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第八話 遠足へ出発
しおりを挟むその日は、よく晴れて予想最高気温も高く、絶好の遠足日和だった。
(ドキドキする……よく考えてみたら、琳士と匠さん以外で男性と一緒に出かけるなんて生まれて初めて)
寧々は、約束の時間の二十分前には準備が終わり、玄関でウロウロとしていた。
昨日の美怜との電話で植物公園に遠足に行くと話したら、絶賛された。若い男子のまったく興味なさそうな良い線をついたと。きっと周囲には中高年しかいないだろうと。
自信が湧いてきた寧々は、朝早起きをして、弁当を作った。
思い起こされるのは、琳士の言葉だ。男は、とにかく茶色い物が好き。肉、とくに唐揚げとか、とんかつとか脂っこい食べ応えのある肉が好きだ。寧々のその葉っぱばっかりのサンドイッチは食べた気がしないでしょっと。
(あえての野菜盛りのサンドイッチと、野菜スープ。とても淡泊でサッパリとしたチキン。お爺様に沢山送られて来たフルーツで作ったフルーツサンド。これでもかと、女性目線にしてみたし……荷物はとても重くなったし、美怜ちゃん! 私……凄く残念な人になるように、頑張ってるよ!)
しかし、折角のお休みにこんな嫌がらせをされる詠臣に、申し訳ない罪悪感が募った。
ソワソワするのと相まって、深いため息が出る。
そして、ついに家のインターホンが鳴り、寧々は慌てて玄関を開けた。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
寧々は、玄関の鍵をかけて荷物を抱えて門の前で待つ詠臣へと駆け寄った。
「急がないでください、危ないです。あと……お一人なら、なおさら相手を確認してから出て来て下さい」
「あっ……すいません、あの、凄く早く用意が済んでしまって、何だかソワソワしてしまって、玄関の中でウロウロしてて……」
言葉にしてから、自分は今すごく余計な事を言ったのではないかと恥ずかしくなった。
詠臣の顔が、ほんのりと紅い。
「参りましょうか」
「はい」
詠臣の車は、アウトドア派に人気の高い4WDで車高が高く、車内も広かった。
普段、祖父の車にしか乗らない寧々は、物珍しさにキョロキョロしてしまった。
「すみません、もっと綺麗にすれば良かったです」
運転中のため詠臣が前を見ながら謝った。
「いえ、すいません。そういうんじゃなくて、お爺様の車とタクシーくらいしか乗らないので、興味深くて。私も免許取ろうかな」
「もし取得したときは練習に付き合います。空将のお車での練習は、勇気が必要です」
詠臣が少し微笑んだ。
今日の彼は、お見合い写真のような軍服姿でもなく、先日のようなフライトスーツでもない、アウトドアブランドのマウンテンパーカーにズボンという、カジュアルな格好で年相応の若さに見えた。しかし、それでもなお、同世代の男性とは一線を画した落ち着きだ。彼の崩れることのない正しい姿勢の為なのか、殆ど変わらない表情のせいか。
「平さんは、車も乗れるし空も飛べて凄いですね」
「軍の周辺の空は、とても空いているので車より移動しやすいです。出動の時は旅客機も全機高度を上げて離れます」
「そうなんですか」
もっと緊張して気まずい空間になるかと思った車内は意外と和やかだった。
「寧々さんの大学生活はいかがですか?」
「私の?」
「はい」
「楽しいです。勉強も、学生生活も。美怜ちゃんというお友達が、とっても美人で素敵で面白いです。平さんとお見合いするときのお洋服も美怜ちゃんが選んでくれたんです」
寧々の頭の中に、美怜の指で表現した馬が走りさって、思わず笑ってしまう。
「とてもお似合いでした」
(どうしよう、お世辞って分かってても、嬉しい。すごく恥ずかしい)
熱くなった頬に風を送る為に、手でパタパタと顔を仰いだ。
「平さんの士官学校はいかがでしたか? テレビで特集をみたら、凄く大変そうで驚きました」
世界各国どこの国にも海竜と戦う軍隊がある。日本の軍の歴史も長く、士官学校の歴史も長い。現代では高校卒業後、特定の軍の大学に四年通う幹部候補生と、二年通う一般兵士の学校がある。
「恐らく寧々さんが見たのは、二年制の方です。大学は四年あるので余裕がありました。勉学に訓練、それに研修で充実していました。学校に通っているだけで給料も発生してましたし手厚いです」
幹部候補生の大学は入学からして狭き門で、決して余裕がある学生生活ではない。しかし、詠臣の認識は周囲の学生とは違った。
「毎日早朝から走り込みじゃないのですか?」
「ランニングはありました。土日は休みです」
「徹夜で山登りとか、三日間生き残りをかけたサバイバルとかは?」
「そういえば、ありましたね。サバイバルは壮大な鬼ごっこのようで楽しかったです」
寧々は、ふと祖父の言葉を思い出した。
(そういえば、平さん。士官学校を首席で卒業って……規格外なのかな?)
じっと平のことを観察する。
恵まれた体格に、鍛え上げられて厚くなった胸板と腕、人目を惹く容姿。落ち着いた紳士的な性格。なぜ自分は、こんな凄い男性の隣に座っているのかと不思議に思う。
(お爺様の孫だからか……もし、私が平さんの馬にならなかったら、彼は他の人を探すんだよね……)
少し寂しく思う自分の考えを散らすように頭を振った。
「少し、休憩しますか?」
「いいえ、大丈夫です」
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