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捜査 郵便物
しおりを挟む助手席から「速度超過だ!」と叫んでいた桜川警部補は、途中で諦めたように静かになった。宿舎の来客用の駐車場に車を滑り込ませ、運転席から飛び出した。
「松山! ロック!」
後ろから走ってくる桜川警部補が、車のロックをしろと言っているが、警察の特殊能力部門の宿舎で車の窃盗をする馬鹿が居るなら、もういっそ社会のために釣って逮捕した方が良いと思い、無視した。それに何より、一秒すら惜しい。
「先輩! 待ってました!」
俺の部屋のドアの前で小さな段ボールを抱えた戸田が待っていた。俺の後ろを追ってくる桜川警部補が目に入ると「何でお前が一緒に居るんだ!」と騒ぎ出した。
「戸田、感謝する」
五月蠅くなりそうな気配を察知し、戸田のゴツイ顔を両手で挟み、視線を合わせ礼を言った。
「ひゃ、ひゃい! おや、お安いご用です! この戸田……先輩の為でしたら」
ゴニョゴニョと歯切れの悪い言葉を吐き出す戸田から、段ボールを奪い、部屋の鍵を開けた。玄関を押し開け、リビングに駆け込み、それを、そっとテーブルに置いた。
段ボールは、片手で持てる程の重さだった。大きさもノートパソコンほどのサイズで、高さは大きめのボックスティッシュくらいだ。差出人の名前は松山理斗だが、文字は、俺の知っている理斗の字ではない。
ふと、凶悪事件に関わった際に、被害者の体の一部が送りつけられてきた事を思い出し、背筋が震えた。
まさか、そんな事は……ないはずだ。俺は、数時間前に理斗の声を聞いた。
理斗は、生きている。
「……」
俺は、馬鹿みたいに動揺していた。
「先輩」
「まず、視てみるか?」
戸田と桜川警部補が心配そうにテーブルの向かい側から俺を見ている。
「開けます。急を要するかもしれない」
俺は、呼吸を整え、震えそうになる手を握り、ガムテープを引き剥がした。
中には、折りたたまれた衣類の上に、見覚えのあるスマートフォンが載せられていた。
「っ!」
「スマホですね……先輩?」
戸田と桜川警部補が、遠慮がちに段ボールを覗き込んだ。俺は一歩下がり、自分のスマホを取り出し、電話をかけた。理斗のスマホに。
すると、目の前のスマホの画面が着信を知らせた。
「理斗のスマホだ……」
「こっ……これって、誘拐犯から送られて来たってことですか⁉」
戸田が、理斗のスマホに手を触れようとして、桜川警部補に手をはたき落とされている。
「どけ、視てみる」
桜川警部補は、手袋を投げ捨て、理斗のスマホを手に取った。彼の瞼が閉じ、中で眼球がキョロキョロと動いている。
俺と戸田が息を殺して桜川警部補を見つめて居ると、戸田に署から着信があった。俺が、アッチへ行けと手を振ると、戸田が頭を下げながら玄関の方へ向かった。
「……」
桜川警部補の目が開き、俺を捉えた。「何が見えたんですか⁉」と食ってかかると、彼は困ったような顔で考え込んだ。
「男が、この段ボールに服とスマホを詰めていた」
「それは、どんな男ですか⁉ 理斗は⁉」
「お前の弟の映像は何も出てこなかった……男は……」
桜川警部補の口が開く前に、戸田がドタドタと騒がしく駆け寄ってきた。自分のスマホを翳すように手に持ち、鼻息荒く「大変です!」と叫んだ。
「なんだ、今それどころじゃない」
「それどころかもしれません! 星野剛を殺害した、と男が出頭してきたそうです!」
「何が……どうなっているんだ」
今度は、俺のスマホが鳴っている。どうせ戸田と同じ署からの呼び出しだろうと、呆然と握りしめていた。
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