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おかえり
しおりを挟む「おぉ……戻ったか」
白髪交じりの人の良さそうなおじさんの前に来て下ろされた。この世界に来て逆に中々見ることの無かった、普通の人だ。安心感が半端じゃない。使われていなかった一階の部屋は、俺が幽霊になっている二週間で、簡易的な診療所ができたみたいだ。
「はじめまして、お世話になりました、ポチです」
俺は、座らされた丸椅子で先生に頭を下げた。
先生は、俺を微笑んで見つめている。
「まぁ、魂が抜ける前の君とは一緒に生活してたんだけどな」
魂が抜ける……えっ……ちょ……この先生どこまで知っているの?
俺が異世界から転生してきたってわかっているの?
「……えっと……そのぉ」
「君は、最後の世代の子供だ。最後の世代の子は、どの子供も生まれたときから心ここにあらずな感じなんだが……そのうち、魂が抜けたように動かなくなる」
先生が説明をはじめてくれた。
ゆっくりと、俺の顔を見ながら理解しているか確認してくれているみたいだ。
「それから……突然、人が変わったように動き出した。……最初は、ゾンビウィルスが発症したのだと皆殺された。だが……ある一人の被験者の子は、騒ぎも、暴れもしせず非常に聡明な子に変わった」
先生の目が何だか少し悲しそうに遠くを見た。
「それから、私は、彼らは魂が交換されたのではと考えた。だが、もうその頃には生きている最後の世代は、その子と、犬と一緒に保護された君だけだった。だから正確な検証なんて出来ないがな」
「……」
「君は、ずっと私たちと暮らしていたんだが、ポチが死んでしまった後、行方不明になった……それから君になったのかな?」
「……」
俺は、違う世界から来たと言うかどうか迷った。ただ……ここが小説の世界だとか、そういうことまで言うのは何だか気が進まない。だから……口を閉じた。
「まぁ、その辺はどうでも良い話かもしれんな」
「あの……その人は今どこに?」
俺の先人、別の世界からきた人になら、色々話ができるかもしれない。
「つい最近亡くなったよ」
先生の表情、声からも、彼が先生の大切な存在だったことは伺える。
「……どうして」
聞いてしまってから、もしかして無神経な質問だったかと不安になった。
「……君たちは、傷の治りが早いだろ?でも、それも……永遠じゃ無いし、万能では無い。大きな怪我をすれば暫くまた魂が抜けたみたいに過ごすし、戻ってからも、なんだかボンヤリする時間が増える。彼は、一回目は野生の動物に襲われて酷い怪我を負ったけれど治った。二回目は、朽ちた建物の落下物で大けがをして……怪我は治ったのに、目が覚めず、心肺停止になった」
隣に立っている豹兒が俺の肩に手を置いた。
「だから、できるだけ、再生能力が使われないように過ごした方が良い……症例が一人しかないから、君が今後どんな経過を辿るかも未知数だ。過信しないほうがいい」
「はい」
俺は、頷いて返事をした。
「まぁ、何はともあれ、戻って来れてよかった。大事にしなさい」
柔らかく微笑んだ先生の目は、俺よりも、もっと先の別の人物を見ているようだった。
□□□□
先生に一通り診察されて、部屋を出た俺と豹兒は、寝室へと向かった。
「あーあ、俺……怪我治る脅威能力を手に入れて、皆の弾よけになれると思ったのになぁ」
階段を上りながら、ガッカリした気持ちを素直に吐き出した。前を歩いていた豹兒が止まって振り返った。その表情は眉間に皺が寄っている。
「冗談でも、言わないで」
豹兒が俺の顔に、顔を近づけて言った。美形の圧力が強い。サラサラ流れたセンター分けの前髪が美しい。
「だってさ……」
まじで、俺、ここの役に立っていないことが心苦しいんだ。
「ポチが、首切って倒れた時……俺がどんな気持ちだったと……」
腰を抱き寄せられて、至近距離で睨まれた。
うぅ……普段静かな人が怒ると怖いって本当なんだ。
「自分で自分を殺したくなった」
「ご…ごめん」
「今度、もし、此処で戦闘が起こる事になったら、檻に閉じ込めて置くから……」
俺の耳元で超低音で囁く、豹兒。
「えっ……じょ、冗談だよね?」
「……」
豹兒の秀麗なお顔が、ニヤっと笑った。
俺の心臓がドコドコと五月蠅くなった。怖いけど……メチャクチャ格好いい。
「俺……ジフより強くなる、医者より賢くなる。蒼陽よりポチを想うし、レッドより旨い飯を作る。何でもするし……なんでも出来る……ポチが居れば」
「……」
俺の口は、開いたまま、あわあわと動いている。なんだろう、このプロポーズみたいなヤバいやつは。
「誰にも奪わせない……ポチにも、殺させない……わかった?」
豹兒の強い眼差しが、俺の目を捕らえて放さない。
「はい」
俺が返事をすると、豹兒は口角だけ上げて微笑んだ。
心臓が搾られたみたいに苦しい。豹兒が……素敵過ぎる。
□□□□
翌朝、目が覚めると、ジフと蒼陽とレッドが俺のベッドを囲んでいた。
「え?なに、この状況……おはよう」
右側にジフと蒼陽、左側にレッド。みんな大きな体を小さくして二段ベッドの下の段を覗き込んでいる。
「ほんとに喋った!!ポチ!!」
「……よかった」
レッドが俺の首をしめるように抱きつき、蒼陽が俺の手を握り泣きそうな顔で微笑んでいる。
「……」
ジフは、難しい顔で俺を見ている。
「みんな……心配掛けてごめん」
レッドの背中をポンポン叩いて、蒼陽の手を握り返した。
そして、ジフに向かって微笑んだ。
「もう……ポチが居ないと、ここの奴ら皆、暗い暗い。闇の一族みたいだったし、誰も喋らないし!とにかくポチが無事で良かったよ!」
レッドが俺の体から離れて、身振り手振り話した。
「ポチは、みんなの太陽だね」
相変わらずの爽やかな笑顔で蒼陽が笑った。いや……太陽は蒼陽でしょ。目が潤んでいる分、笑顔がキラッキラだよ。
「……まぁ、あれだな。家には役に立たない馬鹿な犬を一匹くらい置いてやっても良いな」
立ち上がろうとするジフの手をギュッと掴んだ。
ジフが……俺にしてくれようとした事、思い出すほど……泣きそうになる。
誰もが嫌がる俺の始末をしてくれようとした事、一緒に逝ってくれようとした事。
でも、最後は優しすぎて、生かしてくれた事。
本当に……ジフは、ジフだ。俺の憧れた。
「犬には帰巣本能っていうのがあるらしいよ。帰って来ちゃったし、しっかり面倒見てね。五月蠅いし、馬鹿だし、ワガママだけど、ちゃんと可愛がってよ」
どや顔でジフに言ってみた。
「……レッド、捨ててこい」
「兄貴!もー、素直になれないっすね」
「ポチ、すぐ拾いにいくから安心して」
蒼陽が俺にウィンクした。凄い様になるのに笑ってしまう。
「ったく……また五月蠅くなるぜ……」
ジフは、振り向くことなく、ポケットに手を突っ込んで、肩で風をきって歩き出した。
「今、兄貴泣いてたよ、絶対」
「ジフ、あれでいて結構涙もろいタイプですよね」
「優しいよね」
俺達は愛すべきリーダーを思い、三人でうんうんと頷いた。
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