あの時、君の側にいられたら 【恋愛小説】

いんげん

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第七話 平会 〜お花畑を探せ〜

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 最近、平 詠臣の様子がおかしい。士官学校からの友人、岡前はそう感じていた。

 平といえば、常に冷静沈着。笑うことも怒ることも無い男だった。どんな過酷な訓練も、無理だと思われる試験も、いつも涼しい顔で完璧にこなしていた。成績は常にトップ、同期の期待の星だ。
 平は成績だけではなく、人柄も良く周囲から慕われていた。後輩の面倒見もよく、誰にでも紳士的に接する姿は、まさに軍人の鏡だった。

 外見的にも注目の的で、体格の良い男が多い軍隊の中でも一八四㎝の長身で、鍛えられた肉体、女性に好かれそうな男らしくも涼やかな美貌を持ち、公開される訓練には、平目当ての女性が枚挙して訪れた。
 しかし、硬派な平は彼女達に目もくれなかった。そこがまた同胞達の支持を高めた。
 それなのに……。

「おい、岡前。昨日の平のアレはなんだったんだ、お前、同期だろ? 何か聞いていないのか?」
 朝一番から、岡前は上官たちに囲まれた。
「さっぱり分かりません。自分も凄く驚きました」
「……だよな、あの平が……女性を待たせてるって……」
「フライトスーツのまま基地を出て行ったのを女性隊員が見ていたらしい」
 上官たちも首を捻っている。
「そうえば、そもそも、あの日の帰りはいつもよりフォーマルなスーツを着てました」
「デートか」
「デートだな」
「本気の女だ」
「平をあそこまで本気にさせる女って……見てみたいな」
 隊員達の想像は膨らむ一方だった。

 そして、数日後、訓練が終わりロッカールームで着替えをしていると、岡前の隣でスマホを取り出した平が目を見開いていた。
「どうした、平」
 何か問題でもあったのかと岡前が平らの肩を掴んだ。
「……連絡が来た」
「誰からだ?」
 驚きながらも、何処か嬉しそうな詠臣に、岡前は好奇心を抑えきれなかった。
「……遠足」
「っ⁉」
 岡前には、さっぱり話が見えなかったが、初めて見る詠臣の笑顔に驚きと興奮が隠しきれない。

「平……それは……あの日の女性か?」
「あぁ」
 平は、そのメッセージに何度も目を通すと、何やら急いで検索し始めた。
「彼女か?」
「まだ違うが、そうなりたい」
「おぉい! どっ……どんな、どんな女性なんだ」
 岡前は平に横から抱きついた。平が冷たい視線で彼を見下ろしている。
 男でも見惚れる、ゾクゾクする冷たい眼差しに岡前がたじろぐ。

「黙秘する」
「何でだよ! 遠足ってなんだよ!」
 岡前は平のスマホを奪おうとするが、身長は十センチしか違わないのに、腕の長さが違うために全然届かない。
「彼女と花畑に行く」
「花畑! なんだそれ! おまっ……いや、花畑も似合うけど……えっ……場所は何処だ?」
「黙秘する」
「おーい!」
 平が岡前を無視して、ジャケットの内ポケットにスマホをしまった。
「では、お先に失礼する」
「おい! 平! その話、詳しく!」
 岡前の叫びむなしく、平は颯爽と帰って行った。

 その日、空軍神奈川相模航空基地のメンバーは、行きつけの店で平会が開かれた。
 それぞれの、目撃証言と新情報が交換された。

「どういうことですか⁉ どこの女ですか!」
 一番燃え上がって怒りを露わにしているのは、士官学校で平らの一つ下だった女性隊員の飯島だ。ベリーショートの似合う男気のある美しい女性だ。同じ女性からの人気が高い。
「落ち着け、飯島」
「落ち着いていられますか! 平先輩の彼女は私以外には考えられない」
 飯島がウーロン茶をあおりながら立ち上がった。

「お前……もう四回振られてるだろう……あースイマセン! ごめんなさい!」
 岡前が飯島におしぼりを投げつけられている。
「デートが遠足で花畑? どんな脳細胞の女だ! 先輩は絶対に騙されている! 青年期からずっと士官学校から軍隊という特殊な環境に置かれ、女を見る目が養われなかったのよ! だから、どこの馬の骨ともわからない小賢しい女に……」
 青年期からずっと軍隊にいる男達が、飯島の言葉に胸を痛めている。

「で、何処なんですか!」
 飯島が岡前の肩を掴んだ。岡前の方が先輩だが、ヒエラルキーは逆転している。
「わからないです」
「思い出しなさい! なにか情報は無いの⁉」
 飯島の美しい上腕二頭筋が唸り、岡前の肩を揺らし頭をガクガクと刺激する。

「あーあー、あー、なんか……そういえば、あのピンクの花とかの画面だった気が……」
「ピンクの何の花なのよ!」
「し、しらない花なんて興味ないし……」
「あの、この時期ならコスモスとかじゃないですか? 王道に」
 店の手伝いをしている大学生の店主の娘が、空いたグラスを下げながら会話に参加した。

「みのりちゃん!」
 飯島は岡前を放り出して、彼女の手を優しく掴んだ。
「遠足的な距離で、わざわざ出向く位の規模のコスモス畑……車ですか電車ですか?」
 二人の女性の視線が岡前に注がれた。
「えっ……あーー、あ!!そういえば、平は駐車場検索をしていた!」
「よし!」
 みのりが店のエプロンからスマホを取り出して検索を始めた。
 飯島とみのりの推理合戦が始まった。
 男性隊員たちが恐怖と好奇心で見守っている。

「間違いない、ここだわ」
 ついに、平らの目的地が特定された。
「岡前先輩。今週末、非番ですよね……」
 飯島の目が光り、岡前をロックオンした。

「あっ……いや……違うかな……」
「岡前は非番だ」
 上官が自分に火の粉が掛からないように、岡前を尊い犠牲に差し出した。
「朝、〇七三〇にピックアップします。小回りが利くようにバイクで」
「……まじか……お前、あの大型だろ…」
「感謝して下さい、尻にのせてさしあげます」
「……」


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