だった。
一瞬、都合の良い幻でも見ているのかと思い、数秒間は動く事が出来なかった。
その間に青年は、昇った塀から飛び降りて、走り去る足音が聞こえた。
「……まっ……待って!!」
慌てて、高い塀を乗り越えたが、既に青年の姿は無かった。大して時間が経っていないから、近くには居るはずだ。
名前を呼んだが反応は無い。
周囲の物陰を確認しながら、そういえば……今の青年は叫んでいた事に気がついた。
どう見ても、芳親だったと思う……彼は声を出せるようになったのだろうか?
なぜ逃げたのだろう。
もちろん、芳親が俺を覚えていない可能性もある。俺は、彼と離れてから急激に身長が伸びたせいで印象も違うから気がつかないかもしれない。
もし……男達に酷な扱いを受けて、恐れているのだとしたら?
気持ちが焦り、つい呼びかける声の語気が高まる。
直ぐ目の前のコンビニに入り、中を探していると猫が出てきた。
何だ…猫か……ポチではない。
更に奥を探しに行こうと足を踏み出すと、少し離れた場所で銃声が聞こえた。
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