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恋愛感情
しおりを挟むいつの間にか、うたた寝をしていた。
暑さで僕が目を覚ますと、夕太郎が隣に寄り添って眠っていた。うつ伏せに眠る僕の背中に、夕太郎の太い腕がのせられている。
「……オハヨ」
夕太郎が、そっと息を吐き出すように微笑んだ。部屋の中は夕日で、オレンジ色に染まっている。夕太郎は、じっと僕の目を見つめている。
「夕太郎、やっぱり、すごい綺麗な顔してるね」
輪郭も、男らしい眉も、くっきり二重の切れ長の目も、色気が溢れている。草臥れたつなぎや、安いビーサンで出歩いても視線が追いかけてくる。
「でしょ、愛していいなら、好きになって良いよ」
背中から腕が離れ、夕太郎の親指が、僕の頬をそっと撫でた。
「……」
僕は、ノスタルジックな気分になって、心がジワジワと溶けていくように感じた。何処か懐かしくて、愛しいような。ふと、養護施設の二段ベッドに寝転んでいる気分になった。
「愛して欲しいとは言わないよ。相手の愛は重要じゃないし。自分の中に誰かを愛する気持ちがあれば、それで良いんだ。でも、理斗も俺に恋くらいしてよ」
先ほどまで優しい笑顔に見えた夕太郎の顔が、寂しく映った。
「僕は、恋愛とかまだ」
「ちょ、ストップ!」
僕の話は、夕太郎の声に遮られた。僕の唇が、夕太郎の二本の指でつままれた。
「恋愛感情なんて、案外簡単に生まれるよ、ちょっとチューでもしておく?」
夕太郎が体を寄せて、僕に顔を近づけた。
「馬鹿じゃないの、しないよ!」
僕は、夕太郎の顔面を手で押し返し、体を起こし胡座をかいた。
「えー、キスもハグも、セックスも温かくて気持ち良いよ。理斗がお仕事から帰ってきたら、毎日してあげるからね」
床に左肘をついて、寝転び微笑んだ夕太郎は、自分の顔が美しい自覚を持ってやっていると思う。
「いらない! 僕は、とりあえず、色々思い出すまで此処に置いて貰えれば、それで……」
「そうなの? つまんないなぁ。理斗ってキリッとした男らしさあるのに、赤ちゃんぽい可愛さもあって、食べちゃいたいんだけど」
匍匐前進するように夕太郎が、僕に近づいた。胡座を掻いた僕の股間近くに夕太郎の手が伸びる。
「なっ……たっ、食べ……」
「気持ち良くて、泣き叫んじゃうかもよ」
僕の股間を包み込むように、ズボンの上から夕太郎の手が添えられた。
「うわっ、こらっ! 触らないで!」
僕が、夕太郎の頭をバシバシ叩き、金髪が揺れた。「いてっ、いたい」と頭を押さえた夕太郎が、泣きべそをかく真似をして起き上がった。
「じゃあ、たまったら言って」
「ばっ馬鹿、言わない!」
「へへへ」
「へへへじゃない!」
僕は、夕太郎の膝を蹴り、そして「お腹空いた」と呟いた。
「俺、さっきパチ屋で知り合いにプレミアムなチケット貰ったから、牛肉が食べられるお店に行こうよ」
「僕、一円もない」
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「……」
僕は、冷めた目で夕太郎を睨んだ。
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