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戻れません
しおりを挟む「ポチ……朝だよ」
豹兒が、俺の側にやって来た。ちょっと頬痩けた?俺にご飯もってきてくれるのは良いけど、自分は食べているのだろうか?
豹兒は食事のトレイをジフのベッドに置くと、俺の背中に腕を差し入れて、俺の体を起こした。
俺は、それを目の前で見ている。
そう、目の前で見ているのだ。
幽体離脱ってヤツでしょうか?
現代日本の芳親の元から帰ってきたのは良いのだけれど、体に戻れていません。
いや、俺も色々と努力したんです。とにかく本体と重なってみたり、突撃してみたり。
でも、もう二週間ほど経ちました。
俺の本体は、魂がぬけちゃったみたいに、機械的にお世話されて生きている。ご飯を口に運ばれれば食べるし、もよおせばトイレに行く。最低限のプログラムをされたロボットみたいだ。
「ポチ、具合は?」
豹兒が俺の首、腕、色々とチェックしている。もう傷はすっかり塞がっているんだけどね。
そもそも、俺はなぜゾンビになっていないのだろうか?お医者さんみたいな人が来たときに、傷が綺麗に治って包帯を取ったときに「最後の世代だからな」と言っていたのだけど……それって、俺には傷が治るチートあるって事?
全然しらなかった。ゾンビになったのかと思ったよ。
というか、傷治るなら、俺、もとの体に戻ったら最強の戦闘要員なんじゃない?いや……痛いのは凄くいやだけど、仲間を守るためなら、弾よけでも何でもする。まじで……怖いけど、誰かが死ぬよりは全然良い。
「ポチ、口開けて」
豹兒が俺の口に、雑炊をフーフーして運んでくれている。
『もういい加減、あーんって言いなよ』
俺の意思が反映されるなら口を開けないんだけど、残念ながら体は裏切って口を開けている。
んー、いい加減、この介護され状態から離脱したい。幽体離脱からの離脱。
「……水飲む?」
甲斐甲斐しく俺の体を世話する豹兒が、ストローの刺さったコップの水を差し出すと、俺の体が素直に水を飲んでいる。あぁ……つまらないし、申し訳ない。どうやったら戻れるんだ……。
『豹兒、もういっそ俺の事ぶっとばしてみて!』
「はい、口開けて……どう?レッドが力作って言ってた」
相変わらず食事介助を続ける豹兒。優しいがすぎる。大変だろうに……目が凄い優しい……。
『はっ!豹兒、キス!キスだよ!こういう時は、キスで目が覚めるって定番だよ!』
俺は白熱して豹兒の前で力説するけれど、まったく聞こえないし見えない。
もう……寂しい。
『キッス!キッス!!豹兒!!』
俺は出口の見えないこの状態にヤケクソになってきていた。
□□□□
「よぉ……ポチ、元気か」
夜になり、ジフがやって来た。初めてだ、この世界に戻ってきてから初めてジフを見た。
『ジフ……なんだか……雰囲気かわった?なんか……闇オーラ出ているよ』
元々凶悪な顔をしているけれど、今は何だか、以前よりもっと暗く見える。なんでだろう?何か困りごとでもあるのだろうか?ぜひ、ここで語ってくれ。心配だし、俺この体から離れられなくて、凄く暇なんだ!
ジフは俺の体が座っているベッドの横に丸椅子を引き寄せて座った。
長い足の上に肘をのせて俯いたポーズで、話を切り出そうとしてはやめて、また俯いた。
『ジフ、どうしたの?なんかあった?』
俺はジフの横に立って、その大きな肩に手を置いた。
すると、顔を上げたジフが俺の体を見つめ、口を開いた。
「ポチ……悪かった……お前を……殺そうとして」
『っ!』
ジフの大きな手が、遠慮がちに俺の手を握った。
「お前……ゾンビにならないのに……俺は……お前を殺すところだった」
『ジフは悪くないよ!!』
ジフが……苦しそうに話している。俺は、今ほど言葉が届かないことをもどかしく思ったことは無い。だって、ジフは何も、何も悪くない。たとえ俺を殺していても、ジフは悪くない。
「しかも……できねぇし……俺がやってやらなかったから、お前自分で……したんだろ?怖がりで、情けねぇのに……悪かった……」
ジフが泣いている。
顔をしかめて、怒っているみたいな表情で泣いている。
それをみていると……とても胸が痛い。
『ジフは……悪くないって……謝らないでよ……』
ジフの背中に抱きつきたいけど、そうしてもすり抜けてしまうから……できない。
「……でも……よかったぜ……俺がやってたら確実にお前、死んでるからな……良かったぜ……俺が怖じ気づいて」
ジフが俺の体から手を離して、天を仰いだ。ジフの頬に涙が流れている。
『ジフー!!ジフー!』
俺はもうボロボロに涙が流れている。
優しすぎる……ジフ、優しすぎるよ。
「殺さなくて……良かった……お前が生きていて嬉しい」
ジフは鼻を啜り、いつもの引きつった笑顔を見せた。やばい……なんか、ドキドキする。
「それにしても……お前は、いつ生意気な犬に戻るんだ?」
『それは俺が聞きたいよぉ……なんかやってよ、ジフ……俺が目覚めるようなこと』
俺の言葉は聞こえていないけれど、ジフがうーんと悩み出した。
「おっ!キスしてやろうか?」
ジフがニヤニヤわらって、俺の頬に手を当てた。
『ちがーーう!!ジフじゃ無いし!そんなオッサン王子いないよ!いや…王子っていうか、王様じゃんもう。いや……王様でもないな……ボスとかお頭とかそういうのだよ』
俺が体とジフの間に必死に手を突っ込んで止めたけど、ジフの顔がどんどん近づいてくる。
『ジフーー!!』
ジフの唇が、俺の目前まで迫る。
おい、おい、おい!弟分の恋人に何てことをしようとしているんだ!緩すぎる!色々緩すぎるぞジフ!
俺が相当焦っているなか、俺の本体が……何だかブルブルって震えて……。
「へくしゅん!!」
ジフの顔に、くしゃみをお見舞いした。ナイス!体、ナイスだよ!
「くそっ……ポチ…てめぇ……今顔洗って来たんだぞ!」
ジフが立ち上がって、ブツブツ文句言いながら部屋を出て行った。
□□□□
ジフと入れ替わるように、ガチャと部屋のドアが開く音がして、豹兒が入って来た。
「ポチ?今……ジフが出て行ったけど……」
そうなんだよ、あのおっさん危険なんだよ。
「ジフ……ずっと、ポチに会えないって言ってた……」
うっ……前半の殊勝な感じは俺も涙したんだよ。でも……最後、緩いんだよ!
覚えていろよ、ジフ!
「ポチ……」
豹兒が、俺の頭を撫でてくれている。
見ているだけで、すごい気持ち良い。いいなぁ、俺……なでなでされたいな。
あぁ…もう、早く元に戻ってよ、早く豹兒に抱きつきたい、話がしたい。
「ねぇ、ポチ……そろそろ、起きてよ……ポチがしたいこと……何でもする」
豹兒が可愛い事いいだした。もう我慢出来そうも無い。
「恥ずかしい事も言うし、やる……起きなよ……」
そして、豹兒が俺にキスしようとして……辞めた。
おーーい!!しなよ、キス!してよ!
「……ポチに…キスしたい……でも、ポチが……死んだらしろって言うから……俺は、絶対にしない」
豹兒は、悲しそうな顔で、俺の唇を撫でて頬にキスをした。
俺は、自分の言葉を思い出して、胸が痛くなった。
ごめん……豹兒……余計なこと言って、ごめん。
豹兒を抱きしめたい。
キスしたい。
馬鹿な事やって、豹兒の笑顔が見たい。
こんなの……一緒に居るって言えないよ、もう嫌だよ。
戻りたい。
芳親の……今はポチの体に帰りたい。
俺は、豹兒と自分の体を抱きしめるように飛びついた。
「……ひょう、じ……ん…」
「ポチ!?」
「あっ……あれ?」
あんなに頑張っても戻れなかったのに……いつの間にか……体に…もどった。
瞬きできるし、腕も動くし。
元に戻った!!
「ポチ!!」
豹兒が大きな声で俺の名前を呼びながら抱きついたので、耳がキーンとなった。
痛い。逞しい腕が容赦なく、ギュウギュウに俺を締め付ける。
でも……悪くない。
「ただいま、豹兒」
「……ポチ」
腕を緩めた豹兒が俺の頭を掴んで引き寄せると、唇に噛みついた。
「……んっ……」
荒々しく何度も唇を吸われ、押しつけられて……苦しくなって開いた所に、舌が入って来た。
俺も、豹兒への気持ちが溢れて、腕を豹兒の首に巻き付けるように密着して、二人で顔を左右に入れ替えたりしながら、夢中になってキスをした。
「………ひょ…じ…」
好きって言いたい。
でも、離れたくも無い。
「ポチ……ポチ……」
興奮して俺の名前を呼ぶ豹兒……色気ありすぎてヤバい。
このまま……押し倒したい。
「好き……豹兒……好き」
「……ポチ……行くよ」
豹兒を何とか押し倒そうと、その逞しい体を押していたら、突然抱き上げられた。
そして、そのままお姫様抱っこ状態に変えられた。
「ん?え?何処へ?」
あっ!野暮な事聞いてしまった!そりゃあ、セックスできる所に決まっているよね!
ここだと、誰が来るかわからないもんね。
でも……この体勢は頂けない。
「医者に診せに行く。大人しくしてて」
「は?」
俺を抱き上げた豹兒は、スタスタと歩きだした。
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